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編集後記

 突然ですが、妖怪です。密かに人の目に触れないところで悪さをし、見つかると何処へなりと姿を消す――日本の政界・財界には人を食いものにする妖怪がばっこしているようです。近ごろは妖怪世界も近代化が進んで、腰掛ける株も木の切り株とは限らなくなったようで、それなりに気苦労も多いことでしょう。
 『山男』『山女』という妖怪がいます。『水木しげるの妖怪文庫(三)』によると、遠州・秋葉の山奥に出現した『山男』は、背丈は低くても六尺以上,大きいのになると二丈(6m)以上あり、常に単独行動で、住処は誰にもわからないが、重い荷を背に山道を歩いていると、よく里までその重い荷物を持ってくれて、お礼のお金も受け取らない。だが酒好きで、与えると喜んで飲んだそうです。箱根の山奥に住んでいた奴は、木葉樹皮を見につけ、絶壁の道なき道も鳥が飛ぶごとく行くことが出来、赤腹魚をとって暮らしていて、市のある日に里にやってきては米ととりかえてもらって、用事が済めばさっさと帰って行ったのだそうです。
 一方『山女』は、菅野三郎左衛門という侍が早朝ある山で目撃したのは、ざんばらの洗い髪をした色白の美人だったが目つきは人間のものとは思えないほど恐ろしいもので胸から下は松の樹林にかくれていたのでボインかペチャかはわからないが、松の上に顔が出ていたからには背丈は一丈以上はあったのだそうです。熊本の菊地郡虎口村に姿を見せたのは、もとこの村に嫁にきた女で、3年前急に行方知れずとなっていたのが、本人の3年忌の最中に突然帰ってきた。驚いて問うと、自分は深葉山から矢筈嶽のあたりに住んで人を喰って生きている。山に居る時の姿はこうです、というと身の丈一丈ばかりとなって頭からは角が出『山女』の本性を現わした、のだそうです。
 社交性があり、どことなく人の良さそうな『山男』と、魔性的な『山女』。ぼくはこの事実の前に「う~ん」とうなってしまったのでした。


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