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丹沢表尾根から丹沢山・蛭ヶ岳・焼山(GOGO山行)
服部 寛之

山行日 1988年10月9日~10日
メンバー (L)服部、大石

 灰色一色だった空が久方ぶりに晴れ上がった日曜日の朝、僕は何年か振りで小田急線の秦野駅にやってきた。青空を待ちかねて繰り出してきたハイカー達で既に駅前は休日の賑わいを見せていた。辺りの見覚えのある風景に次第に記憶がよみがえる。立ち喰いそば屋の店構えは変っていない。この駅は確か以前は『大秦野』といっていたのだが、いつの間にやら『大』が落ちていた。人口流出で町が小さくなったのか? マサカ下血の天ちゃんをおもんぱかっての『自粛』ではなかんべえなどと思い悩みつつウロウロしていると、待合わせの大石氏が食い物屋からのっそり出てきて、いつ来たんですかもぐもぐ、待ちましたかもぐもぐ、ザックあっちに置いてあるんですもぐもぐ。満員の臨時直行バスでヤビツ峠へ向かう、ぎゅうぎゅう。
 峠のキジ場でスッキリすると、心は軽く身も軽く、青いお空に唄も出る。『峠のわが家』はいい歌だ、『峠のキジ場』はおせわさま。だらだら坂道くだって行けば、名泉百選ふじみ小屋。飲んでもそんなに美味しくないゴクゴク。ガヤガヤ山道登って行けば、やがて乗り越す鹿の柵。視界は開けて振りむけば、あらまびっくりいい景色、海は青いな大きいな、行ってみたいな波浮みなと。(注・温泉あり)右手に伸びるは伊豆半島、左手はるかに三浦のお里、どうしているかな百恵ちゃん、ぼくはいたって元気です。尚も行きます二ノ塔越えて、おっこらせいの三ノ塔、ベンチに腰かけヂガレダビイ。おむすびおひとつ取り出して、見れば塔ノ岳雲の中、海もボヤけてボーワボワ、お空と海が混っちゃう。尾根道この先ドンと下りる。以前来たよりとーいーなあ、距離感調子で違うもの、デブって悪いかこのヤロウ! 細いやつらがうらやましい。行者岳オッコラショと打ち越えりゃ、カイサク小屋は賑やかだ。うちもここらで大休止、時間はあるわいくさるほど。おにぎりかじればお隣りは、おいしそうだなゴーセイだ、犬までイイモン食っている。ムムッ! 忍ニンニンジャのハットリくん、欲しがりません他人のめし、武士は食わねばにぎりめし。にぎりこぶしに決意もかたく、ピーク目指して「よっこらしょう!」道はこの先ガスの中、ニューと出ましたニューロッジ、忙しそうな若夫婦、商売繁盛祈ります。息が切れます急登は、デブった分だけ重労働。やっとついたよ塔ノ岳、ガスも濃いけど人も濃い、人はむれます集団心理、むれたら脱いですずみます。見ればガヤガヤ人だかり、ナンダナンダと参ずれば、おやまかわいい鹿さん親子。丹沢山への尾根道は、感じが良くて静かです、途中の景色もきれいです。丹沢山にゃ小屋一軒、こちとら気楽な天幕だい、離れて張ればタダなのだ。だけど水場はちょと遠い。めしを食ったらすることない、おいちょかぶやるにも札がない、二人じゃワイダン盛り上がらん。雲は茜に染め上がり、森は静かに暮れて行く、鹿の鳴き声やみに消え、嗚呼たそがれの山の旅情よ!・・・「プウ」・・・テントじゃキジが鳴くにけり・・・・ああクサ。
 朝ぼらけ霧立つ空のまよひにも。昨日は調子良く来たが、この日も調子良くいってしまうのである。だがここで文体はガラリと変ってしまうのである。特殊な理由はないがそうなのである。ずるずるごっくんずるずるごっくんとカレーウドンを正しくすすり込むと50mの視程の中を蛭ヶ岳に向け出発した。蛭ヶ岳は名前は気持ち悪いが丹沢で一番高くてエライのだ。そこへの道も全般的に上りなのでエライのだ。歩いているといつの間にか顔といわず手といわず蛭がびっしりぬめぬめのじゅるじゅる梅図かずお猟奇錯乱ビックリ同好会的状況に陥るという心配は、全くなかった。1時間で鬼ヶ岩通過後20分で蛭ヶ岳頂上に着いた。一面のガスの中、広い頂上には既に5~6人の登山者が点々と休んでいる。ぼくらも傍らの草の上にザックを下ろして休憩。登山者達は順次北の焼山方向に下りて行った。ここからは檜洞丸経由で中川温泉に下れるが、そっちへ行こうかどうしようか純粋に悩み苦しみ更にもだえぬき、結局予定どおり焼山ヘ行くことにした。中川温泉には以前入湯したことがあったからである。しばらく下って行くと突然ガスが切れて展望が開けた。広河原の谷を隔てて大室山が大きい。その裾をからむ林道が白い筋となって見苦しい。あの白いガードレールは何とかならないものなのか! 地蔵平を過ぎ原小屋平(小屋跡)で先行の2パーティを追い抜き、普通にとばして、ややかったるげにだがマダマダナンノナンノといった感じのハッタリ風の余力を見せながら姫次に到着。ここは木製のテーブルみたいな台が幾つかある展望台で南東側がほぼ152.6度の角度で開けているが、好意的に見てもあまりハッ!とするような景色ではない。ここから空荷で袖平山まで往復する。方道10分。頂上の展望は南側が開けているが、姫次から単に500m西に同じ高度で移動しただけであるので景色はほとんど変りなかった。姫次から下り一方の東海道自然歩道ハイウェイを行くこと1時間15分で焼山に到着。道を下って来たらみんながガヤガヤ集まっている広場があったので寄ってみたら焼山のピークだったという感じであった。ぼくたち正しい少年団中学生が10人位、草の一等地を占拠しており、その他に家族一丸今日は楽しいハイキング風なのや、ワンゲル風プッチン女子大生2人組やら、その他諸々計20数名がいた。
 そこには鉄製の螺旋階段式の狭く細長い展望塔があったが、上がったままなかなか下りて来ない奴らを呪いながら出発しようとしたその時、ぼくたち正しい少年団風中学生の一人に「気をつけて行って下さい」とトートツに声をかけられてしまった。驚くと同時にこそばゆい感じがしたが、彼らはそれ程までに正しく少年団精神の実践・修行・体得に燃えているのであった。言われたとおり素直に気をつけながら順調に下ること1時間10分で西野々のバス停に着いた。下りきって沢を渡りすぐ林道に上るとバス停までは5分とかからないので、バスの時間がわかっていたら沢で時間を潰すのも良い。バス停の処の店屋はカーテンが閉って閉店休業中であったが、大石氏はアイスクリーム喰いたい一心から勝手口を襲いむりやり店を開けさせた。このあつかましくも見習うべき高等技術は人徳によるところの大きい大石氏の隠し技である。アイスクリームに高ぶる昂奮を抑えながら平和のうちにめでたくバスで橋本駅に出て帰宅した。

〈コースタイム〉
10月9日 ヤビツ峠発(9:20) → 富士見山荘(9:35) → 三ノ塔(10:55~11:15) → カイサク小屋(12:35~13:00) → 塔ノ岳(13:54~14:10) → 丹沢山(15:20)幕営
10月10日 丹沢山発(6:55) → 蛭ヶ岳(8:20) → 姫次(9:53)(袖平山往復)(10:30) → 焼山(11:45~55) → 西野々(13:05)

水場情報


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