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笹穴沢遡行
今井 敏樹

山行日 1990年10月7日
メンバー (L)今井、鈴木(章)、大泉、阿部、斎藤

 平標山は谷川連峰の西端に位置し、国道17号線をはさんで苗場山と対している。その山頂からは魅力ある谷や尾根が派生しており、沢登りや山スキーのフィールドとしては絶好である。その南東面は山深いため開発の手から逃れ、豊かな自然が息づいている。ここを流れて、赤谷川に注いでいるのが笹穴沢だ。3年前の「山と渓谷」誌にカラーグラビアでその美しい姿が紹介されて以来、ぜひ行ってみたい沢のひとつになっていた。
 10月7日、朝起きると雨は全く降っていなかった。実は台風が接近して、前線が活発化する恐れがあったのだが、とりあえず後閑よりタクシーで川古温泉へと向かう。
 川古温泉で、湯治客からコーヒーとお菓子を御馳走になった後、赤谷川沿いの林道を1時間ほど歩く。ここはミズナラなどの樹木が美しく、天候を心配しつつも森林浴気分に浸る。
 林道の終点は笹穴沢と赤谷川本谷の出合いでもあり、ここよりワラジや渓流シューズに履き替えていよいよ遡行開始だ。水が、大変冷たい。すぐにゴルジュや滝となるが濡れるのがいやでさっさと巻いてしまう。ここで女性1名が足を滑らせるが、幸い怪我はなくひと安心して、先に進む。
 金山沢出合までは徒渉と河原歩きに終始するが、両岸の樹木が素晴しく、遡行のプロローグと呼ぶにふさわしい。樹々の名まえがわからないのが残念。
 金山沢出合で一本とる。しばらく休んだ後、出発。小雨がパラついてくる。しかし美しいナメ滝が次々と現われてくる。左から何本か枝沢が入った後、目の前に大きな二段の滝が追ってくる。そして白い水しぶきが宙を舞っている。(高さは30m)。ここは巻くか直登するか迷ったが、初めから直登する気のない人もいて、高巻きの体制に入ってしまった。また先に行った1名も左奥のルンゼに取り付いてしまう。両者の間が離れてしまい、滝の音で声も通じない。ようやく連絡がとれたがかなり離れてしまった。その時、滝をよく見ると、傾斜は緩く、ホールドも豊富にある。途中まで登ってみると大丈夫そうだ。意外と簡単に滝の上に出る。高巻き3人組は見えないがかなり下で大高巻になった様子。時々薮が動くのがわかった。左ルンゼを上がったO君の姿が見えず心配になる。ルンゼの上は草付のトラバースになるからだ。もうひとつ上の15m滝を登って上を見ると、そのさらに上の12mナメ滝の上に彼が立っているではないか。安心して下の高巻き組に合図を送る。こういう場面はよくありがちなことだが、危険な場合もある。全員に反省の余地がありそうだ。姿が見えない時はこわい。
 それにしてもこの辺の沢の造形は見事だ。ここが第一のクライマックスだろうか。水量も多いのでよけいにそう感じる。
 この後、6m、25m、20mと立派な滝がつづく。両岸の植生も高木の樹林から灌木や笹原、さらに一面の草付の斜面ヘと変わっていく。20mの滝では男2名はノーザイルで直登、女3人組は高巻いたが、草付のトラバースはかなり恐かったらしい。1名を除いては。ただ草付としては丈が長く、根もしっかりしていてところどころ木も生えている。草付としては入門コースだろう。ただこわいことには変わりはなく、この直後の草付のトラバースが出来ず、そのまま平標山の家の方へ詰めることになってしまった。合流は平標山頂。
 残った男2人で80mナメ滝、そしてハイライトの大ナメヘと向かう。残念ながら大ナメはぬめっていたため、ナメの脇をフリクションで登るわけにはいかず、右側のホールドを慎重に捨って行動した。大ナメ上部からの景観は高度感もあり、なかなか壮観である。ここが二番目のクライマックス。晴れていたらもっと素晴らしい所なのだろう。この後も20m、10mの滝(けっこう立派)があり、源流近くまでなぜか水量が多い。沢が数本に分かれるとフィナーレの源流だ。ここでちょっと沢を読みちがえ、笹原の中を左ヘトラバースすることになったが、詰め上げたところは草原(草付ではない)で、気持ちのよいところだ。少し登ると稜線に出、登山道を行くとすぐに山頂へ出た。
 山頂には誰もいない。そこにはただ風が吹いていただけだ。30分程すると3人組が登ってきたが、冷たい強風のためこの間非常に長く感じられた。
 合流後は、元橋へ向けて下降を開始するが、体調をくずした者や、膝が痛くなった者(実は私)がいて、思ったようには進まない。暗くなってからようやく元橋着。冷たい沢の中や強風の中、大変お疲れ様。温泉に寄る時間がなくやむをえず、そのまま帰京した。

〈コースタイム〉
川古温泉(6:30~6:55)曇 → 金山沢出合(8:10~8:30)曇 → 20m滝上(12:45~12:55)霧雨 → 平標山頂(15:20~15:50)曇、強風 → 元橋バス停(17:50)曇

P・S(気付いた点等)

  1. 多くの滝は直登可(Ⅲ~Ⅲ+)。高巻きは草付となる(特に上流は)のでなるべく避けた方が良いと思う。尚、残置ハーケンはあまりない。
  2. 「関東周辺の沢」笹穴沢の項には120m大ナメ下には滝記号のみあって二段80mの滝の表示がない。(60mともされている)
  3. 湯桧曽川が交響曲ならば、この笹穴沢はピアノ協奏曲のイメージ。今度は夏の暑い日にぜひ行ってみたい。

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