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雁ヶ腹摺山
升田 直子

山行日 1988年4月17日
メンバー (L)服部、大久保、安田、日野、佐藤(明)、升田、石田、(阿部)

 4月16日、まずは宴会から始まる。先発隊、所謂宴会隊は、江村(し)さんをはじめ佐藤(明)さん、大久保さん、安田さん、入会希望の安部さんと升田で、大月に着くやいなや早速マットを敷き、各自持参のお酒、ビールが続々と並ぶ。明さんの新人歓迎のおでんが憎い!!。以前、初山行を明さん、大久保さんと共にした新人が2名入会しなかったので、責任を感じている両人の阿部さんに対する一挙一動には、気をつかいながらも楽しませようと、実に涙ぐましいものを感じる。と思う一方では江村さんは突然、差歯をはずして見せるものだからせっかくのフォローも救われなかったりもする。そろそろ酔いもまわりお開きとする頃後発隊が来る。今回のリーダーである服部さん、日野さん、新人の石田さんだ。宴会隊にくらべややまともな顔ぶれなので、阿部さんもホッとするのではないかと思った。
 翌朝の予定では、6時起床、大峠までタクシーで行き、1時間弱の登りで山頂に立ち、金山鉱泉を経て大月に下りてくる筈だった。現実には、大峠までタクシーは入らず、反対の金山鉱泉までしか行かないとわかるが、それも地元優先でタクシーがつかまらず、1時間30分も駅で待つはめになる。それでも乗れればまだいい。結局、タクシーに見放され、2時間かけて登山道入口まで歩くことになる。
 9時20分、金山鉱泉に着き、ここでおしりの具合が良くない江村さんと別れる。鉱泉を横に見ながら43分出発。今回の山行は沢登りだったかなと思われる所をしばらく登山靴で遡行する。10時12分、一本とる。まだ沢の中にいる。石田さんと阿部さんは、顔を上気させてとても元気そうだ。ここから少し歩くとやっと山道らしくなり、峠の手前よりいきなり急登となる。どんどん高度をかせいで行き、10時45分峠に着く。丹沢山塊と富士山がやや霞んで見えた。この景色が山頂に着くと五百円札になるのかと考えると早く山頂に立ちたかった。峠より奈良子川の上流、百間干場のえん堤まで下る。ここを渡ると山頂までひたすら登りである。先週、丹沢でかなりの積雪だったので、数100m高い雁ヶ腹摺も勿論雪だろうと予想してスパッツを持って行ったが、白樺平付近からしかなかった。それもかなりのくされ雪だった。峠より1時間歩いて、白樺平だろうと思われるところで、あと50分で頂上だと声を掛け合い登る。しばらく歩くと、もしかしてここがたぶん白樺平かもしれないと話し、またあと50分と言う。石田さんは"えーっ"と残念そうだ。そして、今度こそ本当の白樺平に着き、改めて、"あと50分"と言う。それから20分歩いた所に道標があり、山頂まで40分と記してあるのを見た時の石田さんの悲鳴が忘れられない。"カラキジに注意しろよ"と言いながらトップを歩いていた大久保さんは体調がおもわしくなくこの付近で休んで、わたし達が戻ってくるまで待っていることになる。
 11時40分、あと少しで頂上だが、お腹がもちそうもなく昼食とする。金山鉱泉からついて来た犬が、人の行動食あさりにしつこい。少しあんぱんをあげたが、なかなかそばから離れない。また少しちぎってあげるが、あまりにも食べるのが早いので、自分が食べてる暇がない。頭にきたので遠くへパンを投げ、その間に自分は口一杯パンをほおばるが、またすぐ戻って来る。遠くへ投げてはほおばる。また投げて、ほおばるの繰り返しでとうとう2個目もなくなってしまった。その間、みんなはとても薄情な態度だった。食事をして力をつけて30分後の13時45分、五百円札の場所に立つが、生憎の曇り空で富士山のすその一部しか見ることが出来なかった。ここで思わぬハプニング!!わたし達が来ることを知って大峠から登ってきた播磨さん、原口さんご一家、藤居さん、堀口さんの方々が先に来て待っていて下さった。とても感激だった。顔ぶれから想像はついたが、山頂で鍋を作ったらしく、原口さんのお腹がそのおいしさを充分に物語っていた。播磨さん達はすぐ下りたが、わたし達は30分程ゆっくりしてから下山した。途中、具合の悪い大久保さんを拾い、そのすぐ先で又、播磨さん達と合流し全員で金山鉱泉へと下る。東京付近の山のガイドを読むと、雁摺のコースで急登の文字が4ヶ所記してある。登りも割ときつかったが、下ってみるとかなりの傾斜がわかる。雁ヶ腹摺山、その名の通り。ガイドもたまには当るものだと思った。登りは犬が先導してくれた。下りは服部さんがトップだったが、彼のバンダナがなんともユニークだ。色こそ赤いけれど、畳み方のせいでおばけになっている。振り向くとそれがまた似合っている。当人はその有様に気が付いていなかったところもまた服部さんらしかった。そのおばけに導かれ、急ぎ足で幽界に下りる。その行き先が温泉ときてる。宴会で始まり、温泉でしめるという三峰のパターンだ。
 16時45分、金山鉱泉に着き、時間も遅いので慌ただしく入るが、一般家庭のお風呂のようで、女性4人入るともう狭い。男性はもっと窮屈な思いをしたのではないかと思う。こういう思いをして一人500円は高いと思ったが、入れただけでもいいかなと諦める。
 鉱泉から大月まで全員タクシーに乗る(2200円)18時25分。朝6時に起きてから12時間25分たっている。その内、歩行時間は7時間強である。中にはきつい登りもあり、リーダーの服部さんはしみじみ"みんなよく歩いたよな"と言っていた。本当にそう思った。帰りの電車で阿部さんに"勿論、入会するでしょ"と聞いたところ、笑顔のうなづきでした。明さん、大久保さん、ジンクスが破れて良かったですねえ。ステーションビバークで、明さんのいびきがめずらしくなかったのが決め手だったのでは・・・・。きっとそうだ!!


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