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「個人山行・熟年者シリーズ そのI」
鑓温泉~白馬三山~蓮華温泉山行
野口 孝司

山行日 1987年8月7日~9日
メンバー 原口、野口、堀田、堀口、藤居、他1名

 今回より熟年者シリーズを毎回記載する予定です。平均年令が59才弱です、元気な人もいますが、膝に水がたまったの、腰が痛いの、ギックリ腰で調子が悪いのと言いながら、終身山行を目指して頑張っています。
 8月6日、一足早く私と堀口さんで10時発あずさ13号に乗車、白馬駅に着いたのが13時56分、バスの連絡がよく猿倉着が14時40分頃であった。手続きを済ませザックを部屋に置いてから、食堂でビールを飲み喉を潤してから散歩に出る。
 天気は前日まで、日本海沿岸に前線が停滞していて、雨がかなり降っていたとのことで、その後前線が南下したが、雲の多いはっきりしない天候であった。猿倉荘の横から登り、林道に出てからブラリブラリと金山沢出合に掛る滝を見て引き返す。途中マイカーで来た人達は、大雪渓を見てきたという人と、これから見に行く人達とすれ違う。夕食17時、就寝19時。
 8月7日、東の空は少し雲があるが茜色に染まって天気は良さそうである。今日はあとからくる4人組と鑓温泉で合流する事になっているので、ゆっくりと朝食を済ませて7時に出発する。林道から別れて鑓温泉への山道に入る。樹林帯の中を長走沢の水音を聞きながら、もくもくと歩く。途中、高原状の谷間台地で下山中の横浜YMCA一行の小中学生が休んでいるので、こちらも一本とることにする。子供たちが可愛いので堀口さんがドロップを出し、どうですかと差し出すと、僕にも私にも下さいとたちまち空になってしまった。
 ミズバショウが群生している湿原を過ぎると、小日向のコルである。時刻は11時に近い。はるか稜線の下方に赤い屋根の鑓温泉が見えるがまだ遠い。腹ごしらえをしてのんびりと歩き出す。三次郎沢、杓子沢など4本の雪渓を渡ると硫黄の臭いがしてくる。鑓温泉はすぐである。13時到着。
 鑓温泉は海抜2100m、本邦最高所で、白馬鑓ヶ岳東山腹にある岩の割目から硫黄泉が湧出している。女子は小屋囲いの中だが、男子は野天風呂ですでに10人近い登山者が旅の疲れをお湯に浸かっていやしている。私達も手続きを済ませザックを部屋に置くと、先ず一風呂とタオルを片手に出掛ける。湯温は42度ぐらいで丁度良い。眺めは湯入沢の向こうにガスではっきり見えないが八方尾根と思われる山が霞んで見える。なんとも言えない気分である。二度目の入浴後、小屋前のベンチで休んでいると、4人づれの一行が登ってくるのが目に入ったので「モートー」をコールしたら手を振ったので、むかえに下りる。原口さんをトップに堀田、藤居、谷中さんが、案外疲れた様子もなく元気な顔を見せてくれた。
 4人が入浴後、揃って食堂に行き、堀口さん自慢の抹茶をたててもらい、雑談と明日の行程を相談する。予定では5時に出発し蓮華温泉まで強行するとの事、こちらは白馬山荘に1泊してから蓮華温泉に行くつもりなのでガックリ。夕食はカレーライス、就寝20時。
 8月8日、今日は午後から天気がくずれるとの事でガスっている。朝食を弁当にしてもらい5時に出発する。小屋の横からの道はすぐに急登となり、梯子・鎖場を過ぎると、大出原のお花畑となりザックを下して朝食にする。私は食欲が全然なく、弁当は喉を通らない、仕方なく藤井さんからパンをもらい、多少なりとも腹ごしらえをし出発する。稜線上に天狗山荘が見えるが、牛歩の如く中々進まない。
8時10分ようやく稜線上の分岐に着く。富山県側からの風が強い。小休止の後白馬三山縦走に向かう。途中で今朝白馬山荘を出た登山者と多く行き交うが、中には聖徳太子みたいな髭をのばしている私の顔を見て、お年はいくつですか、そうですか、ではお元気でと挨拶をする人もいた。
