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碓井峠から浅間隠山(GOGO山行)
服部 寛之

山行日 1988年8月13日~14日
メンバー (L)服部、佐藤(明)、升田、大石

 軽井沢の碓井峠から北へ延びる稜線は春や秋のハイキングには気分良さそうだと、去年4月末鼻曲山に登った時に思った。ガイドブックにも、このコースは春と秋がベストシーズンだと書いてある。それならばと、夏の盛りの時期に行くことにした。そんなクソ暑い時に低山歩きなんてバカじゃないのかと思われるかも知れないが、僕はバカじゃないのである。ちゃんと理由があるのだ。それに、そもそもバカは自分ではバカと気づかぬものである。
 その理由の第一は、山が静かだからである。TPOをことごとく外せば、すいているに決ってるじゃん。第二に、テニスギャルや軽井沢婦人が出没するというシーズン中の軽井沢の街はどんな風なのか、常日頃品行方正一筋の僕としては一度見てみたいとかねてより思っていたからである。第三に、そういう軽井沢に集まって来る日本の平均的なミーハー諸君の松竹梅を多少なりとも実地観察できるよい機会だと思ったからである。第四には、この稜線上に並ぶGOGO山行の2座をこの際片付けてしまえるからである。そして第五に、一番重要なことには、下山口で待っている温泉の存在である。地図の浅間隠山の北側、温湯のほとりに燦然と輝けるダイヤモンドのごとくはめこまれた三つの温泉こそ、我らが希望の星、人呼んで浅間隠温泉郷なのである。何を隠そう、実はこのダイアモンド・トライアングルこそ、今回の山行の動機の78%(26×3)を占める最大の要因なのである。考えてもみよ、クソ暑い低山の稜線を大汗でグショグショになりつつも遥かなる湯煙の呼び声に導かれつつ踏破しイッキにいで湯にトツニューするその至福の瞬間を!!湯煙りの向こうには現役のピチピチギャルがいたりしたら、アー、ウー、イー、アァ、ぼくちゃんもうダメ・・・。
 高崎駅から軽井沢方面信越本線の始発は7時10分とやけにゆっくりしている。発車間際、乗り継ぎのギャルたちがドドドドドーッと乗り込んできて、オオッ!と思わずヨロコんでしまう。やっぱり夏の軽井沢はこうでなくちゃ!温泉顧問の明氏もさっそく週刊誌を引っ張り出し、メシを食いながらヌードの見本と周囲の生の現物(ギャル)をスルドク比較観察し始め、至極ご満悦そうである。見上げる空の青いキャンバスには白い雲のコラージュが流れ、時折日が差してくる程度で、ギラギラ照らない登山日和である。まずは好調な出だしである。ところが、軽井沢に着いて驚いた。ぼくらの他誰も降りないのである。電車はギャルたちを乗せたまま行ってしまったのである。えっ、どーなってんだこりゃ?駅の外に出てまたまたびっくり。ギャルたちがわんさか群れ歩いている筈の街はカンサンとしているではないか!ありゃあ?ありゃりゃのりゃ??こんな筈じゃなかったんだけどなぁ、おかしいなぁ、と幾分気落ちするうちにみんなの仕度が整い8時20分出発。北へ延びるぶっとい道を行く。店は半分位まだ閉まっているがやたら多い貸自転車屋はしっかり開いており、その周辺にギャルがパラパラ。いぶかるぼくに、「まだみんな起きてこないんだよ、ギャルは朝遅いんだ」と明氏。さすが読みが深い。ならば始発が遅いのも、街がカンサンとしているのも説明がつく。でもあの電車のギャルたちはどこへ行ってしまったんだろうと振り向けば、ザックにトレパンに山靴姿の自前のギャルが歩いているのだった。
 『旧軽井沢』の交差点からは道幅が狭くなり、様相は一変した。いかにもギャル様御用達といった風なアイスクリーム屋、ハンバーガー屋、みやげ物屋、骨董品屋、画廊、八百屋等がごちゃごちゃと並び、早起き組と推察されるギャルたちと付属の男どもが溜っていた。やっとそれらしいフンイキになったが、やはりここも竹や梅が多く松は見かけない。面白いことに、中流上クラスと思しき家族連れが2、3組混じっていたが、どれも必ず娘連れなのであった。店が途絶えると人影も途絶え、ぼくらはそのまま碓井峠目指して道を進んで行った。途中から舗装道路を外れ散策路に入る。峠に行くには少し遠まわりだが、小川のからむ気持ちの良い散策路であった。
 峠につき、茶店で名物の力もちを食べる。基準をギャルのレベルに合わせてあるのか、なさけない力もちで、爪楊枝でポイ、ポイ、ポイで終ってしまった。だが、美味ではあった。
 いよいよここから山道である。道は見失うことはないが、思ったより藪っぽい。30分弱で一ノ字山の稜線に出るが、ほぼ真平な地形である。枝が混んでいて展望はない。露払いのぼくは、時々蜘蛛の巣も顔で払いながら進むが、下草でズボンが結構濡れてしまったので合羽をはく。ピークに気づかぬうちに下りとなり留夫山(トメブヤマ)との鞍部に出る。ここからの上り道は、水が流れた跡が方足幅の溝になっていて歩きずらい。12時30分、峠から2時間でやっと頂上に着き一本。東側は開けているが生憎ガスっている。それにしても覚悟はしていたが、クソ暑い。太陽がジリジリ照らないだけ良いが、風が殆どない。それに僕のザックの中に入っているテントがジャンボなのを思うと、担ぐ前から汗が出る。ジャンボ・テントはその重さもさることながら、名称からくる重圧もかなりの精神的負担なのである。実は当初の予定では7名の筈だったのが、3人裏切ったので、今日はジャンボに4人という事態となってしまったのだ。したがって、装備分担がぐっと増えてしまい、イマイマしさも加わっているのに想像以上に藪っぽく、風もなく、クソ暑いのなんのって、ウー、モーこうなったらヤケクソだ、と鼻曲山目指しヘソ曲りギミに出発したのだった。
