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前川大滝沢
渋谷 聡子

山行日 1991年8月10日~11日
メンバー (L)菅原、今村、斎藤、服部、渋谷

 8月9日金曜の夕刻、早々に机の上をかたづけ、帰るぞという姿勢を誇示するが、「デート?」などとは誰も聞いてくれない。いいんだい。金曜の夜にデートなんかしなくったって人間生きていける。これから私は前川大滝沢に行くのだ。
 夜10時すぎ、5人を乗せた菅原号は府中本町をすべり出した。運転席のあたりでどのルートで行くのが良いのかという前向きな検討が重ねられている中、後部座席では「今どのへんを走っているのだろう」という次元の低い確認に終始していた。ホント道路を知らないんだから反省してしまう。4時30分ごろめざす大滝沢の入溪点近くで車を止め、仮眠体制に入る。車のまわりには卜ンボの群れ、ときどきフロントガラスに止まったりする。こんなに正面からトンボと向かい合ったのははじめて。車の中は人いきれでムンムンしていたので、起き出して外にでた時はやっぱり気持ち良い。すがすがしい空気っつうのはこういうのをいうのだねとつくづく思う。
 吾妻連峰の前川大滝沢は、滑川温泉と主稜線の東大巓直下にある弥兵衛平の湿原を結ぶ沢のルートだ。きれいなナメと深い釜、水がすっごくきれいで底の方をのぞきこみたくなる。水はちょっと冷たかったけど、これでお天気だったらどっぷりはまってしまいたい位だった。それでも沢幅の広いナメのところでは十分浸かって楽しんだ。こうしてきれいな沢を楽しんでいると、目の前にド~ンと120メートルの大滝あらわる。 「すげー」「きれーっ」とか「どこから行くんだろう」なんて無責任に感動してしまった。ガイドブックには、"一見登れそうだが、そうは問屋がおろさないので高巻く"って書いてあった。沢屋さんという人種はこれを見て、「一見登れそうと思うのか、そうかー」と初心者マークの私はさらに感心してしまうのだ。大滝は左壁からぐるっと高巻き、上部でトラバースしてこえる。見事な滝だった。やがて右岸からネコノ沢、左岸からホラ貝沢が入りこみ、きれいなナメ滝がいくつも続く。遡行時間は思ったよりかかったが、景色は変化に富んでいてとても楽しかった。
 鉱山跡の吊り橋を上にみて大きな岩だらけの中をさらに登る。潜滝の手前から沢をはなれ、下りた所の右岸にテントをはることにする。ここは岩穴みたいになっていて屋根つきなので一安心である。
 薪を集め、「焚火だ」「外でごはんを作ろう」と言っているうちに雨がパラパラ降り出す。傘をさして、それでも焚火をしようと結構粘ったけれど、雨がパラパラからバラバラとなったところで断念し、テントの中に引きこもる。「沢のそばで焚火をするのはいいっスよ」と某氏が(口調ですぐわかる)言っていたのをとても楽しみにしていたのに。でも雨じゃあねー。皆けっこう眠そうで、親陸もそこそこに就寝。
 なかなか寝つけず、あっという間にやってきた朝、外は雨です。ほんと生憎の雨です。
 途中にザックを置き、空身で弥兵衛平小屋(明月山荘)まで行く。「けっこうきれいな小屋ねー」と周囲や中にもチェックを入れて早々に戻る。雨足は強くなったり弱まったり、不安定だ。途中、銀明水という水場にも寄り、タッタカターと下る。ザックのところで待っていた今村氏と合流して姥湯を目指す。歩き慣れない私は明月山荘からの下りで膝が疲れてしまい、登りになった途端ひとりでバテてご迷惑をかけてしまった。長ーい一本をとってもらい、また歩き出す。「普段はもっとペースが速いだろうに、申し訳ないなあ」とハーハーとフーフーの間に思いながら歩く。目指す姥湯が見えたところで気分は急に"幸せ"になり、露天風呂に入ったところからなんか"元気"になった。でもここから下りは林道だから、元気になっても遅かったんだけどね。
 滑川温泉で都会もんになるけじめをきっちりつけ、こざっぱりと帰途についた。『さようなら特急つばさ、スイッチバックの峠駅』へもちゃんと立ち寄った。
 例会山行計画表のコメントは、「温泉とナメ滝と湿原がドッキングした沢登り」だった。菅原リーダーのもと、「温泉」の二文字に服部氏、「ナメ滝」に今村氏、 「湿原」に斎藤嬢がより鋭く反応して集まってきたのではなかったかと、ひとりで納得してしまった。
 入会して初めて行った山行であり、私にとっては何もかもが素敵な思い出となるはず。ひとりバテしないために、身に余る個装(体重)を何とかするゾーと思いながらも、峠の力餅を頬張り締め括った。

〈コースタイム〉
10日 滑橋(8:50) → 大滝下(10:20) → 大滝上(11:20) → 吊り橋(14:10) → 登山道(15:45) → 岩穴(16:15)(泊)
11日 岩穴(6:00) → 登山道(6:15) → 明月山荘(7:15) → 銀明水(7:28) → 登山道(8:10) → 姥湯(9:40~10:40) → 滑川温泉(11:30)

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