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正月合宿・甲斐駒ヶ岳
その3 日向八丁尾根隊
鈴木 章子

山行日 1989年12月30日~1990年1月3日
メンバー (L)菅原、勝部、大泉、飯塚、鈴木(章)

 1月10日ルームに顔を出すなり菅原さんが、
 「アキコさん、活字にしてみたいと思いませんか」
 「?」
 「きっと、すてきになると思いますよ」
 「・・・・・・いいわね、活字ね、フーン?」
 「じゃあ、原稿、お願いします」
 「えっ!?」
 「お願いしま~~~~~ す」
この年になっても相手の手の内が読めなかった自分がなさけない。菅原さんには、注意しなければ。
 今回の日向八丁尾根~甲斐駒~北沢峠へのルートは、11月に鋸岳~甲斐駒の山行時に決まった。三ツ頭から延びる尾根が気になって気になって。ほとんど同情出演と食当のために参加を許された私。そしてリーダーは菅原氏。メンバーは28日の夜まではっきりしない。結局、最終的に菅原氏・勝部氏・大泉氏・飯塚さんそして私の5人になった。内心、とても良かったです。大勢で行くルートでは決してなかったから。
 「誰が来てる?来てない?」いつもの会話で始まる集合場所。同じ電車でありながら、金子隊・服部隊と乗る場所を別にする。でも、これが後で以外なプラスを・・・・・・。1月3日には皆と一緒に帰れる。皆と合流して帰路を辿る。この時の気分が、とても私は好きです。この時の皆の顔を見るのが大好きです。
 12月30日
 長坂駅からタクシーで日向山登山口へ。タクシーの運転手、「荷物が多い」とブツブツ。そんな事は御構いなく、乗ってしまえばこちらのもの。「とにかく、私たちは日向山へ行きたいの!!」暗闇の中、イヤイヤ歩き出す。なんで来てしまったのだろう。荷も重い。引き返す勇気もないまま、登って行く。日向山までは雪はほとんどなく、快適な登りだった。途中で朝食を取った時、3人(男)パーティに出会う。これが三ツ頭あたりで3人組(男)鋸岳に行くパーティと出会うまでは、最後の出会?になった。
 日向山からは、歩きにくい道が続く。初日はただでさえ嫌なのに、皆が頑張っているから何も言えない。ルートは赤布が所々にあり、迷う事はない。先頭を菅原氏がグングン行く。元気印が歩いて行く。私は、顎で水車を廻すほどの汗と、20センチくらいの雪と、高級メニュー?のザックで悶えている。わずかの支えは、好天と樹林帯の間から見える甲斐駒だけ。やっとの思いで大石山のコルに着いた時、
 「ここで幕」
嫌に嬉しかったあのことば。時刻は午後1時50分。幕を張り終えて、大泉さんの顔色の悪さに驚く。大丈夫だろうか。
 12月31日
 大泉さんの体調が悪いので停滞。他の4人の朝起きた時の意気込みは立派だった。ヤレ偵祭だ。ヤレゴミ炊きだ。結局、何もしない。一日飲んで終わった。午後、テントの中で火事騒ぎがあったくらいで、大晦日は静かに過ぎて行った。
 1月1日
 「アケマシテ、オメデトー」でも、昨日、お正月をやってしまった私たちには、残り少ない酒と日数の配分に悩まなければならない。3時半起床。大泉さんは、何とか行けると言う。初日からほとんど食べてない彼に、お粥を作る。心の中で祈る気持ちは、皆同じだと思う。
 6時半出発。今日が今回の山行の核心部、現在位置を頭の中の地図でざっと確認。ルートファインディングは菅原・勝部両氏に甘えさせてもらう。私はただ最後を赤布をつけながら付いて行く。昨年の岳人・三月号正月レポートと、僅かなトレースを辿って行く。赤布は所々に有り、ルートは特別大きな間違いをする様子はなかったと思う。大石山の下降点と鳥帽子岳の登りに以外に時間を費やす。鳥帽子岳手前のピークから鳥帽子岳を見た時一瞬茫然とした。どう登って良いか、遠くからでは分らなかった。時刻は1時半、気温も下がり始める。早く幕場へ着きたい。最後を行く私もバテぎみ。先頭を行く菅原・勝部両氏に感謝。そして、私の前をもくもくと歩く飯塚さん、大泉さん、アリガトウ。
 4時、鳥帽子岳と三ツ頭の鞍部で幕。寒くて何もする気が起きない。心も、体も、外気も、完全に令えきってしまった。3時間近くたって、ようやく体も暖まり、食事を作る元気が出てきた。今夜は遅くなりそう。明日は少し寝坊したいな。
 1月2日
 5時起床。今日は早川隊と出合える。少しワクワクする。7時20分出発。又、菅原氏のラッセルから始まる。彼の元気に脱帽。稜線に出てからは、伊那谷側の風が強い。雪も舞っている。稜線に出たらルンルンで歩けると思っていたのに、ウソツキ!!「トレースがあって、六合目小屋からすぐ山頂」この夢はどこに行ってしまったの。三ツ頭を少し過ぎた所で、鋸岳に行く3人のパーティに出合っただけ。トレースどころか、自分たちでルートを探さねば。六合目小屋から長かった事(11月に来た時の事、すっかり忘れている。)山頂へ着いたら涙で乾杯しようと思っていたのに。騙され騙されしているうちに、涙がホロリ。
 「山ナンカ、絶対、止メル! モーー」
 やっと着いた山頂、3分居ただろうか、写真を2枚撮って下山。途中で早川隊と出会う。心の中から嬉しかった。残るは、駒津峰と双子山を登れば、今日は全て終わり。北沢峠では、ビールが私を待っている。早く行け早く行け、心だけでも早く行け。
 1月3日
 今日は下山日。うれしいうれしい合流の日。昨日北沢峠で合流した小林さんと、朝食の五目焼ソバを食べる。以外に美味。もう少し食べたいなあと思った。7時、合流予定。のんびりと出発準備をする。まだかまだかと待つ。7時40分、「モトー」コールが聞こえる。何となく明るい。金子隊との連絡がとれないのが少し不安。私達は一路戸台へと出発。7時45分。

*    *    *

 今回の登山で、甲斐駒への主要尾根は全て歩く事が出来ました。しかも、三峰の仲間と。甲斐駒が特別好きな山ではないけれど、誘われるがままに年数を重ねていった結果です。気が付けば全て歩いていました。続けると言う事は大変な事だと思います。でも必ず朗報を連れて来るような気がします。皆さん、本当にありがとうございました。そして、私、もう少し山を続けても良いでしようか?


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