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平成二年度春山合宿・槍ヶ岳
その1 東鎌尾根隊総括
服部 寛之

 東鎌尾根から槍ヶ岳登頂を目指す東鎌尾根隊の予定コースは、所謂表銀座コースで、中房温泉から燕岳(燕山荘)へ上がり、尾根を南下して大天井岳、赤岩岳、西岳を経、東鎌尾根から槍ヶ岳に登頂、槍沢を下って上高地のベース隊に合流するというものであった。日程は5月3日から6日までの3泊4日である。事前の「岳人」5月号の情報では、今年は林道工事の為一ノ瀬の少し先までしかタクシーは入らないとのことであったので、一ノ瀬から中房温泉まで3時間の林道歩きを覚悟したが、実際にはタクシーは一ノ瀬第四発電所からかなり上った所まで入ってくれたので、林道歩きは約2時間で済んだ。しかし2時間のアスファルトの道は、縦走初日の荷の重さと夜行の睡眠不足とが重なり、全員予想以上に身に堪えた。林道工事は、実際にはトンネル工事であった。
 山道に入ってからの様子等はこの後の原稿に譲るが、この初日3日は幕営地の燕山荘に着くのが先頭の者と最後の者では1時間以上の開きがでてしまい、終日快晴であったから良かったものの、いつの間にかパーティが崩れてしまったのは非常にまずかったように思う。多人数のパーティの場合、足並を揃えるには、やはり事前のきちんとした打ち合わせが必要であった。リーダーの一人として反省している。
 ところで、メンバーは13名と多いので、テント毎三つの小パーティに分け、各テントにテントリーダーを置き、全体をチーフリーダーが統轄するという形を採った。食料計画もテント毎に独立させた。
 2日目、4日の朝は、初め天気の崩れる速度を計りかねていたが、結局行ける所まで行こうということになり出発した。次第に強まる風雨の中、大天井岳の頂上に上った頃には全員下着まで濡れている状態で、(この時期、雪崩の危険の為大天井岳はトラバースできない。)全員の疲労状態を考え、行動を打ち切って町営大天荘前に幕営した。
 3日目、5日は夜が明けても低気圧は依然通過せず、風雨は増々強まるばかりで、とても行動するような天気ではなく、この時点で槍ヶ岳登頂はあきらめざるを得なくなった。各テント共シュラフまでぐっちょり濡れている状態で、Bテントのフライが裂けたのを機に順次大天荘に逃げ込んだ。昼頃前線が抜けて強風は弱まったが、気温が下がって雪となった。この日は一日停滞し、大天荘泊りとなった。
 ところで、他パーティとの連絡は無線で取り合うことになっていたが、北鎌パーティとは前日4日の朝以来連絡が途絶え、強風の為万一のことでもあったかと心配した。西鎌スキー隊、ベース隊とはアマチュア無線で交信を試みたが、そちらも両方共連絡は取れなかった。しかし大天荘から電話で東京の播磨さんを通じてベース隊の様子を聞くことができ、またスキー隊が無事ベース隊と合流したことも知った。北鎌隊は実際は3日夜から5日朝までP8に留まっていた訳で、大天井岳とは谷を隔てて4キロ少々の距離で向かい合っているだけなのにどうしてCB無線の電波が届かなかったのか、よく解らない。強風下では電波が流されることがあるらしいが、そうであったのだろうか。
 最終日6日、暴風雨で大気がすっかり洗われ、ピーカンの見本のようなピーカンとなった。前日の降雪で雪化粧した槍ヶ岳が真青な空に白く輝いて姿を見せた。感激の一瞬である。誰もが、今日下山しなくてはならない不運にくやしい思いをしたに違いない。「もう一日あれば・・・・・・。仕事休んじゃおうか・・・・・・」
 下山は大天井岳から南東に延びる尾根を辿り、常念乗越から東に一ノ沢を下りるルートをとった。途中、東天井岳のピークに寄って全員で写真を撮った。常念小屋からタクシー会社に電話し、林道の終点から松本の風呂へ直行した。その後、松本駅で北鎌隊の3人とばったり出合い、無事を喜び合った。嬉しいはち合わせであった。あずさ回数券で特急にて帰京。
 皆さん、お疲れ様でした。今回槍ヶ岳に登頂できなかったくやしさは、いつの日かきっと晴らしましょう。

メンバー
Aテント (CL)山本(信)、(TL)大久保、佐藤(明)、飯塚
Bテント (TL)服部、安日、荒川、阿部
Cテント (TL)今井、飯島、渡辺(昇)、牧野、斎藤

〈コースタイム〉
3日 林道工事のゲート(4:50) → 第五発電所(5:40~50) → 中房温泉(7:05~35) → 第二ベンチ(8:40~9:05) → 燕山荘(14:15先頭)(15:30ラスト)
4日 発(8:40) → 為右衛門吊岩通過(9:20) → 大天井岳頂上(12:15)
6日 大天荘発(5:45) → 東天井岳頂上(6:20~30) → 常念乗越(7:55~8:30) → 一の沢林道終点(10:17)
JR都区内→穂高(自由席特急回数券)一人4,630円
穂高→一ノ瀬の先の林道まで(マイクロ+タクシー計3台)9,680円
燕山荘幕営料一人400円
大天荘幕営料一人410円
大天荘素泊一人一泊4,120円
JR松本→都区内(自由席特急回数券)一人4,110円

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