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冬山合宿
その2 北岳バットレス隊
金子 隆雄

山行日 1987年12月30日~1988年1月2日
メンバー (L)金子、高橋(弘)、竹内

 12月29日夜、中沢隊の9名と一緒に新宿を出発する。竹内、高橋(弘)の両名は立川から乗車して合流する。甲府には朝の3時に到着。芦安観光のタクシーを予約してあったのだが、指定された場所に行ってもタクシーがいなくて、ウロウロしていると運転手が我々を捜しにきた。予約したときは13名だったので、マイクロバスとタクシーを各1台頼んであったが、我々が時間どうりに現れないのでタクシーのほうは別の客のところへ行ってしまったとのことだ。幸いに人数が1名減って12名になっていたので、1台のマイクロバスに無理矢理詰め込んで走りだす。ちょっと窮屈だったが、一人当たりのタクシー代が安く上がった。今の時期には車は芦安までしか入れないが朝早くだったらゲート番がいないので通れる、ということで夜叉神まで入った。が実は、後で知ったことだが、この日はゲート番がいても通れたのだ。それはまた後で書くことにする。まだ夜は明けていないが歩き始める。歩き始めるとすぐに入口に蓋をした長い長い夜叉神トンネルを通過する。トンネルを抜けるとすぐに観音経トンネルで、これも結構長い。トンネルを抜けるとそこは雪国ではなかった。電車の中ではほとんど寝る時間がなかったので眠くてしょうがない。歩きながら眠ってしまい、はっと気が付くと崖に向って歩いている自分にびっくりしたりする。そんなことを繰り返しながら鷲住山入口に着く。ここは風の通り道らしく、とても寒い。しばらく休んでいる間に夜も明けたが、天気はどうもすっきりしなくて今にも降りそうだし、辺りを見廻しても雪など全くなく、どうもいまいち冬山へ来たんだなぁという気になれない。
 野呂川の対岸の林道へ渡るのに深沢下降点より野呂川へ下り、対岸へ渡ると書かれているガイドブックなどもあるが、多分それは昔の話で今は不可能だ。鷲住山へ一旦登って野呂川発電所まで下り、吊橋を渡って対岸の林道へ出るのが確実だ。あるき沢橋より登山道へ入る。しばらくはスズタケの密生した急登が続く。やがてスズタケもなくなり疎らな林となるが急登はなおも続く。樹林帯に入ると傾斜も緩やかになり、ほどなく池山お池小屋に着く。風を避けて林の中にテントを設営する。

 12月31日 晴れ
 天候は回復し青空が広がっている。中沢隊は一足先に出発した。我々の今日の予定は、八本歯の頭かコルまでなのでゆっくり出発する。しばらくは樹林帯が続き、登りが急になって一頑張りすると城峰に出る。ここで単独行者から捨てるというウィスキーを貰った。森林限界を過ぎるとすぐにボーコン沢の頭に出る。ここは広々としていて見晴しがいい。目の前に"待っていたぞ"と言いたげに雪を戴いた北岳が聳えている。天気は良いが風があるため寒い。それにしてもここら辺も全く雪がない。昼前に八本歯の頭に着く。他に適当な場所がないので、ここに幕営する。テントを張り終ると、他にする事がなくて困ってしまう。中沢隊が登っているのが見える。トランシーバーによる定時交信を行うが、もう少しで頂上だというので、頂上に着いてから再度交信を行う。お茶を沸かして中沢隊の帰りをのんびり待つ。

 1月1日 晴れ
 天気は良いが風が強いので出発をためらう。7時頃テントを出て八本歯のコルへと下り、大樺沢をトラバースする。四尾根に向って八本歯のコルから上・中・下と3本ほどのトレールがある。大樺沢側に入ると、風下のためか全く風が当たらず、やれ幸いと胸を撫でおろす。寒風吹き荒ぶ中での登攀はあまり歓迎できない。夏の四尾根は、登るルートにもよるが取付くまでの下部の登りに結構苦労するが、冬はトラバースしていくと下部は登らなくて済む。バンドを右に廻り込んでルンゼを少し登った所から登攀開始する。登り始める前に下山中の中沢隊と定時交信する。2ピッチ目が核心部と思われる。雪が付いていないので凹角を抜けた後のちょっとしたハングはA0で強引に越える。この上からは雪が付いていて問題となるような所はない。夏より登り易いくらいだ。夏の核心部も右から回り込んで雪壁を登ると楽だ。頂上直下は雪田になっており、左にトラバースしていき稜線にでる。頂上まで2、3分の所へ出る。時刻は12時頃で、なんかあっけなく終ってしまい物足りなさを感じるほどだ。頂上で記念写真を撮ってテントへ帰る。風が強く寒くて長居はできない。14時頃テントに着く。中沢隊との定時交信はテントに帰ってからはできなくなった。

 1月2日 晴れ
 今日も風が強い。下りは雪がなく凍っているので歩きづらい。あるき沢橋まで一気に下ったが、鷲住山への登りは辛かった。登っても登っても頂上に出ない、いいかげんにうんざりしてくる。来るときと同じように長いトンネルを抜けて夜叉神に着く。芦安までまだまだ長いなと思っていたら、正月の間は夜叉神まで車が入れるそうで、タクシーを呼んで甲府まで行くことができた。
 今年の合宿は、雪が少なかったこと、天気が良かったことなどで、予定通りに目的を達することができた。


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