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鋸岳・甲斐駒ヶ岳
大泉 洋

山行日 1989年11月3日~5日
メンバー (L)菅原、勝部、荒川、鈴木(章)、大泉

鋸岳西面概念図 11月3日、晴れ。戸台~角兵衛大岩下ノ岩小屋。
 伊那北よりタクシーで戸台まで入る。タクシーの運ちゃんに聞くと一昨日あたりに降雪があったらしく、窓から見える山々の頂は真白であった。戸台山荘の前で準備を整え、何度か徒渉を繰り返しながら角兵衛沢の出合い目指して、戸台川を進む。出合いからは樹林帯の中を進むのであるが、踏跡がなかなか分からず、1時間位、右往左往してしまう。ひたすら樹林帯を登り続けると、やがて視界が開けてきて、角兵衛の大岩が目に飛び込んでくる。基部を右ヘトラバースしていった所が、大岩下ノ岩小屋である。時間はまだ13時で早いのだが、今日の予定はここまで。早速、テントを張り外で宴会を始める。メニューは手巻き寿司とつららで割ったウイスキー・オン・ザ・ロック。しかし、最高であった。水は岩から湧き出ているので、心配はない。
 11月4日、晴れ。大岩下ノ岩小屋~鋸岳~甲斐駒ヶ岳~七合目小屋幕営地。
 今日は核心部をトレースするので、朝から気合が入る。不安定で大きな石のガラ沢を落石に注意しながら、角兵衛のコルまで「ハアハア、ゼェー、ゼェー」言いながら、けっこうな傾斜を登る。左にスフィンクス岩が見えてきて、やがてコルに着く。コルからは小灌とハイマツ帯が続き、それらにつかまりつつ登って行くと、第一高点となる。眺望はかなり良い。
 いよいよここから先は岩稜帯となり、だんだんとおもしろくなってくる。小ギャップを難なく乗り越え、鹿窓をくぐり、大クローアールをクライムダウンするが、これが悪い。なにしろ岩がモロく、ボロボロとはがれ落ちてしまう。ホールド・スタンス共にあまり信用出来ないので、慎重に下る。(30~40m位)要落石注意である。大ギャップ下のトラバースもこれまた悪い。足元は50cm位のバンド状になっているのだが、ホールドとする岩がモロくて全く信用出来ない。もし落っこちてしまえば、100m位を一気にグランド・フォールである。わずか10m足らずのトラバースであるが、全員顔をひきつらせつつ、だましだまし通過する。私などは、緊張でノドがカラカラに渇いていた。
 トラバースが終った所からは、第二高点から派生する尾根をブッシュを頼りによじ登って行く。(ここのブッシュにはけっこう雪がついていた。)ここで、鋸岳の核心部は終了である。予想以上に悪かった。風化がかなり進んでいて、困難ではないが、危険である。
 中ノ川乗越への下降はザイルを使用する。(5~6m)ここはテントが張れる。あとは甲斐駒ヶ岳を目指して、なおも起伏が激しい稜線を進むだけである。頂上では、今井さんと今井さんの友人のノリちゃんが待っていてくれた。(なお、頂上にはくるぶし位までの雪があった。)七合目の幕営地にテントを張る。しかし、鋸岳の岩稜を"悪魔的"だとは、よく言ったものだと思った。
 11月5日、晴れ。七合目小屋~黒戸尾根~竹宇駒ヶ岳神社。
 黒戸尾根を、勝部さんの走るような?スピードで下る。韮崎で汗を流し、食事をしてから、元気に帰路につく。

*    *    *

 鋸岳は是非行ってみたい山の一つであった。登山を始めたころ、南アルプスに憧れ、その中でも難所が多い山という点が気に入っていた。単独行などの計画も立てたりしたが、恐れの方がはるかに大きく、実行されずにいたのだ。そんな訳で、私にとっては、実に"5年越しの夢"が実現したことになる。今回の山行は3日間とも晴天に恵まれ、そして、良いメンバーにも恵まれ、ひさびさに会心の登山が出来た。6月に会社を辞め、生活にも変化があり、何かと気忙しい日々を送っていたものだから、喜びはひとしおである。ずっとホワイトアウトしていたハートもピーカンになった。これからも、このような充実した山行を三峰の仲間と共に続けていきたい。


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