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白毛門・雪訓
服部 寛之

山行日 1987年12月20日
メンバー (L)服部、鈴木(章)、今井、内藤

 正月合宿の北岳池山吊尾根隊の雪訓を白毛門で行った。参加者は、ナント、たったの4人。合宿に入る予定者は10人位いる筈で、今回が入山前の最後の雪訓のチャンスだというのに、たった4人とは、なさけないやら恐ろしいやら。それに、今回の参加者中一番山歴が浅く、しかも白毛門には登ったことがない小生が、なぜかリーダーである。こういう、常識ではチト考えられないことが起こってしまうところが、山慣れした連中の組む山行の恐ろしいところ。でもマア、同行の3人は冬山を何度も経験し、白毛門も登っている連中ばかりなので「ナントカナンベー」と、あまり深刻がらずに行ってしまった。

 上野発の夜行列車降りた時から、
 土合の駅は穴の中、
 上へのぼる人の群れはヤマヤばかりで、
 ビールもすでにきいている。
 私もひとり、みんなの尻につき、
 へたりそうな高さ見つめ泣いていました。
 アア、無情、階段、つかれます。

 ごらんあれがやっと出口、切符あるかと、
 見た様な人が釘をさす、
 車内検札、切符回収、バッチリなので
 私も予算オーバーだ。
 我らは行くぞ、寝ないでガンバルぞ、
 コキジ撃って、眠いマナコこすりながらも、
 ファファ、夜間雪訓、白毛門。

 さようならみんな、私は帰りたい、
 風の音が胸を揺する風呂とばかりに、
 嗚呼、つかるおんせん、雪景色。

とマア、そんな訳で、さっさと登ってさっさと下りて温泉でゆっくりしようという方針の我らは、シュラフの中で気持ち良さそうな連中に一瞥をくれ、この季節にしては異常に暖かい(気温8度!)空気に拍子抜けしながらも、3時5分、薄い雪を踏んで駅を出発した。
 三菱の山荘を右折し、トレースに導かれるままに樹林帯を登る。懐電の光に浮かび上がる草木の他は真暗け、まあまあいいペースで登って行くと、やがて左手樹林の間に天神平へ延びるロープウェイの明かりがチラチラ見え、だいぶ高度を稼いだことがわかる。晴れていた空がいつの間にか曇って、4時に一本目を取る頃には雪がちらついて来た。5時過ぎに二本目。尚もエッチラホイサと登って行くと、木々が次第に細く低くなり、やがて雪に埋まった岩稜帯となって稜線に出た。ここまで来ると、トレースがあっても所々膝あたりまでもぐることもある。振り返ると、薄明りの中にぼんやりと天神平スキー場が右手後方に、土合駅が左手下方に沈んで見える。稜線上前方のボウッとした青白い光は、近づいてみると一人用のテントだった。その光で三本目。一応雪訓という名目なので、ここからアイゼンを履いて足慣らし。白毛門の頂上はもうそう遠くない筈だが、低く垂れ籠んだ雲が山頂を隠して、やけに高度が感じられる。溜め息をつきつき登高する。すると、東の空遥か、雲の切れ間から顔をのぞかせた朝の太陽が雪面を茜色に変えたかと思うと、谷間に漂う霧をも茜色に染め上げた。我らの足は自然と止まる。広がる波紋のように、空中の一点からみる霧の茜さす様は、それは見事であった。じきに太陽が姿を隠すと、魔法のポンジュース的世界も消え去った。その先4~5mの高さを登ると、頂上は目と鼻の先であった。7時5分、頂上着(1720m)。駅から丁度4時間であった。円柱の展望盤の上にEPIとコッヘルをセットし、章子さん持参の即席しるこをゴチになることにする。早く沸くようにと、全員で台を囲んで風と雪を遮断し、無言のまま真剣に見つめる。それでも、おしるこの完成まで30分もかかった。どこかで滑落停止でもと思ったが、斜面はどこも停止する前に谷底まで行ってしまいそうなので、あっさり取り止めにする。温泉が待っているので、そそくさと下山にかかる。下り始めて間もなく、谷川岳一帯を覆っていた雲が切れて、一ノ倉の岩壁が姿を見せた。やや雪のついた岩壁は、朝日を受けて金色に輝いている。その先で単独行の登山者とすれ違った。1時間程歩いて、煩わしくなったアイゼンを脱ぐ。途端に小生はコケまくったが、それからは速かった。登山者と次々にすれ違い、10時に三菱山荘を通過、10時15分には土合駅に下山した。
 駅からタクシーを呼び、温泉に向かう。運ちゃんの紹介で、いつもの谷川温泉を急遽変更、『温泉センター・諏訪の湯』と言う所へ行く。水上の町の南端辺りで、運ちゃんの話では川沿いの遊歩道の終点に位置するそうだ。水上駅から車なら10分とかからない。風呂場はあまり広くない(12~3人も入れば満杯)が、石造りで清潔である。透明な湯で、まあまあの熱さ。小生にはイマイチ温度が欲しかった。だが、250円という手頃な安さで良い。ここはちょっと変わっていて、休憩室もあり、入浴と休憩がセットで3時間450円、6時間800円という料金であった。軽い食事もでき、ビールやつまみも置いてあって、山行帰りに利用すると良いかと思う。
 タクシーで水上駅へ行く。駅にザックを置いて、いつもの鍋焼きうどんで最後を決めようと思ったら、店がなくなっていた。おやじさんが亡くなられたとかで、のれんを下ろしてしまったらしい。美味かったあの鍋焼きがもう食えないかと思うと、淋しいかぎりだ。気を取り直して別の店へ入ったら、なんと金子パーティの3人にバッタリ会った。正月に北岳バットレスを登る彼らは、一昨日から一ノ倉に入って、先程下山してきたところだと言う。食事をして、みな一緒に帰京した。勿論、鈍行で。

〈コースタイム〉
土合(3:05) → (途中休憩3本、計35分) → 頂上着(7:05) → 頂上発(7:45) → 三菱山荘(10:00) → 土合駅(10:15)

☆土合駅で呼んだ群北タクシーは大型車で呼び寄せ料金150円であったが、諏訪の湯で呼んだ越後交通は小型車なのに同料金を300円も取った。
費用 JR 上野~土合 2,800円
       水上~上野 2,800円
    TAXI 土合~諏訪の湯 1,160円
       諏訪の湯~水上  760円
    温泉 250円


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