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編集後記

 「山男を題材にした面白い版画展をやっている」と友人に聞き、3月初め地元の画廊にぶらりとでかけてみた。
 多少遠慮がちに扉を開けた僕は、その向こうにズラリと並べられた作品に忽ち魅せられてしまった。単純な線とすっきりした構図、そして絶妙な色彩感覚。ユーモラスな、だがしぶとさを感じさせる表情の山男をモチーフに、自然の中にいる喜びが素直に、ほのぼのとした詩情で詩われている。自分の足で山を歩き、自然をいつくしみ楽しむ眼を持った詩人の、豊かな経験が表現し語る山のひとこま。それに自分の体験がスッと重ね合わさり、僕は自然と画の中に引き込まれ、楽しい山の世界に遊んだ。
 心から共鳴し身体中に響く画に出合えた僕は、最高に幸福な気分であった。その時の版画が一枚僕の部屋に掛かっている。背後の樹々の間に湖を見る草地の画面中央に水筒を抱えた男が一人、左向きに寝転びその足元に鳥が一羽遊んでいる。腕枕に足を組みリラックスした表情の彼の頭の中はスッキリ空っぽだ。正に、僕が理想とする山行そのものだ。時間を気にする事もなく、そういうのんびりとした山行がしたいと思う今日この頃だ。その作家の名は畦地梅太郎(あぜちうめたろう)さん。今年米寿のお祝い。画伯の作品は町田市立国際版画美術館で見る事ができる。


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