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八海山
大久保 哲

山行日 1990年11月3日~4日
メンバー (L)大久保、野田、石田、服部、佐藤(明)

 三峰に入会して間もない頃、例会募集で"越後三山"があった。リーダーは佐藤明氏であったと記憶している。その頃の私は北アルプスや南アルプスの山々の名前すら知らず、何となく越後というと実家が隣の福島ということもあって、なじみのある感じを受けた。しかし、その内容は当時の私の力量からは、とうてい行ける山行ではなかった。(結局、参加者が集まらず没となった。)その後、何回か越後の山々に足を運ぶうち、残る名のある山は"八海山"のみとなった。そこで今回は"例会、八海山で清酒、八海山を飲もう"を合言葉に例会募集となった。当然?、参加者は酒好き会員4名と宴会好き会員1名の計5名の山行となった。若い会員がいないのが残念だが、初冬の越後の山の頂で酒が飲めるとあって、勇んで越後湯沢行きの夜行に乗り込んだ。
 その夜は、越後湯沢駅で仮眠し、翌朝六日町駅へと向かう。六日町からタクシーで新開道の二合目へ向かう途中、運転手に今回の目的のひとつでもある"幻の酒" "八海山"入手情報と、六日町温泉入湯情報をかき集め、下山後の行動予定に組み入れる。二合目で身仕度を整え歩き出すがすぐに行き止まり。どうも最近は○○氏の悪い癖が移ってしまったようである。車道を15分位歩くと登山道に入るが結構荒れている。それに先頭を行く私の下半身は朝露でずぶ濡れで、交替をたのむが後の集団からは冷たい声。しかたなくそのまま進む。三合目を過ぎると木々の間の落葉を踏みしめながらの登りとなり、やがて四合目の稲荷清水に着く。新開道ではここが最後の水場となるので、空いた水筒に水をつめなおす。少し離れた水場よりもどると皆でブナの実を拾い集めている。野田さん曰く、ブナの実は殻をむくとそのまま食べられ、酒のつまみにいいそうである。成る程、口に入れてみると多少粉ぽいが、ナッツやピーナツの様な 味がする。 "酒のつまみに・・・"の一声で早速足もとを探すが、「取り合えず、食えるものは即、自分の分は確保しよう」とする他の三峰のメンバーに圧倒され、結局後で分けてもらうことにし出発する。カッパ倉に着くと眼前に鋸歯の岩峰、八ツ峰が広がる。今回は迂回路を取らずに、岩峰をひとつずつ鎖、ハシゴを使い踏破する計画ではあるが、地図上ではなく、眼の前にする光景は悪夢を見ているようである。頭を上げるたびに近づく八ツ峰には、山頂付近に小さくへばり付いた登山者が見え、声も聞える。朝一番にリフトで上って来た登山者達だろう。岩場の急登をぬけると、八ツ峰の迂回路に出るが人がすれ違うにはあまりにも道巾がなく、一息入れる間もなくそのまま大日岳へと向かう。迂回路とはいえ、岩膚に取り付けられた横鎖やハシゴの連続で、結構緊張させられながらやっと尾根に出る。左に大日岳のピーク、右に入道岳が広がり、風を避けながら一本取る。 一息ついた後、途中中ノ岳方向に見え隠れしたピークを確認する為、野田さん、服部と私の3人で入道岳へ空身でピストンする。入道岳山頂は展望がよく、正面に中ノ岳、その手前、グッと切れ落ちた足もとには五龍岳、右手に阿寺山、左手に越後駒へ続く尾根が広がっている。以前から五龍岳より中ノ岳へ向かってみたいと想っていたが、ここ入道岳より、それまでかせいだ高度を一気に下り落り、五龍岳へ登り直し、さらにオカメノゾキまで下り、中ノ岳山頂へ立つのは、相当な体力が必要に思われる。展望を楽しむのも束の間、大日岳へ登るべく走って分岐へ戻る。さて大目岳のピークはジャリが固って出来たような岩山で、山頂からダラリと一本、鎖がたれ下っているだけで、下からは頂上が見えず、一人ずつ慎重に登り全員丸坊主頭の奥ノ院、大日岳山頂に立つ。頂上には天照大神、不動明王が祭られ、梵鐘やローソク立てなどが置かれている。