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赤石岳冬山偵察ひとり旅
今井 敏樹

山行日 1990年11月10日~13日
メンバー 今井

 11月9日
 出発直前の買い物を済ませ、パッキングをしていると、同行予定の荒川君から電話が入る。何と体調が悪くて行けないとのこと。多少気落ちするが、開き直って予定通り大垣行きの電車に乗りこんだ。

 11月10日 時れ(強風)
 静岡駅で仮眠した後、畑薙行のバスに乗りこむ。3時間を越す、大バス旅行である。途中富士見峠では駿河湾を望むことができ、完全にツーリスト気分になりながらガイドのお姉さんに聞きいった。正面の大無間山や井川湖の展望が印象に残る。
 畑薙第一ダムに着いたのは予定より遅れて11時過ぎだった。先を急がねばならない。林道をひたすら先へ進む。道中は発電所の工事のため、車がひっきりなしに行きかう。これでは山へ行く気分も台無しだ。ただ、救いだったのは今が紅葉の最盛期だったことだ。カエデなどの木々が山々を彩り、それらを湖面や溪谷が鮮やかに映し出していた。それにしてもまだ紅葉しているなんて、やっぱり今年は暖かいんだなァ。
 ところで私は歩きながら今回の山行を早く終わらすことだけを考えていた。そのためにはどうすればよいのだろうか。一本の時、コースタイム入りの地図を見る。「うーん、赤石小屋まで5時間、そのあと夏道だと赤石岳まで3時間か。すると2日目に赤石岳にアタックして赤石小屋に泊まり、3日目に強行下山すれば、15時のバスに間に合うかもしれない」と。
 椹島には予定より早く16時前には到着。先に考えたことを実行すべく、夕食を食べ終わると、午後6時にはシュラフに入った。

 11月11日 快晴
 予定通り5時に椹島を出発する。あたりはまだまっ暗。といっても半月に近い太った三日月と、オリオン座をはじめとする冬の星座が、私の後ろをやさしく照らしてくれた。
 樹林帯の急登を登っていくとしだいに明るくなっていく。体調も良く、天気も良い。赤石小屋に近づくにつれ、今まで飛ばしすぎたせいか、ペースがダウンするが気を取り直し、赤石小屋までは頑張れた。10時半であった。目標タイムより30分オーバー。重荷を下ろし、水場の確認とサイト場の確認を行う。その後、少しの休憩のつもりが大休止になってしまい、小屋を出たのは12時になってしまった。
 小屋を出てまもなく、単独行者と出合う。何でも荒川三山を越えてきたとのことで、かなり吹雪かれたと笑って話していた。30分位の登りで富士見平である。赤石岳や、荒川三山が圧倒的な迫力で迫ってくる。富士見平の少し上で冬山ルートとの標識があり、それに従って尾根に入りこむ。
 尾根に入ってびっくり仰天。そこは全然踏み跡らしきものは見当たらない。ただの灌木のブッシュだった。これがしんどい。ピッケルにプラスチックブーツ、これがいけない。ピッケルはザックから手に持ちかえたがじゃまであることに変わりない。また堅くて足首のまがりが悪いプラブーツはヤブからの脱出をいっそう困難にしていた。ひたすらもがいて2769m峰を越えるが、赤石小屋までの急登の疲れも出てきて座りこんでしまう。少し休んだ後、今度はハイマツ帯の登り。さっきの灌木よりは大分楽で、今度は踏み跡らしきものもあった。しかしペースは上がらず、再び座りこんでしまう。今日はこれまでとし、上の方の斜面を観察した後、2769m峰との鞍部から夏道ルート目がけて下っていった。
 さてとりあえず見てきたから下りたいなァと思い、赤石小屋にて眠りについた。今夜も星がきれいだ。

 11月12日 快晴
 朝、4時前に起床。EPIをつけ紅茶を飲む。今すぐ下ればバスに間に合うなと思い、ちょっと横になったら再び眠ってしまった。
 目をさますと、あたり一面明るい。時計を見ると7時近かった。これでは最終のバスに間に合わない。外に出ると赤石岳の大きな姿が朝日に輝いていた。おだやかな一日になるだろう。今日も一日頑張るゾ! 気力が湧いてきて7時半に赤石小屋を出発する。
 富士見平を越え、2769m峰を巻いて、その先の鞍部よリハイマツ帯の尾根に取り付く。ラクダの背と呼ばれるこの尾根を小赤石岳目指してハイマツをかき分けていく。きのうとは違って今日は順調に進む。
 ハイマツ帯を越えるとゆるやかになりピーク状に見えたところで一服。やせた尾根を進むと、目の前に岩壁が覆いかぶさってくる。III級程度の登りで少し登るとハイマツの幹に残置シュリンゲが下がっていた。下りはこわそうである。
 あとは岩の快適な稜線となり、やがて小赤石岳へ出た。風が強い。ここでアイゼンをつけ赤石本峰へ向かう。
 午前11時、赤石岳山頂、360度の展望が素晴しかった。今日中に椹島へ下りたいのですぐに下山開始。夏道を赤石小屋目がけて下る。途中の雪の斜面が素晴しかった。
 赤石小屋に戻ってパッキングを済ませ、 一気に椹島へ。着いたのは暗くなった17時40分。

 11月13日 快晴
 今日は林道をひたすら歩いて畑薙ダムヘ戻るだけ。赤石渡までの歩きはまだ自然の中を歩いている感じで楽しい。その後は工事中となり、いいかげんにしてほしいと思う頃、畑薙ダムのバス停に着いた。午前11時であった。
 今回、早く帰りたいとばかり思っていたが終ってみれば楽しい思い出だ。3日目の朝、下山しなくて本当によかったと思う。


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