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奥秩父東沢 西のナメ前沢、影乙女の沢
荒川 洋児

山行日 1991年8月24日~25日
メンバー (L)荒川、吉江

 8月23日(金)
 新宿0:02の電車に立川から乗って、塩山で下車。明日のバス時刻を確認してから、酒も飲まずにとっとと寝る。

 24日(土)
 二人だけなのでタクシーを諦めてバスに乗るつもりだったが、まだ寝ている時にタクシーの運ちゃんが予約していた二人組を探しにきた。ラッキーというわけで相乗りさせてもらって東沢山荘まで行く。天気は曇りだが雲は高く雨は降らないで済みそうだ。
 乙女の沢出合いにテントを張って一休みした後、いよいよ西のナメ前沢に向かう。出合いは西のナメ沢の少し下流で、上部がブッシュになっているガレの左横の、土砂が洗い流されたようなスラブになっている。このスラブを登ると、後は緩いスラブがえんえんと続く。緩いと言ってもナメ滝としては緩いのであって、ナメというには傾斜が強いし全体が濡れている。何とか登れないことは無いかも知れないが、支点が全く取れないし、ノーザイルではちょっと(かなり?)恐い。結局傾斜の緩い部分だけを登って、少し傾斜が強くなると草付・ブッシュに逃げ込むことの繰り返し。沢幅が狭いのですぐに逃げられるのがありがたい。
 4、50分もナメ滝を登るとガラガラの岩が沢全体を埋め尽くしているところに出た。ここで昼食をとってからまた登り始める。少し行くとまたナメ滝になったが、スラブの上に岩がごろごろしていて、20分も登ると水流がガラ場の中に吸い込まれて消えていた。この上は沢幅も狭く薮っぽい感じだったので、ここで遡行終了にして沢を下降し始めた。昼食をとった所までは水流沿いをクライムダウンし、そこからは右岸のブッシュの中を下降した。下降点から1時間20分で出合いに出て14時にテント着。
 テントに着くなり、まだ日も高いのにビールを飲んでお昼寝。目が覚めてから焚き火を起こそうとしたが、なかなか火が付いてくれない。30分以上も苦闘を続けた結果吉江君の大量のトレペの英雄的犠牲によってやっと焚き火を起こすことが出来た。三峰の伝統芸とも言える焚き火の技術を絶やさないためには、今後岩訓練、救助訓練とともに焚き火訓練も行い、清く正しい焚き火の起こし方を新入に伝授する必要があるのではないかと思う次第である。
 焚き火を起こしたところで再びビールを飲むが、酒とつまみで腹がふくれたので、夕食は無しになってしまった。お、恐ろしい。

 25日(日)
 本日は影乙女の沢に登る。今日も天気は高曇り。
 この沢の出合いは、テントのすぐ上流になる。乙女の沢のすぐ上流に奥乙女の沢が乙女の滝より少し小さなナメ滝を掛けて出合い、そのまた少し上流、本流が右に曲がる手前のブッシュの中に出合っている。二つに割れたような大岩から薮の中を透かしてみると、わずかにナメ滝らしき物が見えている。これを登るとガラ場のようになって水流が消えてしまうが、登山体系には「出合いは藪だが中程には300mほどのナメ滝を持つ」となっているので気にせずに登ると、すぐにナメ滝が現れた。昔は鉱山でもあったのか、太く錆びたワイヤーがのたくっている。こちらは昨日の西のナメ沢よりも全体に傾斜が強いようだ。再び少し傾斜が強くなると草付・ブッシュに逃げ込むことの繰り返しが始まる。もっともこの辺りの山腹は全休がスラブになっているようで、ブッシュと言っても木付と言った方がいいような、スラブに乗った土に木が生えている。直径5cm位の木が根こそぎ土を引っ剥がして倒れていたりした。
 遡行図の10mの滝らしき物を越えると、右からスラブの枝沢が入る。ここは全体がスラブになっていて摺鉢か円形競技場の底にいるようなちょっと不思議な雰囲気だ。滝と言っても他よりも傾斜がきつくなっているだけで、どこまでが滝でどこまでがナメ(滝)なのか判然とはしない。
 1時間半ほどの間ナメ滝が続くと、登山体系の遡行図の終了点になる滝の下に出た。ここは右岸の尾根から左岸の尾根までハングした岩壁が沢を横切っている。樹林で良く見えないが、遡行図通りに右岸の尾根の上には岩塔が有るようだ。遡行図では右から岩壁を巻いて滝の上に出て沢を横切り右岸の尾根を越えて奥乙女の沢に出るようになっているが、滝のすぐ下からガレを登って右岸の尾根の岩塔下に登れそうだったので、そこを登り反対側のガレ沢を下って奥乙女の沢に出た。
 奥乙女の沢はこれまでに登った2本の沢に比べると、傾斜がかなり強い。が、本格的な沢屋はフリーで登ってしまうのだろうか。おそろしや。
 奥乙女の沢に出てからは右岸のブッシュの中を下る。このブッシュの中には2箇所ほど懸垂用の古いシュリンゲが残っていた。ブッシュが苔むしたスラブでとぎれた所から2本目のシュリンゲで懸垂し、この下は両岸ともスラブになっていてブッシュに逃げ込めそうにないので右岸の乙女の沢との境界尾根の上に出る。遡行図の20m滝の上の辺りか。特に左岸のスラブはきれいだ。
 奥乙女の沢出合いの滝は40mと書いてあるのでザイル1本では懸垂は無理と思って尾根上を下り続けると、やがて傾斜がかなり急になってきて、このまま最後まで下れるかどうかいささか不安になってきた。テン卜が下に見えるところまで下りた時に、とうとう尾根が崖で断ち切られてしまった。右下には乙女の滝の落ち口付近が見えている。ありゃーと思いながらも、ブッシュの中のハングした岩壁を懸垂すると、その下は傾斜が緩くなっていた。ほっとして下るとすぐに奥乙女の沢出合いの河原に飛び出した。あーよかった。
 テントでお茶と軽く行動食を食べてから下山。バス停ですぐにバスに乗り、塩山温泉で風呂に入って、食事をしてから電車に乗った。

総括
 どちらの沢も、水量は少なく幅も狭いながらも、とぎれる事無くひたすらに(比較的)傾斜が緩いナメ滝が続き、明るく開けた雰囲気の沢です。奥乙女の沢は垂直に近い樋状の滝もあるので冬にはおもしろいかもしれません。お好きな人はどうぞ。

〈コースタイム〉
24日 東沢山荘発(7:00) → 山の神(8:40) → 乙女の沢出合(テント設営)(9:15~55) → 西のナメ前沢出合(10:30) → ガラ場になった所で昼食(11:10~55) → 水流消える(12:15)(ここから下降) → 出合着(13:35) → テント着(14:05)
25日 発(7:50) → 300mスラブ終点(9:20)(下降開始) → テント(11:30~12:35) → 山の神(12:55) → 東沢山荘(14:35)

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