トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ264号目次

雪倉岳・朝日岳
中村 順

山行日 1987年11月1日~3日
メンバー (L)江村(し)、伊藤、鈴木(章)、冨岡、中村、他1名

 10月31日(土曜日)の夜、いつものように新宿発急行「アルプス1号」に乗り込む。今回はいつものメンバー以外に一人、我社の総務課長の堀さんというえらい人が参加しているのだが、そんなこと気にするのも阿保らしいくらい、いつもの三峰のように酒盛りが、いつものごとく始まる。挙句のはてに伊藤ちゃんは便所に履いて行った他人の靴をなぜかびしょびしょにしながら、便所から出て我々の座席とは反対方向に列車の中を歩いて行ってしまい、白馬駅で大慌てで探して降ろすはめになってしまった。栂池までタクシーで入り、朝飯のあと快晴の秋空のもと7時30分に天狗原へと出発する。しかし壮快なのは天気ばかりで、「オェーッー」という声がコダマしたり、雉撃ちの唸り声が聞こえたりと無風流なものであった。
 薄氷の張った天狗原をすぎて、白馬乗鞍岳、白馬大池とくると、いずれも夏と異なって雪渓がなくなり、大池の水も夏の溢れるばかりに溜まっていたのが寂しくかなり少ない水であった。ここにきて、もうやめようと言い出したり、顔色が土色と化す者ありで、そんなに飲まなきゃいいのにと合唱である。本来今日は三国境を通って雪倉非難小屋まで行く予定であるが、とにかく行けるところまでということになる。大池からの登りはだらだらなものであるが、登るにつれ大池の向こうに糸魚川の海岸線が見え、雪倉の向こうには富山湾の海岸線が見えた。夏に二・三度このあたりにきたが日本海が見えたのは今回が初めてであった。
 さらに登るにつれて後立山、立山、剣、槍、穂高、中央アルプス、南アルプス、富士山、八ヶ岳など雲に隠れた浅間山を除いて、見えるのが可能な山はほとんど見えるみごとな景色であった。自分と堀さんとは写真を撮りながら行く。こうして行く内に6人の隊列は前後にかなり長くなり、ついに小蓮華を越えたあたりで15時をすぎ、ここに幕を張ることにする。エスパースを張り終えると、江村氏と伊藤ちゃんは早速潜りこんで寝てしまう。このあたりから雪倉岳・朝日岳にかけては数日前の雪が所々に残っている程度であったが、白馬はかなり白くなっていた。夜の星はみごとであったが、明日以後の予定は大幅に狂い、朝早く起きて様子を見て決めることにする。
 翌日はしっかり雨で、あっさりあきらめて蓮華温泉へと下る。10時過ぎにつくとさっそく温泉に入ろうとすると、一番上の露天風呂は熱くて入れないし、あとのはみなぬるくて入れない。これは今期の小屋の営業が終わったので配管を外してあったためであったので、さっそく土木工事に取りかかる。伊藤ちゃんは新規に風呂を掘りにかかる。こうしてその日の夜にはゆっくりと入った(正確には雨も降り、風も吹き、ぬるくて出られなかった)。
 翌日も朝から1時間以上ゆっくりと入る。そのあと堀氏と章子さんと3人で平馬平を散策して帰ってみるとテントがたたんである。ずいぶん気が利くと思っていると、そうではなく小屋番がきて幕を張ってはいけない、風呂を使ってはいけない、道路は閉鎖すると言っていたのだそうな。江村氏と伊藤ちゃんは明らかに面白くないと言った顔をして歩いている。まあ悪いのはこちらだから文句もいえず、堀氏といなくてよかったと苦笑する。おかげで予約していたタクシーに乗るために林道を歩いて行くと、道路の閉鎖を知らないできたマイカーの連中が次から次と、例の温泉ブームにつられてやってくる。飛び石連休だから営業すればいいのに、欲のない連中だ。途中でやっとタクシーに乗ると、愛想のいい運ちゃんで、風吹温泉まで一緒に入って、そばも食べ、南小谷駅まで送ってくれた。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ264号目次