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越後駒ヶ岳
安田 章

山行日 1988年6月4日~5日
メンバー (L)安田、川田、江村(し)、大久保、服部

 数年前の夏に、越後の荒沢岳から平ヶ岳を経由して尾瀬へ抜けたことがある。その時、中ノ岳から駒ヶ岳への稜線を眺めて、一度登ってみたいと思っていた。ただし、今度はギラギラと照りつける夏の陽ざしをさけて、残雪の残る頃に。大きな山容と、その山ひだに残る雪と、緑がおりなす美しい風景を思い描いて、上野を出発した。
 越後湯沢の大きく立派になった駅で仮眠。朝一番の電車で六日町へ。そこで、予約してあったタクシーに乗り込み、十字峡に入った。
 風はなかったが、しとしととこまかな雨が降り続き、低くたれこめた雲が山々を覆って展望はまったくきかない。ダム工事で働く人達が使っていると思われるプレハブ小屋で、雨をさけて朝食を食べた。初めからカッパを着て登り始めるのは気が重いが、この雨では仕方がない。全員身支度をすませて、道路脇にある中ノ岳登山口の標識のあるところから入って行く。
 ここから中ノ岳までほぼ6時間の行程。地図を見てもわかる通り、日向山あたりで少し平らな所があるだけで、あとは急登が続く。それでも6時間だから楽ではないにしても、それほど苦労することもあるまいと思い登っていった。しかし、そんな期待は最初の30分で裏切られた。気温が高かったわけでもないが、カッパを着てこの急登では、おのずと汗が流れ出る。カッパの上着は脱いで雨傘に変更する。すべり易い樹林の中の道をひたすら登る。ガスで何も見えないし、これでもか、これでもかと急傾斜が続き、ひと息つくところさえない。先頭を行く江村さんのペースは快調で、ついて行くのがつらい。時折り立ち止まって、草や木の名を教えてくれたりして気をつかってくれるが、5分もすれば忘れてしまう有様。(江村さん、ゴメン)。
 日向山は何の変哲もない山。と言ってもこの濃いガスの中では、どんな山でも変哲とやらには無縁になってしまうだろう。とにかく、自分の立っているところと、そのまわりぐらいしか見えないのだから。でもここは雪がいっぱい。池塘もあって、晴れてさえいたらのんびりしてみたいところに違いない。
 日向山を過ぎると再び傾斜がきつくなる。熊笹の中、小川のような水の流れる道を登る。きつかった登りが終りに近づく頃稜線に出た。ここから中ノ岳まではすぐでそして、中ノ岳の避難小屋が見えた。
 この小屋は無人だが、なかなかきれい。毛布も置いてあったりして快適で中にテントを張る。すっかり濡れてしまった服や体を乾かす。男5人、板の間に毛布を座布団にして車座になれば、あとは飲み、食うだけである。今日の悪天を呪い明日に望みをたくす、それしかない。しばしきつかった今日1日を忘れ話に花を咲かすのだ。外に出てみれば、ガスも晴れて、雲はあるのだが駒ヶ岳も見える。八海山に雲間から漏れる夕日が当たり美しい。しかし、今回の山行中展望を楽しんだのはこの時だけだったのだが。
 明日は天気も回復するときめつけて、寝袋に入ったのがいけなかった。翌朝目覚めると外は、私達をあざ笑うかのように、強い雨と風、そして寒さ。最悪だ、そんな馬鹿な、昨日よりひどいぞ。でも、行かねばならぬ。
 まずは急な下り、そして桧廊下、ただひたすら歩く。ゆっくりと休みもとれない。なにしろこの天気だ。天狗平では強風に動けず、足をふんばって風をやりすごそうとするが、そのままの姿勢でバタンと倒されてしまった。服部さんのザックカバーは、はるか下の谷底に飛ばされた。風の息をつく時がなくて、どうなるかと思ったが、天狗平の鞍部を過ぎると少しは弱まった。
 風と雨の中、駒ヶ岳に着いた。そんな訳でこの山も何の変哲もない山になってしまった。駒の小屋に下りる途中2人組のパーティーに会った。これから中ノ岳まで行くのだそうだ。ゴクロウサマ。急な雪の斜面をスキーよろしく滑って行くと駒の小屋である。
 オヤジさんが一人で小屋の番をしていて、コンニチワ。小屋で登頂記念の湯呑をいただいた。この小屋ではやって来る登山者全てに、ノートに名前を記帳させていて通し番号をふっている。そして私がちょうど210番目という、きりのいい数字だったのだ。小屋のオヤジさんにするときりのいい数字らしいのだが、私にはただの何の変哲もない210にしか見えない。でも、そんな訳で湯呑をいただいた。大事にしなければいけない。他の4人には気の毒なことをした。リーダーだけいい思いをしてしまった。
 小屋で腹ごしらえをして、後は下り一方の道を行く。こちらは雪が多く、夏道もかくれていたりして、ルートを捜さねばならない場面もあった。ただ黙々と下るだけでは面白くない。なんと私達はコシアブラを見つけて採り、集めるという、この上もない楽しみを発見した。道はぬかるみ、川の流れのようで靴の中もグショぬれ、もう「雨に唄えば」の心境であった。
 小倉山を越え、小倉尾根に移るともう樹林の中。標高が下がると、コシアブラの葉もだんだん大きくなってくるのがわかる。いい加減ヒザがガタガタしてきた。そんな頃に駒の湯の屋根が見えてきた。
 大湯温泉で雨に濡れ、冷えた体を暖め、ビールを一杯、大湯から小出へはバス。小出の駅前で「いつもの」を買い求め、ホームで列車を待つ。この頃になって、ごくろうさまと言わぬばかりに明るい陽がさしてきた。こんなものさ、世の中は。川田さんはじめ、メンバーの方々、お疲れさまでした。ホントに。

〈コースタイム〉
6月4日 十字峡発(8:00) → 千本松原(9:10) → 日向山(11:10) → 池の段(13:50) → 中ノ岳(14:15) → 小屋着(14:20)
6月5日 小屋発(4:55) → 天狗平(6:50) → 駒ヶ岳(8:00) → 駒の小屋(8:40) → 小倉山(9:55) → 駒の湯(11:40)

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