 留夫山からの下りは、南側の斜面の藪っぽさとは打って変わって歩きやすい。次の金山との鞍部の西側すぐ下まで林道が通じており、この林道経由で留夫山に登る人はかなりいるようだ。金山への上りはこれまでにも増して藪っぽくなり、胸まで(人によっては頭まで)の笹の中を漕いで行く。金山のピークを過ぎるとすぐ鼻曲峠である。ここから東側へは十六曲峠経由で霧積温泉へ下る道が通じている。明氏は温泉顧問という職務上「今日の行動はここで打ち切り、ここに幕を張ることにして霧積へ行こうぜ」と言う動議を提出したが、厳格なるリーダーのオレの内心の思いをも否定して「初志貫徹あるのみ」としたのであった。
 鼻曲峠から鼻曲山のピークまでは一級国道で20分で到着。大天狗、小天狗と二つあるピークのうち見晴しの良い小天狗の方へ行き涼む。幸い、丁度東側から風に乗ってガスが流れてきた。今は眺望よりも涼が先だ。ところで鼻曲山という名称だが、それについては既に「岩つばめNo.262」に研究論文を発表したのでそちらを参照されたい。
 いいかげんラヂエターが冷えたところで出発。ところが地図を読み誤まり、尾根への取り付きをまちがえて40分ほど時間をロスしてしまった。一時はここに幕を張ることも考えたが、何とか道を見つけることが出来、このクソ暑さの中、全員あきらめのヤケクソの境地の惰性を駆って新たなる藪っぽい尾根に突入して行ったのであった。この尾根も、道は一応ついているものの結構な藪っぽさであった。2時間程で二度上峠着。ここは峠越えの舗装道路が東西に延びており、殆どひっきりなしに車の往来があってうるさく、峠にはアベックの車が止まっていたりして、のぞきたくなったりして風紀上良すぎるで、少し山道を戻った所に幕を張った。その夜は、広いジャンボの中で4人ゆったりとくつろぎ、夜の更けるのも忘れてダベったのであった。また夕方からタライをひっくり返したような夕立ちが来て、心配していた水もたっぷり取れたのであった。
 翌朝、すさまじいブヨの来襲を受けながら撤収。6時20分体中ポリポリ掻きながら出発。浅間隠山への登り口は、峠から舗装道路を東側に15分下った処にある。そこの看板には「あさまかくしざん」と振り仮名がふられ、頂上まで90分とあった。登り始めは昨夜の雨の影響か、山道が川になっていた。今日はきのう以上のヤブを覚悟していたが、予想に反し、水の流れもじきになくなるときれいに整備された山道であった。地元の倉渕山岳会が手入れしたらしく、同会の会名が入った指導標が要所要所に立っていた。こういう地道な活動をしておられる会の方々には頭が下がる思いである。急登を登り切ると急に斜度がおちて開けた草の傾斜地となり、尚も登って行くと頂上であった。きっかり90分であった。50才位のおじさんが一人、頂上でタンポポの種を植えつけていた。そこは360度の視界とのことだったが、ガスっていて何も見えない。おじさんは毎年正月にこの山に登っているそうで、正月頃は雪はまだ僅かしかないとのこと。今回の山行で遭ったのは、この人、一人だけであった。
 下りの道もきちんと整備されていて歩きやすく、温泉のことを考えるとなおさら足が速くなる。だが、浅間隠山のこちら側はアプローチが長く、途中増水した沢を右に左に渡渉するのに手間どり、林道に出るまで2時間弱、出てからも1時間以上もテクテク歩いてやっと待望の浅間隠温泉郷にたどり着いたのであった。ここは三つの温泉が100メートル間隔で並んでいるというすばらしい処なのだが、けしからんことに最初の温川温泉ではにべもなく断られ、次の薬師温泉も掃除中とのことでダメ、仕方なく最近改築したという共同湯へ行った。ここは脱衣所も湯舟も狭く混浴である。運が良ければギャルとの混浴も可能性あるが、それにはやはり日頃の行いである。それにサバケたギャルだとあからさまに「ちゃっちいー」などと言われて、立ち直れなくなってもオレは知らない。バスを一本見送ることにして、共同湯の次は隣りの鳩ノ湯へ行く。ここは親切で、いやな顔をせずに入れてくれた(400円)。フロは共同湯と合わせ最近改築したようで(実際男湯の壁を隔てたとなりが共同湯であった)男湯はきれいで気持ちが良かったが、女湯は清掃が行き届いていないと升田さんは文句を言っていたが、その割りにはずいぶんな長湯であった。ビールとザルソバ(500円で美味で量もたっぷり)で下山を祝い、14時45分のバスで高崎に出て帰京した。フロは二湯のがしたが、ソバがうまかったので満足であった。皆さん、クソ暑い中ご苦労さんでした。

〈コースタイム〉
8月13日 軽井沢駅発(8:20) → 碓井峠(10:00~10:30) → 留夫山(12:30~12:40) → 鼻曲峠(13:45~13:50) → 鼻曲山(14:10~14:40) → 二度上峠(17:20)(幕)
8月14日 二度上峠発(6:20) → 浅間隠山(8:15~8:40) → 林道(10:40) → 薬師温泉バス停(12:00) → 出発(14:45)

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