トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ265号目次

熟年者シリーズ(パートⅢ)
屏風山
野口 孝司

山行日 1988年2月21日
メンバー 堀口、藤居、渡辺(恵)、野口

 今冬は世界的に天候が不順とかで、東京も12月になって二度も雪に見舞われ、1月は暖冬でポカポカ陽気が続き、梅の開花が1ヶ月も早まってしまいましたが、2月は立春に入るとすぐ春一番が吹き、よかったなと思うと翌日からは一転して真冬日が続くという、めまぐるしい変化です。でも2月も下旬になると風はまだ冷たいが、春の息吹が感じられ、例によって昔の乙女三人を誘って箱根路を歩くことにした。
 2月21日、新宿8時1分発、箱根湯本行きに乗車、車内でコースを相談したところ、とりあえず要害山から屏風山を歩くことにし、時間があれば湯坂道に入り鷹巣山、浅間山まで行くことに決定(一寸無理と思うよ)。
 箱根湯本下車、駅前より元箱根行きバスに乗り換えて関所跡にて下車したのが10時30分。登山道入口が判らないので藤居さんがお店に入り尋ねたが、出てきて言うことは、笑うのがもったいないという観光地ずれした態度で、いやあねーと嘆いていた。
 ガソリンスタンドの横から登山道に入る。道はしっかりしているが両側から3メートルもある箱根笹が覆い被さる様で煩わしい。ゆっくり歩くのだが渡辺のオカアチャンが風邪気味のため遅れるので、何回も待ち合せをして歩くうち突然右手から舗装道路が来て此処で行き止まりになっている。地図で調べると要害山らしい、小休止。振り返ると芦ノ湖の桟橋には海賊船と呼ばれる観光船が止まっているかと思えば、モーターボートがすいすいと白波を立てて走っている。今日は富士山は見えないが2週間前に歩いてフキノトウを採取した乙女峠から丸岳が良く見える。
 屏風山へのコースは苦手な階段状の道が真すぐにのびている。丸太で土留めした霜柱の立った滑りやすい赤土の階段は、高さが不揃いで足を上げるのも大変である。途中からロープが張られているが、我々には大いに息の切れる登りで休む回数も多くなる。やがてこの苦しい登りも終り、左折する処で指導標があり、屏風山まで20分と記してある。コースタイムでは登山口から屏風山まで40分と書いてあるが、ここまですでに倍ちかい時間がかかっている。だから会の若い人に嫌がられるのだよねー オバサン。
 左折すると道は平坦となり、最後の登りで山頂に到着。樹林が多いので展望はきかず、落葉の絨毯の中で昼食にする。早速トン汁の仕度にかかる。コッフェルに水を入れ沸している間ビールで乾杯。おつまみを食べ雑談していると、オカアチャンが突然、
 「このバーナー音がしているの、火がついているの、鍋取って見てよ、なあーにこんな炎ではゲンジボタルね」(ヒカルゲンジではありません)。
すると堀口のお姉さんが、
 「トン汁をつくると言うから来たのよ、途中でガスが無くなったらどうするの、落葉がいっぱいある中では焚火はできないし、手で下げて甘酒茶屋で火を借りてつくりなさいよ」
横では陽子さんはビールをチビリチビリやりながら、
 「ガスのスペアを持って来てないの、駄目ねー、こんなこと初めてよ、帰ったら『岩つばめ』に書きなさいよ、ビールが旨くなくなるわよ」
オカアチャンは風で元気がないというのに、この時とばかりに、
 「そーよね、私はバーナーを持ってくる時は必ず予備はもってくるのにねー、準備不足よ」
いやはや、うるさいこと、うるさいこと女三人よれば姦しいと言うが、甲羅が生えた姦三人オバサンたちに、少しおとなしくなってもらおうと思い、ザックから予備の缶ビールを出して、ご機嫌直しにお酌したら余計に火がついてしまった。まいった、まいった。
 少し時間がかかったが沸騰してきたので肉と野菜を入れ、再度沸騰させ味噌を入れて出来上り、お椀に入れ食べたら旨い、これはいける。今まで般若のようなオバサン達の顔が、日本の代表的な美人である「オカメサン」の笑顔に変ってきたから不思議である。男は幾つになっても女心の機微は判らないものです。会の男性たちよ、くれぐれもご用心、ご用心。最後はお姉さんの立ててくれた抹茶と虎屋のようかんで手締とする。
 大分時間を過ごしてしまい山頂発が15時、すぐ下りとなり、滑りやすい道を慎重に下り、飛び出したところが旧東海道の舗装道路、右折して5分ぐらいで甘酒茶屋、立ち寄って甘酒を注文(250円)して飲み終ってから、記念写真のシャッターを切ってもらおうと、近くにいた女性ばかりの6人連れの一人にお願いした。あとで冗談を交えながら話をしていたら、このオジサンが可哀相に思えたのか餅の差入れを受け、有り難くいただいて、早々に出発する。これからは石ダタミと階段の連続で、着いたところが石ダタミ茶屋という茶屋の駐車場に一部が上畑宿のバス停で16時15分発のバスに乗車する。小田急線の車内であまり飲みたくなかったが、グジュグジュ言われた最後のガスで沸したお湯が、お姉さんの魔法瓶に入れてあるので飲んでみたが旨くなかった。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ265号目次