トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ276号目次

平成三年度春山合宿 後立山連峰・五竜岳集中
その3 鹿島槍から五竜岳ヘ
斎藤 ひろ子

山行日 1991年5月1日~6日
メンバー (L)菅原、飯島、鈴木(章)、飯塚、斎藤

 GWの真っ只中というのに、新宿駅のホームは閑散としている。それもそのはず、世間一般の人は既に出かけてしまったか、或いはこれからの後半戦に挑む組かのどちらかで、こんな中途半端な頃に出かける者はいないのである。

 5月1日 信濃大町から冷池へ
 赤岩尾根の登りは所謂急登というやつで、あの飯豊・梶川尾根を思い出させてくれる。ご丁寧に、ちょうど1時間ぐらい登ったところに"一時間場所"という標識まであって、こんな登りがあと2時間以上続くことを知らされるのだ。しばらくして高千穂平に着く。ここはこの尾根のうち、唯一幕場となりうる所である。西俣出合ではかなり上の方に見えた稜線も、もう大分近づいている。さぁて、最後のひと登りと思いきや、小屋直結のトラバースの道がきちんと整備されていて大助かり。テントサイトもブロックがきちんと積んであるし。今晩は下界でも滅多に口にしない(できない!)巻いて巻いての手巻き寿しで疲れを癒し、早めに寝ようと用を済ませ小屋を出ようとすると、小屋のおじさんが『明日、天気悪いョ。これからどこ行くの? 五竜? あぁ、何かキレットの状態も良くないみたいだよ』と親切にも脅しをかけてくれた。ラジオの声を食い入るように聞く。やっぱり悪そうだ。

 5月2日 冷池―鹿島槍―布引手前樹林帯
 朝が来た。天気は・・・というと、やっぱり予報通り良くない。雪が舞っているではないか。GW前の予報では『6年に一度の好天でしょう』なんて言ってたのに・・・。うそでしょー。だがしかし、幕を張っていた人達も次々に出発していく。行かなくっちゃとは思いつつも足はズシーンと重い。皆のピッチに付いて行けず差が出るばかり。先に行った人達が鹿島槍から引き返してきた。なら、もうすぐピーク。と思いきや、そこは布引でまた例の如くまんまと山に騙されてしまった。雪も一段と激しくなり、富山側からの風の吹きつけも強くなってきた。南峰ピークに着いた頃は視界も薄らいできていた。
 予定としては双耳峰の吊り尾根のあたりまでとりあえず、ということだが。急な下りを恐る恐る行く。結局、視界が悪く方向が判らないため引き返すこととなる。
 冷池手前の樹林帯が今日の幕場。明日の天気は、どうみても悪い様子。零下30度の大寒波が来ているなんて。

 5月3日 停滞
 ながーい1日の始まり。
 天幕の中にいると大した風でなくともすごそうに聞こえるが、これはズバリ吹雪なのだ。富山側から吹きつける風は大量の雪を飛ばし、本体とフライの間は吹きだまりとなってどんどんと雪に埋めつくされていく。寝てるのにもいい加減飽きてくる。というより、こういう日は誰でもイヤーなのだが"やらねばならないこと"のため、いや応なく起き上り、おもむろに外に出ていくのだ。そしてそれが済んだ後は、テント周りの雪かきが日課と化してくる。
 閉所恐怖症なのかなぁ。皆がいるから良いようなものの。ながーい1日だった。

