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平成二年度春山合宿・槍ヶ岳
その5 山スキーで室堂から上高地
菅原 康之

山行日 1990年4月30日~5月5日
メンバー (L)菅原、鈴木(章)、江村(皦)

 スキーガイドブックを読んでいると一度は行ってみたいと思い、春山合宿が槍ヶ岳なのと、休みが一週間以上あり今回が一番適していると勝手に思いこみ、私のワガママで計画の一つとしてもらいました。本当にありがとうございました。

 4月30日 時れ
 昨日より章子さんの姉上さま宅にて、素晴らしい食べ物に舌づつみを打ち英気を養ったので今日から5泊6日の山岳スキーツアーにリキが入るが、いまいちアルコールが抜けない体調だ。早朝姉上さまの御主人に車で立山駅まで送ってもらい、早目にケーブルに乗れた。美女平でバスに乗りかえ、あたりは春たけなわという感じで高度を上げてゆく。しかし弥陀ガ原あたりからは白一色で、しばらくすると有名な雪の回廊となり、高い所では7~8メートルあるとのこと、よく除雪したものだと感 心している内に室堂に到着。
 室堂は、スキー客や観光客でごったがえしにぎやかである。我々も早々にスキー仕度をし姉上さま達と室堂に別れをつげ出発する。外へ出るとまわりはスキーヤーだらけでリフトがないだけでゲレンデ的喧騒感を感じるが、重荷を担いでのシール登高ですっかり忘れてしまった。向い風の中一ノ越まで上がると遠く先に槍ヶ岳が見え、ため息をつく。
 立山に登る登山客と別れ、我々は夏コースの浄土山方面に行く。向い風の登りで顔に当る雪が痛い。浄土山の肩に出ると今日のテント場五色ガ原がよく見え、ここで板を担ざ急な雪壁を下る。鬼岳までは尾根の左側を歩き、ここで始めて稜線の左側をくされ雪に注意しながら斜滑降をする。後でわかったのだが、鬼岳までは、一ノ越から御山谷を滑り龍王岳をトラバースし、雪渓を登り返すルートがとられている。
 獅子岳の登りでスキーを担ぎ、バックは立山が、横には後立山連峰が見える。我々の前後には2~3のパーティーが行動しみんな槍ヶ岳をめざしているみたいだ。獅子岳奥のピークからいよいよ下りである。ヒールをセットして重い雪面をける。尾根からはずれ中ノ谷をめがけ急な斜面を滑りザラ峠で今日の滑りは終りである。ザラ峠からは強風にあえぎながら五色ガ原まで登り、小屋の横にテントを張る。とにかく強風の為テントがもつか心配で夜もあまり寝れない。
〈コースタイム〉
室堂(10:10) → 一ノ越(11:10) → 獅子岳(15:00) → ザラ峠(16:00) → 五色ガ原(16:50)

 5月1日 晴れ
 朝食をすませると、昨日の強風がうそのようになくなり素晴らしい天気になる。五色ガ原は広い雪原で、シールをきかせながらゆるやかな斜面を鳶山をまきながら進む。途中ヌクイ谷へ切れ落ちた斜面を緊張しながらトラバースして稜線に出、ここからスキーを担ぎ越中沢岳の鞍部まで夏道を下る。尾根の途中で谷から登ってくる人と遇い、話をすると上部のトラバース中に滑落したとの事で、身が引きしまる思いだ。鞍部でスキーをはき、滑れば快適そうな斜面を越中沢岳までシール登行。山頂からは一転して急な岩稜のヤセ尾根で、ただでさえ重いザックにスキーを付けて慎重に下る。アイゼンを付けていないし、またスキーが岩やハイマツにひっかからないよう神経を使う。スゴノ頭を過ぎるとヤセ尾根から開放され、スゴ乗越よりシール登行でアップダウンを繰り返すとスゴ乗越小屋に到着。時間的に早いが、前方には薬師岳があり、今日には越えられそうもないのでここでテントを立てることにした。とにかく今日は、スキーをよく担いだし、けっこうアップダウンも多く少々疲れた日だった。
〈コースタイム〉
五色ガ原(6:30) → 越中沢岳(9:45) → スゴ乗越(12:30) → スゴ乗越小屋(14:00)

 5月2日 くもりのち晴れ
 今日はメインの一つ薬師岳に立てる日なのだ。しかし、天気がいまひとつぱっとしないが視界はよく、北薬師岳がよく見える。クラストした斜面にスキーアイゼンが小気味よくきく間山を過ぎると樹林もなくなり、広い斜面をジグザグ登行で高度をあげる。時たま雷鳥が鳴きながら飛んでいく中、江村さんに山名の説明をしてもらう。北薬師岳に近づくと左側に大きな金作谷カールが望め、白一色の為に遠近感がない。北薬師より薬師岳までは少々細い尾根で一部スキーを担ぐ所があるが、後ははいたまま行けるが、さすが薬師、けっこう時間がかかる。山頂には小さなほこらがあり、信仰の山を感じさせる。また一日に7回肌の色を変えるといわれているが、今回は白色だけだったようだ。360度の大展望を楽しんだ後、さっそく大滑降にはいる。雪質はザラメ雪、視界は良好、広い斜面を快適にと言いたいがザックが重いのと、シュカブラが所々にあるので思わぬところでスキーをとられる。広い尾根の右側斜面を斜滑降で滑り、避難小屋下あたりで左側に移り、中傾斜の気持ちのよい薬師平のスロープをややくさりかけた雪に注意しながら樹林帯に突入する。樹林帯では、先行パーティーのシュプールが入り乱れ、完全にくさった雪に足をとられメロメロになりながら薬師峠に滑りついた。ここまでくれば今日の宿泊地は目と鼻の先である。少々早く着いたが予定どおり太郎兵衛平でテントを立てる。ここはとても素晴らしい所で、北アルプスのど真ん中という感じ。黒部源流の山々が手に取るように見え、もう最高。
〈コースタイム〉
スゴ乗越小屋(6:00) → 北薬師岳(8:45) → 薬師岳(10:00) → 太郎兵衛平(12:15)

