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巻機山「米子沢」
―椎名誠流「米子沢」顛末記―
大久保 哲

山行日 1987年8月8日~9日
メンバー (L)大久保、勝部、牧野、冨岡、小泉、升田、小菅、他1名

 日頃から山に関しては無精な性格の持主である私は、椎名誠の「わしらは怪しき探検隊」を読みふけるうち、場所を沢に置き換えて、自らが隊長(何とも言えぬこのひびき)となり、長老なる人物と副隊長なる人物、その他大勢を従え、ワッセワッセとくり出し、腹が減れば飯を食らい、昼寝に格好な場所を見つければ昼寝をし、夕闇せまれば酒盛りを。そんな山行がしたくなり、思い立ったが吉日で決行を8月8日、9日、目指す目的地を米子沢から巻機山へと独断と偏見で決定。早速探検隊編成に取りかかった。
 7日、22時、集合場所の品川駅の改札口、いるいる、場所と時間がらか、山やのいでたちはひとめでわかる。相変らずの牧野さんを最後に計8名の隊員が揃い、今回は急に参加出来なくなった倉林さんからのビールとチューハイの差し入れを受け取り、その大きな瞳と笑顔に見送られ(個人的にはシブシブと)品川を出発。
 今回は予定を上回る8名が参加となり、隊長の車だけでは乗車定員をはるかにオーバーとなるため、友人の堀場氏の車をも用意した。隊長の車には勝部氏(長老)、小泉(副隊長)、明美隊員(酒盛り班長)、の言わば会社でいう重役クラスが乗り込む。準隊員の堀場(別名トラ)の車には牧野隊員(食事班長)、升田隊員、そして初顔の小菅隊員がそれぞれ同乗した。
 道中は関越道をひた走り。途中、濃霧のため渋川伊香保インターから水上インター間は17号線を走る。なにせ私の車に同乗する3名の隊員は品川宿をたつと同時に運転する隊長である私を気にもせず、チビチビと始めたがチビチビも時間が立てば自然と量は増すわけで、「小キジ車両停止」を場所を選ばず何度も要求し、停車するといっせいに小走りで闇の中へ消えて行くことしばし。目的地の清水に着いたのは8日午前4時近くである。
 8月午前9時、駐車場手前の米子橋より沢に入る。前夜の雨は完全にあがり、快晴。ジリジリと日がさす中、長いゴーロ歩きが続く。10時30分最初の30mの滝につく。水量は少ないようだ。シンガリを歩いていたのでだれが始めたか知らないが、ナメ床から釜へと滑り台を始めた。これがなかなかの壮快さである。ゴーロ歩きでかいた汗をいっきに流す。老若男女を問わず童心に帰り、おもいっきりすべり落ちる。途中、別のパーティが登って来たが、我が女性隊員のはしゃぎ様を見て思わず立ち止まり拍手をおくっていた。そんな光景を見て思わず「これでいいのだ」などとバカボンのパパではなく一人ニンマリする隊長であった。何度もすべりすぎてトレパンに穴をあける女性隊員が2名いたが、先を目指す。
 先の三段40mの滝は左を捲いたが、踏跡がかなりはっきりしているが先へ先へとのびていて、注意深く適当な所で沢へ下らないと沢からかなりはずれてしまうので要注意だ。
 今回の山行の目的には「流しソーメン」を盛大に行う計画を立てていた。実際、この流しソーメンにつられて参加した隊員もいるのである。途中、格好の場所を見つけ準備にかかる。その場所は流しソーメンのために出来たかのような流れである。幅10cm、長さ3mほどのナメ床のくぼみ。さっそく第1ラウンドの準備が出来、それぞれ思い思いの場所を陣取り、ソーメン流し役の明美隊員とカメラマン役の隊長がかまえる中、息をのみ、開始を待つ隊員のハシとツユと薬味の入ったカップを持つ手に力が入る。「開始」と言ったかどうかは知らないが明美隊員がいっきにソーメンを流す。と同時にソーメンは細い流れと共に牧野、直子、小菅隊員の目前を下へ下へと流れ流れて下で待ちかまえていた勝部、小泉、堀場隊員のハシの間にすくわれてしまった。あっという間の出来事である。流れの上でかまえていた牧野、直子、小菅隊員は流れが速いためか、ハシにかかったソーメンは2、3本。まして流し役の明美隊員とカメラマンの隊長などは流れに引っかかったソーメンをかき集める結果となった。第1ラウンドはこのようにあまりにも不公平で悲惨な結果となってしまったので、続く第2、第3ラウンドは流さずソーメンにして、コッヘルに出来上ったソーメンを公平につつくことにした。
 満腹になり、ぶらぶらと思い思いに1時間ほど過ごした後、再び出発。先頭を行く小泉隊員にピッチを上げる様声をかける。途中2ヶ所ほどザイルを出したが最後のゴルジュ帯を無事ぬけ出すと大ナメが現われた。上へ上へとのびるナメは米子沢にひかれた写真と同じで壮大である。思わず感激してしまった。それぞれ大ナメを好き勝手に登りながら、最後の二俣を左へ巻機小屋を目指すが、どうやらその手前で左の枝沢に入ったらしく、ズルズルとすべりながらの詰になったが無事に巻機小屋へ着く。
 小屋には1パーティー4人がいるだけで収容定員の15名のスペースには我々を入れても十分なので、持参のツェルトは張らずに二階を確保。早速、飯の仕度に取りかかりながら、酒盛り開始。昨夜の道中で腹の中へ、そして畑のこやしと消えていったビールの量が多くて、今夜のエネルギーの源はカンビール2本、日本酒2升弱ととぼしく、この時ばかりは我先にとばかりに腹へ流し込んだ。宴もたけなわになりつつ、小泉隊員の案で持ち込んだ花火大会が始まった。いつしか登って来た男女のカップルも我々の位置より5m位離れた所で食事をしながら、さき程より見ていると何となくいいムードなのである。我々の存在などいっこう気にせず、暗闇の中に飛びちる花火の光を通して見たら、大胆にもキッスを始めているではないか。我々女性隊員の事も少しは考えろバーローと思いながらもチラチラとながめてしまった。焚火の力も弱くなるころ、一人二人と寝場所へそれぞれ消えていった。
 翌朝、少しガスもあるがまずまずの天気。朝食前に全員で巻機山と割引岳へと向かう。巻機山頂では越後三山や大源太山、苗場山などがはっきり見られ、そこからはあまり行く機会がないとのみんなの意見で割引岳に向かう。しかし立派な尾根道があるにもかかわらず、だれが先頭をいくともなしにゾロゾロと歩いていたために道を間違えてヤブコギをするはめになるが、難なく割引岳山頂に着く。そして思い思いに小屋へ戻り、朝食のカレーぞうすいうどんをしこたま腹につめ込みワイワイと下山。帰りは越後湯沢の共同浴場につかり、高速道路の渋滞にもまきこまれず無事帰京する。
 今回はのんびり、ゆったり、何事もエガッタ、エガッタの山行で十分満足出来た。「又、来年も来ようね」の合言葉で品川駅で解散しました。


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