各自勝手に梵鐘をガンガンならし、記念写真を取る。その後、その先に続く岩稜ルートを探すがとても我々の荷を計算すると、とても行けそうもないので結局迂回路をとり千本檜小屋へ向かうことにした。 ロープウェイで登って来た登山者もほとんどいなくなったころ、大日岳を後にし今夜の幕場へ向かう。途中、夏なら残雪が残っていそうな草地には、三日月の形をした池があり、尾根すじまで登り返した所 では奇妙な形の岩があった。そこには先に着いた4人が群がり、ワーワー、キャーキャーと奇声を上げている。近づいてみると何と彼等は、そのふた抱えほどの天に高く突き上げたその形を表し、信仰の山にはあるまじき、何とバチ当りな、男性のシンボルそのものの名を付けて、騒いでいたのである。そこから間もなく千本檜小屋へ着いた。10人位は入れそうな冬期小屋もあったが、先客2人がいたので我々はその横にテントを張り、早速宴会へ突入するのであった。その夜、石田さんの手巻寿しで腹を満たし、外 へ出てみると六日町の夜景と天に広がる星々がきれいに輝いていた。(この後野田さんの秘伝伝授で大いに盛り上る。)
 翌朝、あとは下山のみ3時間の予定であったのでゆっくり寝ていようと決め込んでいたが、意外や服部の声で全員4時に叩き起こされる。昨夜の天気予報で当地はくずれ気味、東京ではかなり強い雨が降っているとのことだった。外へ出てみるとまだ星が輝いてはいるものの雨の中の下山はいやなので、即、朝食のヤキソバを複に入れ撤収する。薄暗い中歩き出して間もなく薬師岳に着く。薬師岳もそうだがここ八海山には一合目ごとに必ずといって石仏やローソク立て、それに梵鐘がある。 一合目ごとに先行く人が各自勝手にその梵鐘をガンガンとたたくので、さぞや下界の村人はこんな早朝から山頂の方から響く梵鐘の音に迷惑しているのではないだろうかと心配になる。下り出して間もなく、どこから登って来たのか白装束に身をつつんだ男性とすれ違う。こんな早朝にその場所へいるのは不思議に思いながらも信仰の山ということを実感させられる。途中、八海山スキー場の展望合で浦佐や六日町の町並みや、遠く守門岳、浅草岳や上越の山々の展望を楽しむ。この頃より雨がポツポツ降り出して来たので、本格的な雨と競走するかのように急ぎ足で下山する。しかし、登山道はすっかり落葉に埋もれ見えない突起に足を取られたりすべったりで、たえずだれかがドドドドド、ドテの繰り返しで、やっとの思いで八海神社へ下山する。何とか本格的な雨に遇わず済んだ。八海神社よリタクシーを呼び、途中、まぼろしの酒"八海山"を一人1本ずつ(2本は売ってくれない)購入し、六日町の大和湯(入場料250円朝10時より営業)にて汗を流し、のんびり帰京する。

「つけたし」
○清酒"八海山"入手方法
 今回は入山前のタクシーの運チャンに入手方法を聞き出していたので楽に手に入ったが、まず、販売している酒屋を確認すること。地元でもどこでも販売しているわけではない。それに一回に一人1本しか販売しない。理由は蔵元が小さく生産量が少ないのである。それに酒屋へ卸すのは月初の一回だけであるので月末位には手に入らないこともある。

〈コースタイム〉
11月3日 二合目(7:30) → 三合目(8:30) → 四合目(9:5) → 五合目(9:54) → 七合目(10:38) → 八合目(11:18) → 九合目(11:50) → 迂回路分岐(12:41) → 稜線(12:55) → 入道岳山頂(13:25) → 大日岳山頂(14:5) → 千本檜小屋(14:24)
11月4日 起床(4:00) → 出発(6:20) → 祓川(水場)(6:47) → 女人堂(7:7) → 四合目(7:30) → スキーリフト(7:46) → 三合目(8:33) → 霊泉小屋(8:51) → 入海神社(9:35)

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