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東沢溪谷・釜ノ沢
その1 釜ノ沢アクシデントの巻
千代田 美紀

山行日 1989年9月2日~4日
メンバー (L)荒川、福澤、勝部、菅原、井上(雅)、大泉、牧野、日野、飯塚、千代田

 拝啓 三峰のみな様
 金木犀の香り、ススキの穂、コスモス街道、色づき始めた木々、四国の秋も少しづつ深まっています。みな様お元気でしょうか。送別会の際は、心あたたまるお言葉や、また花束などいただきまして、ありがとうございました。なによりも、お忙しい中、私ども(?)のためにお集まりいただきまして、うれしく思っています。この会報が発行される頃は、うまく行けば、私もWの生活が始まっているはずなのですが・・・・・・。
 現在は、四国の宇和島にてのんびりとしています。三食昼寝付き、それもタダメシ、タダビール付きとくれば、毎日が極楽のごとく、市川で、ガキ相手に、赤眼吊り上げて生活していた事が、うそのようです。毎日、こうも徹底してゴロゴロしていると、なにをするのもめんどくさい。特に筆を持って原稿を書くなんて、めっそうもない事と、常々考えている私、のはずでしたが、またしてもいい加減に安請合な返事をしたばかりに、〆切りはもう過ぎてしまったというのに、こうやって筆をとっています。Mr.H.Hさん、ごめんなさい。また〆切日に間に合いませんでした。

 9月2日 夕べのうちに予約しておいたタクシーにて、西沢山荘入口まで入る。(塩山駅前・峡東タクシーは予約すると十帖くらいの部屋で仮眠させてくれます。)天気予報では、土曜も日曜も、くもりのち雨とかなんとか。どんよりした雲が早くもたれこめて、これから沢に入って遊ぼうというのに、いやな気分にさせてくれる。リーダーいわく、先週も台風の湯檜曽を溯行して来たとかなんとか言って、まっ、とりあえず出発した。(このとりあえずって、毎度ながらのいやーなパターンなのよねぇ。)まだ9月の第1週というのに肌寒い。沢の中にはなるべくつかりたくない私、往生際悪く、水の中にはいるまいとするけど、腰のあたりまでつからねば、溯行できない箇所数々、釜の沢名物・すべり台では、わざとにすべって冷たい水の中にとびこんでた人がいた。(よーやるわ。)300mとつづくナメ滝とか、お天気さえよければ、明るくて、水のきれいな、非常に美しい沢でしょう。ま夏のカンカン照りの時に行けば、メチャ楽しかろうと思います。(簡単でおもしろくて、きれいな沢ベスト3 ―千代田おすすめ― は、この釜の沢、米子沢、それから北アルプスの赤木沢、おすすめです。)釜の沢の名所、両門の滝は一つの釜に二つの沢が落ちこんでいる美しい滝。しかし、寒くてひと遊びする元気がなくて、泳げる沢登りの時は、お天道様がカンカンに照らしてくれる時に限ります。そんなわけで、この両門の滝は、どう登るかというと、滝の左わきに、1本の丸太がかかっていて、そのぬれた、つるつるの丸太をよじ登ります。私、やっぱりすべって落ちて、たっぷりぬれました。朝7時半に出発して、テントを張ったのが4時、5・6時間も歩けば、テント場に着くというリーダーの一言を信じたのに、やっぱり荷物を持った沢登りは、しんどい。その夜、若者テントでは、荒川さんの、本当にくだらないのですが、小話しで、もり上りましたので、こん度機会があれば、荒川さんの小話しをきいてみてください。
 9月3日 昨夜未明から本格的に降り始めた雨は、一向にやまない。どしゃ降りの中、テントをたたんで頂上へ向かう。昨夜からの雨で、沢の水の色はまっ茶っちゃ。ようやく稜線にでて、甲武信の小屋ですこし休んだあと、一路下出する。あと数時間で温泉に入れると思うと、大雨もなんのその、下りだもん、思わず走っちゃったもんねー。しかし、下り道、時々見える沢の様子は、水量は増えているし、まっ茶っちゃだし、ものすごい濁流となっている。けど、心は温泉へ。濁流なんて関係ない。しかしだ!! 山は思い通りにならない、計画通りにならない、がまんすること、待つこと、試練を与えてくれてしまった!!。目が点になったとは、このこと。せっかく小屋から2時間半も下ったというのに、ちょうどそこは、ヌク沢を横切る所なのですが、正規の登山道は濁流にのまれてしまって、とてもじゃないけど、まともに渡れそうもない。普段なら岩がでていて、その上をピョンピョンと渡ればいいのだろうけど、とんでもない。岩が流されてぶつかり合う音は聞こえてくるし、このドウドウと流れる濁流の中、どうやって渡るのよねぇ。ザイル張るったって、一体、誰が向こう岸までかけるの? 流れの向こうには、登山道がみえているというのに。別ルートを探したけど、どこも無理、地図を広げて、まわり道を探してみたけど、どっちみち、今日中に帰れるのは無理。食糧もない、全員ズブぬれ、燃料もあまりないとのことで、結局、頂上の小屋まで登り返す事になってしまった。ゲッ!! あーあ、バス停まであと1時間程だったのに。頂上に向かう程に風は強くなるし、あたりは暗くなってくるし、気分の重いことっていったら、ありゃしない。それでも小屋について、着がえて、食べるもん食べたら、一段落ついた。 一泊三食で5千円は痛いけど、こういう時、小屋はありがたい。それで大切な事がもう一つ。明日は月曜日、みんな仕事を休むという連絡を電話がないため、無線で連絡を取ってもらい、代表で勝部の久美子さんに。(久美子さん、連絡大変だったでしょう。ご苦労様でした。)布団も好きにつかってよいとのこと。外は相変らずの雨、内はあったかいお布団、ありがたい、ありがたい。
 9月4日 まだ雨は降り続いている。しつこい!! この分では、昨夜渡れなかった沢は、今日も増水して渡れないはず。それで、小屋のおやじに、地図にはのっていないけど新しくできた林道を教えてもらい、やっと下山できた。メデタシ、メデタシ! 途中からちゃっかり組は、トラックの荷台にのせてもらって。この頃には、雨も上がって、いったい、昨日の雨は、なんだったのよねぇ。
 天気予報は『雨』でも降らない時もあるし、『くもりのち雨』でこんな大雨になってしまうことも・・・・・・。山って行ってみないとわからないことって、多いんだよねぇ。

〈コースタイム〉
9月2日 塩山駅発(6:00) → 西沢山荘発(7:30) → テント場着(16:00)
9月3日 テント場発(7:00) → 甲武信小屋(10:30) → 小屋発(11:00) → ヌク沢を横切れなかった所(13:30~14:00) → 甲武信小屋着(19:00)
9月4日 甲武信小屋発(7:00) → 西沢山荘(11:00)

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