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倉岳山トレビヤン山行
服部 寛之

山行日 1990年2月25日
メンバー (L)服部、川田、石田、日野、紺野、(吉田)

 ガイドブックを見ていたら、倉岳山が前道志で一番高いと書いてあったので行ってみることにした。このところ天候が不順で、前日の土曜は雨が上がりすっかり良い天気になったので、このぶんだと明日も良い天気だろうと楽観していたら、朝から重そうな雲が空一面覆っていて少々がっかり。待ち合わせの立川発甲府行きを八王子で捕まえると、メンバーは全員顔を揃えていて安心する。川田さんなんか、電車はまだ始発駅から一駅しか走っていないのにもうしっかりと愛用のウィスキー入れを窓のところに立てちゃって、早くもお昼のゴールデンナベタイムに向け下準備にいそしんでおるという状況で、余裕とヤル気に満ちたベテランの姿勢というものをさりげなく見せているのでありました。
 鳥沢駅から国道を新宿方面に少し戻り、線路を越して住宅地を抜け桂川を虹吹橋で渡る。倉岳山は位置で言うと桂川を挟んで扇山と向かい合わせになる。虹吹橋のたもとには、高畑山・倉岳山周辺のハイキングルートの案内図が掲げてあり、住宅地を縫う細い道筋にも指導標があって、おじゃま虫ぞろぞろハイカーに対する地元の対策親切姿勢というものが覗われる。住宅地からあっという間に林道となりほどなく貯水池にさしかかった。貯水池は目下堀り下げ作業中で土砂運びのダンプが忙しい。道は谷間の林の中を小さな沢に沿って上って行くが、その先で堰堤工事をしていた。オレは堰堤というものは沢幅ぐらいに作るものだとばかり思っていたが、ここではせいぜい2~3mの沢幅に対して30m幅ぐらいの防壁をズズズンと構築中であった。どういう必要があってこんな林の中にこんなぬりかべのお化けみたいなもの(ぬりかべは妖怪であるからぬりかべのお化けというのはおかしいか?)を作るのかさっぱり訳が解らなかったが、上流で大魔神でもあばれない限り堰堤が土砂で埋まってしまうまで5万年くらいもちそうであった。堰堤工事の先はもう登山道というかんじになって、やがて二俣に出た。まっすぐ行くと穴路峠、右は高畑山である。右に入ったところでとうとう雨が降り出した。ここまで駅から1時間程である。道は山腹の急登を登ると一旦尾根筋に入るがすぐに尾根を右にまき、しばらく行って杉林の急登を尾根に登り直してズンズン行くと高畑山の頂上に出た。途中、黒いベレー帽を被ったかわいいシジュウカラの群れが葉の落ちた枝の間をせわしく飛び回っていたが、そういうのを見ながら平気で焼き鳥の話などしてしまうのだから、人間て凶暴なのよね。わたくし、フト皆の顔を見てしまった。頂上にはすでに3人先行者が休んでいて、我々も木陰に雨を避けて少し休む。ガスの中で眺望なし。
 高畑山(982m)から倉岳山(990m)へは尾根伝いの道だが、途中鞍部の穴路峠(830m)まで下りねばならない。高畑山を出発してすぐアレヨアレヨと下ってしまう道に石田さんは、「これってまた登んなきゃならないんでしょ。こういうのってソンしちゃってヤだわ。どーしてまっすぐ道ついてないのかしらネェ」と、オレのうしろでどうしようもない文句を言う。そんなことオレが知るか! でも同感!と思ったとたん、ツルッ、ドテン! 雨の下りは滑りやすいので気をつけましようと身をもって示すリーダーなのでした。
 文句も言ってみるものなのか、穴路峠からの上りも思ったほど長い急登ではなく、ほどなく倉岳山に到着。うまそうにカップラーメンをすすっている先着パーティを横目に見ながら、さっそく銀マットを広げて宴会体制を整える。今日はめでたくも三峰の例会山行2000回目なので、それを記念して石田さん特製の『ゴールデンスーパーデリシャス超グルメフランス風2000回鍋』というスペシャルトレビヤンメニューなのですね、フフフ。さらに川田さん持参の『帆立のバター沙め』(注=本物バター使用!)と『ブタ肉の野菜巻き』という思いがけない二大一流つまみスターの飛び入り参加もあって、多少天から水が差そうとトレビヤン度はますます上がってしまうのでありますね。ただ、情れていれば丹沢の風景も気持ち良く見えているはずであり、後からやって来たパーティもバターの焦げるにおいに、
「なんだなんだ、あっうまそうだな、いいないいな!」
という視線を送ってくるのでもこっちも、
「むはははは、豪華宴会だもんね、酒もいっぱいあるんだもんね、帆立なんか普段から食いつけているけどこういう所で食うとまた一段とうまいな、あーうめうめ」
と必要以上大袈裟に箸など振り回したりして優越感丸出しの態度および姿勢というものをあからさまにできて大変気分の良いものなのであるが、今日は生憎雨が降っているので後からやって来たパーティも一応は「おっ、やってるな!」と思うのであるが同時に「雨の中ご苦労さんです」という非積極的評価も働いてしまうので、こっちもキッパリとした「むはははは」という態度が取りにくくそのあたりの気分がいまいちなのであります。しかしそれでも雨の中約1時間半、マット広げてしっかり鍋を空にしてとどこおりなく宴会を堪能したのだから、山慣れしていないハイカーから見ればうちらもたいした根性なのかもしれない。
 倉岳山からは、予定では2時間ばかり尾根を歩いて寺下峠から梁川駅に下りるはずであったが、宴会が終わってしまえばゲンキンなもので、「雨だしサ、山なんかまた来れるじゃんか」という川田さんの意見に異議の出るはずもなく、パーティ全員一致団結のココロとなって倉岳山のすぐ東側の立野峠から梁川駅へとスタコラサッサ下山したのでありました。

〈コースタイム〉
鳥沢駅(9:23) → 高畑山(11:35~45) → 倉岳山(12:30~14:05) → 立野峠(14:25) → 梁川駅(15:30)


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