 5月4日 幕場からキレット小屋
 風は止んでいる。晴?雪? 賭博場でコマを開けるときのように外の様子を伺うと・・・。明るい。晴れだ! 何日かぶりに見る太陽はとても有難い。
 さあ出発。昨日の雪が積っているものと思っていたら、稜線の雪は吹き飛ばされてほとんど付いていない。 一昨日には視界の全くなかった鹿島槍南峰ピークからの眺めも、今日はうって変わって360度の大展望だ! 富士、槍、剱、白馬、黒姫・・・。嶺々が纏っているる雪は白く輝き、また新しい何かを湧きたたせてくれるのだ。双耳峰の鞍部まで降り、お天気につられて北峰へも。鹿島槍からキレットヘ夏道を向かっていく。夏道とはいえ下りはとても急で、雪がどっぷり付いてるところや氷っぽかったり、岩が露出してたりで私にはとてもいやらしーく感じられる。この連続&連続で私はカメのよーになったり、 ヘビに睨まれた蛙のようになったり千変万化である。
 キレットの取付に着いたのはお昼過ぎ。こんな好天でありながら、ここはうす暗く垂直の壁が両側に立ち塞がっている。夏なら梯子、鎖がしっかり付いているところだが、今は重い雪にどっぷり埋まっている。梯子がとりあえず意地悪く見えている。梯子の元までトラバースするが、腕をズボズボと差し込んで行かねばならない。上から別パーティーが懸垂で降りて来る。そして背後には単独の方が付いてきている(こんな所に)。菅原さんがトップで行ってしまった。コールが掛かるのを待っていると、雲行きが急に怪しくなってきた。登っていてもアイゼンの足場が決まらず、結局プルージックして吊り上げてもらってしまった。皆が登ってくる頃には、辺りは既に吹雪いてきてしまいまるで真冬のよう。髪は白髪と化していた。
 全員無事通過。小ピークからガスの中にぼうーっと小屋が映っている。キレット小屋だ。しかし、よくまあこんな所に建てたものだ。ほーんとに助かり、感謝感激。今日はここ泊まり。さっきの真冬の天気もすっかり回復。夕食は定番のカレーだけど、とっても"うっまぁい!&ハーケン・ハンマー大活躍"のカレーなのだ。

 5月5日 キレット小屋から五竜岳
 今日も朝からピーカン!。 あー何てラッキーなんだろう。キレットからは一ヶ所、鎖場が悪くハイマツの中を通過したのを除いては、小ピークを幾つか越えて行く縦走路といった感じだ。頭上の太陽と雪の照り返しが強く、これぞ春山といった感じ。
 一本。交信タイム。今まで全く交信がとれなかったので心配だ。あの吹雪だったし、鹿島槍では雪崩のため遭難者も出たようだし。でもそんな不安を吹き飛ばすかのように、各隊の元気な声が入ってきた。よかったー。さらに嬉しいことに、 1日遅れる鹿島槍隊を遠見で待っていてくれるとのこと。またまた元気が湧いてくる。
 五竜への最後の登り、ガレ場から雪稜を息を切らして行く。ゼェーゼェー。すると緩斜面になり、先行の人のザックなんか放り投げてあって、それでもって標識なんかあって、五竜のピーク!なのです。ここも最高の眺めなのだ。皆があそこに見える五竜山荘にいてくれてるというので大声でコール。モートーッ。
 五竜からの下りを慎重に下り、山荘前で皆の黒々とした顔に出迎えを受けた。幕場に着いた皆の様子は、体は疲れていてもとても幸せそうで嬉しそうだった。

 5月6日、最終日。中遠見から五竜テレキャビンにゆられ下山。GW最終日とあってか、通勤電車並みの特急に乗りこんだ。
 今日ここまで無事来れたのも、リーダーの菅原さん、サブの飯島さん、それに心強いアッコさん、陽子チャンがいてくれたから。本当に感謝しています。

〈コースタイム〉
5月1日 大谷原(6:30) → 西俣出合(7:20~40) → 1時間場所(8:40~55) → 高千穂平(10:30~45) → 冷池(12:55)
5月2日 令池(6:30) → 布引岳(8:00) → 鹿島槍南峰(9:00~15) → 南峰下降より引き返して再び鹿島槍南峰(10:45) → 幕場(12:20)
5月4日 幕場(5:25) → 鹿島槍南峰(7:00~40) → 北峰(8:30) → 吊り尾根コル(8:45) → キレット取付(12:30) → キレット小屋(15:45)
5月5日 キレット小屋(5:20) → 口の沢のコル(8:20)(この間交信タイム毎に一本。交信タイム7:30、9:30、11:30)五竜岳(12:30~50) → 五竜山荘(14:00) → 大遠見幕場(15:15)
5月6日 幕場(6:30) → 地蔵の頭(7:35) → とおみテレキャビン駅(7:55)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ276号目次