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谷川岳一ノ倉沢
金子 隆雄

山行日 1989年9月30日~10月1日
メンバー (L)金子、山本(信)、井上(博)、荒川、別当

 毎度お馴染みの一の倉沢ではありますが、オジサン3人と若者2人の岩登り奮戦記を読んでやってください。
 9月29日、いつもの夜行列車で上野を出発。土合に着くと雨が降っているので駅で寝ることにする。この時点で今日の三スラはほとんどあきらめた。雨が上がったとしても岩は濡れているだろうからだ。濡れたスラブなんか御免被りたいものだ。朝になって雨は上がっていたが、あまりスッキリしない天気だ。誰もいなくなった駅で遅い朝食を摂りボチボチと一ノ倉沢の出合いへ歩きだす。このところ登攀とは縁遠くなっていて、久々に谷川を訪れたが土合駅周辺も少し変っていた。土合の山の家に通じる立派な道路ができているし、トンネルの手前には観光ホテルが建設中である。
 明日は慰霊祭があるらしく慰霊碑の周辺の手入れが行われている。指導センターで計画書を出したついでにコーヒーをご馳走になりながら舞たけ談義にしばし耳を傾ける。なんでも舞たけを採るにはそうとうな忍耐と根性と体力が要るらしい。来年はゲンさんのところに舞たけが届くそうだからその時期を狙って押しかけてみようかと思っている。
 今日の予定の三スラは中止したので時間はたっぷりとある。マチガ沢出合いのマムシ岩でしばらくボルダリングなどやってみる。一ノ倉沢の出合いにテントを張り終えると、ゲンさんはどうしてもサンマが食いたいと言って水上まで買いに出かけていった。残りの4人で幽の沢出合い付近の岩場へ遊びに出かけることにする。夕方テントに戻るとちょうどサンマが焼き上がっており、水上で買ってきたビールを飲みながらサンマに箸を伸ばす。ピラニアのいる川に落ちた牛のようにあっという間にサンマはその骨だけを横たえている。焚火を囲んで夕食を食べ、酒を飲んで心休まる夜を過ごす。
 翌日は4時起床で5時半に出発。空は秋晴れの良い天気。雪渓がなくなる今の季節のアプローチは相変わらずいやらしく時間がかかる。約1時間半で鎌形ハング下に到着。ゲンさんと別当で南稜フランケを、井上、荒川、金子で南稜フランケダイレクトを登ることになった。鎌形ハングの下は上から垂れてくる滴で結構濡れている。ここは最近良く頑張っている若者に任すに限るということでトップは辞退する。2ピッチ目を登り終ったところでゲンさん達が南稜フランケからトラバースして我々のルートに合流してきた。南稜フランケも濡れていてとても状態が悪いらしい。2パーティが入り乱れて後1ピッチ登ると南稜に合流して終了である。今日の一ノ倉はとても混んでいて、南稜テラスなどは一時は20人以上もひしめきあっていた。我々がテールリッジを降り始めたときにまだ衝立では順番待ちをしている人がいた。あれじゃ今日中には降りられないな、などと言いながら出合いまで戻るとそこは観光客に占拠されていた。
 「エー!ウソ あんなとこ登ってる」
 嘘も何も実際登っているのが見えるじゃないか、と言いたいのをがまんして撤収にかかる。一の倉沢も少し前まではクライマーだけの静かな所だったが、今ではすっかり観光地になってしまってなんか違和感を感じてしまう。でももう直ぐ谷川にも雪が降る、そうしたらまた一の倉も静かな一の倉に戻ることだろう。


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