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集中山行 大菩薩
その2 小菅川本谷
升田 直子

山行日 1987年9月6日
メンバー (L)安田、勝部、鈴木(章)、升田

 山行の中で集中が一番好きだ。それぞれのルートから、同じ頂を目標に時間を気にしながら進んで行く。他のパーティの顔ぶれを想像しながら、あそこは今頃どの辺りかなあと考え、自分も頑張ろうと思う。そして、頂上で元気のいいモートーコールが響いて次々と各パーティが揃っていく。その一瞬がとても好きだ。
 6時15分、どんよりとした空に、わずかな青空を見つけただけで「いい天気だ」と言って天幕から出て来た勝部さん。前夜も、当日の朝も"カラキジ"を連発して、さぞかし爽快な朝を迎えたことだろう。今回の集中は、川田会長さんが大黒茂谷の女性に「いい男だいい男だ」と推薦していたらしいナイスガイ、安ッサンをリーダーに、カラキジ小僧でヒョウキンなカッチャン、そしてこの人がいれば山でも食べ物に不自由しないと言われる章子さんに、金魚のふんであるわたくし、升田が付随してのメンバーであった。
 単調な遡行が続いて、ほどなくワサビ畑に着く。案の定、勝部さんがワサビ採りに夢中になり、その後で安田さんが「オレの分もオレの分も」とおねだりする。ワサビ採りが一段落して、小滝を越え核心部に入る。とはいってもザイルを張るようなところはなかった。
 途中で一本とる。食料豊富な章子さんのザックから何が出るか楽しみで、ひそかに横目で観察する。この時は姫リンゴの甘煮だった。出発間際に誰かさんの音無し一発が出てしまった。章子さんが「カッチャン、またやったでしょう。黙っててもわかるんだよ」と鋭く指摘し、それに追い討ちをかけるように安田さんと私が立て続けに非難する。それでもヘラヘラ笑ってごまかしていたのでした。核心部も終わりそろそろ終盤という頃また一本とる。ここまで順調に来ている。この調子だと一番乗りに山頂に着くんじゃないかと予想して、頂上でテントを張って寝てようかとまで話が進んだ。この休憩では安田さんのゼリーがみんなに配られた。これは果実のツブツブが入った1個78円の大型カップの超ぜいたくなゼリーだった。そしてまたまた勝部さんの一発。本当にお尻がゆるい人だと思った。
 このあたりから倒木をまたぎ、アザミをかき分け詰めの雰囲気になるが、すぐ小滝が現われ二俣に出てしまった。勝部さんが地図と磁石と高度計で現在位置を確認している時、安田さんと章子さんが左の方の様子を見に行く。しばらくすると「こっちじゃない?」と声がかかる。全員左をつめた。そこは20mのナメらしかった。このまま行くと石丸峠へ出てしまうのでトラバース気味にヤブこぎをして戻り、もと来た二俣の右に出た。そこからは水の流れも無くなり、所々に咲いているアザミが歩行を遅らせる。わたしが知らないと思ったらしくやんちゃな勝部さんが、トリカブトの花をプレゼントに摘んでくれた。すでに合宿の時、毒性だと教えてもらっていたのだった。そんなことをしているとすぐ山道とぶつかり10時には峠に着いていた。とりわけ面白いところも、鑑賞の対象となる滝もなく、あっけなく終わってしまったけれど、メンバーによってずいぶんと楽しい遡行ができた。
 追記
 峠で乾杯したビールのため、頂上に着いたころ章子さんが出来上がってしまった。ほんのりピンクの顔と、宙に浮いてる足どりが、本当に気持ち良さそうだった。あれはなかなかお目にかかれない光景だったんじゃないかな。


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