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効果的だったアイスハンマー(湯桧曽川・大倉沢遡行)
今井 敏樹

山行日 1990年8月25日~26日
メンバー (L)今井、金子、井上(雅)

 沢登りのガイドブックを見ると時々「アイスハンマー必携」とか「アイスハンマーがあると心強い」とかいう項目がある沢がある。多くは豪雪地帯の入渓者が少ない沢であることから私は「急な雪渓を登るときピッケルの代わりに使い、しかもロックハンマーと同じようにピトン打つ時に使う」と長い間思ってきた。しかしそれだけではなくそれ以上に重要な使い方があったのだ。大倉沢において、買ったばかりのアイスハンマーを使い初めて実践することができた。以下はその報告である。

*    *    *

 8月24日夜、都合により来られなくなった作田さん、鈴木アッコさんの見送りを受けて上野駅を出発する。いつものように土合駅にて仮眠をとった。
 8月25日、快晴。我々三名は、都合により尾根を登ることになった大泉君と別れ、湯桧曽川沿いの道をひたすら歩く。2時間弱で武能沢出合に到着。まわりにもワラジや渓流タビをはく人たちでいっぱいだ。ここから十字峡までは、本谷の遡行である。今年はかなり水量が少なく感じる。(昨年の8月台風の中本谷を遡行した。)魚止めの滝他大小の滝やうなぎ淵等釜ゴルジュが次々と現われ、楽しませてくれる。三段の大ナメを越えると十字峡である。ここで左の本谷、正面の抱き返り沢と別れ右の大倉沢に入る。
 大倉沢に入ると、本谷にいた人が全くいなくなり、遡行者は我々三名だけとなった。5m以下の滝を数ヶ所越えると、7mの滝にぶつかった。直登は無理である。ここは右から高巻くが、落口ではホールドのない草付の急斜面のトラバースである。トップで登った私は思わず緊張した。そして次の瞬間、腰からアイスハンマーを取り出して、草付の急斜面目がけてピックを突きさしていた。そう、草付の斜面でホールドの代わりに使ったのだ。あとは慎重に落口へ下り、ほっとしたのもつかの間、大声が聞こえた。
 「トシちゃん、ザイル投げてー」
 井上雅氏である。アイスハンマーを持ってない彼は、トラバースのところで行きづまってしまったようだ。ここで初めてザイルを使用する。その脇からノーザイルで金子氏が登ってくる。もちろん右手にはアイスハンマーがあった。
 これから先もアイスハンマーは大活躍で、高巻きやルートを探すときにも役立った。
 やがて40mの大滝が現われる。念のためザイルで確保して登ったが、ホールドも多く易しく感じられた。(II級+~III級-程度)
 大滝上部はナメ滝とスラブの明るい登りが続き、沢の美しさを満喫する。左俣に入って四段15mをやや苦労して越えるとチョックストン滝である。胸まで水につかってショルダーでようやく越える。ラストの井上氏にはザイルを出した。三名とも全身ずぶぬれ。日向ぼっこで体をかわかす。強い日差しが本当にありがたい。
 このあとは水量もぐっと減って、小規模なゴルジュや小滝が続くがどれも快適に越えることができた。そろそろツメも近いかなと思ったとき、小さな滝があった。4mのこの滝は直登しようにもできず、まわりは急ないやらしい草付ばかり。遡行図ではナメ滝と書いてあるが、チムニー状で金子氏が直登しようと必死になるがからだが中に入らない。思いきって私は草付の急斜面に取りついたが降りられずに上へ上がるしかなかった。かなり上部で何とか沢筋に下りる。落口まで戻り、ザイルを投げる。金子氏は、草付をトラバース、井上氏にはゴボウで登ってもらったが引き上げるのが重いこと。井上氏はかなりの腕の力が疲労した様子。遡行図の注釈もないつまらなない?滝で予想外の時間を食ってしまった。
 さてもう目の前に稜線が見えている。最奥の二俣を左にとり、ヤブを抜けると池塘のある草原に出るはずだったが、池塘なんてどこにもない。草原の前には稜線までびっしリヤブが生えていた。もうどうでもいいやとヤブこぎで稜線に出る。そうしたら池塘がよく見えた。草原の左脇の鞍部を越えていればその池塘を通って直接山頂へ出られたのだが。でも山頂にはすぐ着いた。すぐ近くのサイト場ヘ行く途中で大泉君に無事合流。かなり待たせたようだ。ご苦労様。
 朝日ヶ原のサイト場は我々だけで、水もあり、快適な一夜を過すことができた。
 翌日は朝ゆっくりして、暑い中、白毛門を越えて土合に戻った。

*    *    *

 今回、天候もよく、本当に満足する山行ができた。中でもアイスハンマーの有効性を十分に見せつけられたのは収穫があったと思う。やはり両岸に樹木のない草付の斜面には必需品であろう。それにしてもかつては氷壁などで使われたが今ではアイスドリルが登場して以来本業の氷ではほとんど使われていない。欧米ではもう生産されていないという。とすると名前もアイスではなく、他の名称にした方がいいかもしれない。でも泥壁ハンマー、草付ハンマーではあまりにかっこ悪い。誰かいい名前を考えてやって下さい?!。

〈コースタイム〉
25日 土合(6:45) → 武能沢出合(8:35) → 十字峡(10:30) → 大滝上(11:45) → ツメ下の4mの滝(14:45~15:30) → 朝日岳サイト場(16:20)
26日 サイト場(8:48) → 笠ヶ岳(9:45~10:10) → 土合(12:35)

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