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小川山・廻目平の二日間
今井敏樹

山行日 1990年6月2日~3日
メンバー (L)荒川、菅原、井上(博)、飯島、今井

 6月1日、金曜の夜、集合場所である立川に向けて中央線を西に向かう。途中でスーツ姿のサラリーマンに声をかけられた。
「どちらの山ですか」
「小川山」
「廻目平ですか。いいですね。今頃はすいていて快適ですよ。木が伐採されて焚火も豪勢にできるし」
「ただ明日は天気が悪いからどうでしょう」
「そうですね」
彼は岩のルート開拓もやっていたベテランらしく、何でもよく知っていて、話についていけないところもあったが、話がはずんで窮屈で退屈な電車の中を楽しく過ごすことができた。
 立川にはもう全員集まっていて私が一番最後。2台の車の予定だったが、人数が減ったため菅原氏の車1台で行くことになった。
 6月2日、朝起きると10時である。天気はまあまあでしだいに晴れ間も見えてきた。ブランチをとった後、とりあえず、八幡沢を目指す。まずは左岸スラブ。ベースから一番近いスラブである。ルートは『ジャーマン・スープレックス』18mで5.10b。最初はルートを試みようとするが、全員あきらめてまわりこんでトップロープをセットする。小川山特有のいやらしいスメアリングを使うルー卜の典型である。とにかく滑りやすくホールドがない。特に菅原氏のブーツはズルズルで、これがフラットソールとは思えないほどである。荒川氏を除いては直上せず難所の中間部を回避する形だが何とか全員完登?。次にその上部の『バス・トイレ付』5.9。最初荒川氏がリードしたが誤って墜落。だがその後、このことが重大なことになるとは思ってもみなかった。私と菅原氏で右手のブッシュ帯を登りトップロープをセット。最初のレイバックと足のジャミングが決め手。荒川氏を含め、全員で交互に挑戦。ムーブを覚えると全員が登る。途中で休んだ人もいたがこの際は問題にしない。一服した後八幡沢の奥にある大滝へと向かうが、その時から荒川氏のペースが落ちていた。大滝右岩壁は井上氏がたくみなチョックさばきでクラックを登るが、全員上に上がれないので飯島氏がセカンドで登ったあと下降。荒川氏の足首の状態がかなりひどいようなので残りの菅原氏も私も、ベースヘ戻ることにする。
 車にて買い出しを済ませ、焼肉パーティはけっこう盛り上がった。歌が飛び出した人もいた。
 翌3日は足首がなおらないリーダーをベースに残し、4人でガマスラブヘ向かう。小川山で最も初心者向きのエリアは実はここである。傾斜が緩いとはいっても慣れないとこわいことには変わりはない。5.4~5.9程度で幅40m程あるが右の方がグレードが高くなる。足ならしに左側でロープを張って練習した後、ロープを右スラブに張り直して何本か交互に練習する。ここでも菅原氏は旧タイプのくつのため登れない箇所があった。彼はもうニュータイプのブーツの購入を決意したようだ。
 一服後、スラブ状岩壁ガマルート5.8を頭目ざして登る。二人づつのパーティを組み、井上、飯島組と菅原、今井組にわかれる。初めにして唯一の順番待ちを味わうが、気になるほどではない。1、2ピッチ目をツルベで登った後、しばらくブッシュ帯をぬけるとこのルートの核心である。あたりを見ると金峰山荘が真下に見え、空は快晴、新緑がきれいでまことに気持ちがよい。菅原氏がトップでいくが、例のくつのためランニングビレイだけとって何度かねばったものの途中敗退。やむを得ず私が行くが、一応途中までトップならぬトップロープで登ったようなかっこうで、とてもトップと思えないようなはちゃめちゃなスタイルで最後は力まかせで両手でつっぱり左足を何とかクラックの上にのせることができた。本来のトップではとてもできないようなスタイルだ。最後のピッチを登るとスラブ状岩壁の頭である。反対側も切り立っており、なかなかスリリングなところである。風が少しあったが気持ちよい。おとぎの国のまん中にいるような不思議な気持ちになる。正面のマラ岩に人がヘばりついているのがよく見え、いつか登れるようになったら行ってみたいところだ。
 ということで今回の小川山はおしまい。女の子はいなかったけど本当に楽しい二日間だった。


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