 鑓ヶ岳を過ぎ杓子岳の登りの途中で振り返ると稜線上に唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳が見えてくる。右手には立山の剣岳が聳えている。しかし、長野県側はガスで全然見えない。白馬岳山頂着12時30分。記念撮影をすませ、三国境に向けて出発。
 三国境とは長野、新潟、富山の三県の境にあるのでこの名がついたが、又、此処から雪倉岳、朝日岳への道が分岐している。風をよけて遅い昼食とする。14時。原口さん持参のササニシキとカレーのパックを温めて、腹に詰め込むが、今日初めてのご飯なので美味しかった。
 これより小蓮華山を越えて雷鳥坂を通り、白馬大池についたのが16時30分。分岐でメロンを食べてから、いよいよ最後の蓮華温泉に向けて出発する。天候は大分曇って来て薄暗くなっている。岩のゴロゴロした山道とブヨがまとわりついて歩きにくい。気が焦っているのかいくら歩いても天狗の庭に出ない、やっと着いた時には先行の原口さんが待っていて、前方の山にかかっていた雲がさがって来たので雨が近いと思う、降られる前に少しでも先に行きたいからすぐに出発だという。少し休みたいと愚痴を言っても仕方ない。そのまま通りすぎてしばらく行くと蓮華温泉の赤い屋根が遠くに見える。ここまでくれば安心と思い、今朝から歩き続け大分疲れたので、皆さんに先行してもらい自分のペースで歩く事にする。
 栂の森・蓮華の森という名の処を通るが、時々見える赤い屋根が中々近くならない。その内に疲れから腰が痛くなり、5分歩いては1分休むの繰り返しで、とうとう暗くなってしまった。懐電を取り出してゆっくりと歩くと、あと5分ぐらいの処で原口さんが迎えに来てくれた。19時30分、玄関前で待っていてくれた皆さんに、ほんとに疲れた歩き方だよと言って笑われてしまった。
 蓮華温泉は標高1475m、上杉謙信のかくし湯と伝えられている。宿は新しく建て替えられ国民宿舎の様であるが、風呂場は以前のままの様であった。到着時刻が遅かったので、すぐ食事となったが疲れ切った身体には食欲がなく、ビールだけ飲んで一風呂浴びて寝てしまった。
 8月9日、今日は帰京するだけなので朝風呂に入ってゆっくり朝食を済ませて、支度をし庭に出、テーブルを囲んで青空の下コーヒーを沸して飲む。9時30分発のバスは2台で全員座って行けた。平岩駅までは左手に五月池・白池などを見ながら1時間30分で到着。平岩発11時41分乗車で、南小谷乗換え、13時8分白馬発のあずさ28号で帰京したが、原口さん、藤居さんは途中の中土駅で下車し、10月上旬に予定している雨飾山の下見に小谷温泉に向かった。
 今回の山行は猿倉、鑓温泉、白馬山荘、蓮華温泉と4泊5日の予定であったが、天候の具合と各人の都合などで、鑓温泉から蓮華温泉までの14時間30分の強行山行となったが、あと数ヶ月で69才になる老体には相当こたえました(私も戦前は丹沢を徹夜で歩き通したものでしたが)。最後には何でこんなにまでして山を歩かなければならないんだ、金をつまれてもごめんだと思ったり、山に行くなら東京近郊の日帰りの軽い山で、テンプラとトン汁の山行にしよう、アルプスはこれが最後にしようと、頭の中を色々な考えがかけめぐったが、帰りの電車の中で堀口さんに来年は横尾から蝶ヶ岳に登り槍・穂高の写真を撮らないかと言われると「ん~ん」と、又その気になる。山屋は死ぬまで山屋かと苦笑してしまう。でも行くなら笠ヶ岳から裏槍と穂高の写真が撮りたいなー。

費用
山の割引キップ 都内~南小谷間 8500円
           平岩~南小谷間 220円
バス代       白馬~猿倉間 980円
           蓮華温泉~平岩間 1180円
猿倉荘(2食付) 5500円、 ビール 380円
鑓温泉(2食付) 5500円、 ビール 480円
蓮華温泉(2食付) 5600円、 ビール 360円


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