 5月3日 晴れ
 今日あたりから天気がくずれるのではないかと心配しながらテントから顔を出すと星がでており、今日も期待できる。
 今までは一日の行程が短かったが、今日はもっとも長い一日になりそうだ。またスキーをフルに利用できる楽しい一日でもありそうだ。早目に太郎兵衛平を後にし、小気味よくスキーアイゼンがきく斜面を北ノ俣岳をめざす。周囲を見るとなだらかで、広びろとした斜面はどこも素晴らしいスロープで快適そう。ほどよい傾斜のシール登行で北ノ俣岳に着く。展望抜群で黒部源流の山々や振り返ると薬師岳がどっしり構え、遠く白山も見える。シールを外しビンディングをセットして稜線の左側を斜滑降でトラバースぎみに下るが、シュカブラが多く思うようにスピードがだせない。黒部源流を見下ろしながら赤木岳を巻き、中俣乗越まで滑りこむ。ここで定時交信をするが入らず、2578メートルのピークを私はスキーを担ぎ夏道を、江村さん章子さんはシールにものをいわせて左側から越え、黒部五郎岳の登りをむかえる。急でクラストしている雪面を二人はシール登行で慎重に上り、私は夏道を担いで登る。一ノ越で見た槍ヶ岳は素晴らしく遠かったが、山頂で迎えてくれた槍は目の前に望め、だいぶ近くなった。山頂で写真を撮り、いよいよカール内の滑りだ。出だしは、雪庇を避け肩まで行き、東北東ヘ尾根を進む。カール底まで見わたせる所で、恐しく急傾斜でばかでかいカールを思いきって滑りだすが、雪質がくさって斜面を横ぎると雪面が落ちていく。ナダレそうで緊張するが、転倒はぜったいできない。カール底につくとまたまた長い斜滑降で黒部五郎小屋まで下る。小屋前より三俣蓮華岳の登りに変わる。日も高くなり、けっこう急斜面で体中から汗がふきでるが、ときたま吹く風がさわやかだ。稜線に上ると三俣蓮華も近くなり山行も終盤に近づいた感じである。蓮華谷を右下に見ながらトラバースし、今日最後のピーク三俣蓮華岳に到着。ここまでシール登行で登った。山頂で北鎌尾根を見ながら定時交信を行ったが入らず、山頂下の大きな雪洞にて風をさける。疲れた体にムチを打ち、また天気も少々悪くなり、早々に山頂を後にする。稜線どうしに短いアップダウンを繰り返し、双六岳の左側をまたもや斜滑降でトラバース。今日は本当に斜滑降が多い日だ。足腰ガタガタになって双六小屋前にすべりこむ。今まで静かな所でテントを張ってきたが、ここは山スキーヤー、テレマーカー達でにぎわっている。明日の天気を心配しながらテン卜を設営する。
〈コースタイム〉
太郎兵衛平(5:50) → 北ノ俣岳(7:40) → 黒部五郎岳(10:45) → 三俣蓮華岳(14:40) → 双六小屋前(16:05)

 5月4日 嵐
 昨日の夜からテントを打つ雨風で時おり目をさまし心配したが、やはり今日最悪の天気になってしまった、最後の行程槍ヶ岳を越え槍沢の大滑降でフィナーレを飾るのは明日に延期し、停滞とする。昨日も長い一日だったが、別な意味で今日も長い一日になりそうだ。

 5月5日 嵐のち雨
 今日もあいかわらずの天気で水の中に入っているようで、ゆうべは心配でまんじりともしなかった。天気が最悪なので槍沢大滑降は中止して新穂高に下山することにし、雨風が少し弱まった所で行動にでる。視界の悪い中、尾根どうしに進む。途中で衣類まで雨が湿ってきて、きもちがよくない。大ノマ乗越で急斜面を慎重に滑る。水分を吸った雪は重く思うようにターンがしにくい。しかし広い谷なので自在に滑っていける。途中から大きなデブリがでてきてスキーがとられあせってしまう。とにかく滑れる所まで滑り、途中樹林の中でコースを修正して下抜戸沢あたりで雪がなくなり、長い滑降もようやく終った。後は林道をテクテクと歩き新穂高に着き、温泉で汗を流したかったが着換えがないのでタクシーで上高地に入り、小梨平でベース隊に会い、とてもうれしくて感激した。
〈コースタイム〉
双六(9:30) → 大ノマ乗越(11:30) → 林道(13:00) → 新穂高(15:00) → 上高地(16:30)


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