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白根三山 "のんびり山行"
大久保 哲

山行日 1991年8月10日~13日
メンバー (L)大久保、安田、石田、谷川

 8月10日、午前3時。甲府駅前、広河原行きのバス停はあふれんばかりの登山者でごったがえしていた。聞けば8台の臨時便が出るとのことで、 1台1合のバスは立ち席無しで全員座って行けるとのこと。それぞれバスに乗り込み、親切にも車内灯も消してくれ広河原へ向け発進する。途中、夜叉神峠で一部登山者を降ろし、出発から約2時間で広河原へ着いた。今回は3千メートルの稜線をのんびり楽しみながら行こうと、3泊4日のゆったり日程を組んだ。広河原で身じたくを整え5時に出発する。大樺沢の右手に北岳が雲の合い間に見えかくれする。広河原山荘の前を通り過ぎ多くの登山者をぬきつぬかれつ登っていく。途中お池小屋と大樺沢の分岐で朝食をとり、二俣へ向けて歩きだす。左手に沢の音を聞きながら樹林帯の中を進むが、途中、今にも崩れそうなガレ場も何ヶ所か通り、視界が開けてきたと思ったら二俣だった。残念ながら北岳にはガスがかってその山容を見せてくれないが、八本歯ノコルヘ続く大樺沢には原色の色を身にまとった登山者が点々と見える。大雪溪が残っていると聞いていたが、二俣から上にほんの少し残っているだけだった。二俣は四つの登山道が交差するためか、これから登る人々や下る人々でかなりの賑いだ。我々ものんびり一本取る。ここから右俣コースをとりどんどん登っていくと、やっと肩ノ小屋へ通じる尾根が見えて来た。尾根に出ると真正面に仙丈岳がどーんと広がり、その右手奥には早川尾根から甲斐駒の山容が広がっている。正に大パノラマである。しかし北岳方面はガスってて見ることは出来ない。少しがっかりしながら肩ノ小屋へ向かう。肩ノ小屋もやはりガスにつつまれていた。小屋にはミニ高山植物園なるものがつくられ、それぞれ名札が立てられていた。高山植物も楽しみにしていたが、この時期では少し遅いようであったが、小屋より20分程下った水場へ向かう途中には、まだ十分その美しい花を開いていた。
 11日、7時。ガスのかかる尾根を北岳山頂をめざし出発する。小屋泊りが多いのかけっこう空身で登っている人が多い。あいかわらずガスが多いが右手の仙丈岳方面はガスは少なく、逆に尾根をヘだてた南方面にガスが多い。岩稜帯を進んでいくと北岳山頂に着く。山頂は50人はいるであろう登山者で賑っていた。やはり夏山、人が多い。展望はいまいちだがブロッケン現象を見ることが出来た。日本第二の高峰で記念写真を撮り、登山者の熱気であふれる山頂を後にするが、何か第二の高峰という実感がわいてこない。山慣れしたのか、あんまりのんびり登って来たのか、やはり苦労がないと実感がわかないものかと考えてしまう。
 岩尾根をジグザグ下っていくと、ずっと足もとの方に真っ赤な北岳山荘が見えて来た。近づくとテントもほとんど撤収し、小屋の回りに何人かの登山者がいるだけだった。そういえば昨日はたくさんの登山者がいたのに、北岳を後にし間ノ岳をめざしてくると、その登山者の数も減ってきている。間ノ岳山頂も思った通り北岳ほどのにぎわいはなかった。北岳山頂で落ち着けなかった分、のんびり紅茶を入れて大休止。ここで小さな発見をしたのである。入会間もない谷川さんの行動食である。彼は一本とるごとに我々ではあまり持っていかない行動食をそのたびごとに食べているのである。昨日からの観察によれば、トマト、バナナ、レモンの3種類からなる生鮮野菜、及びくだものからなるもので出来ているのである。彼は見ごとにもそれ等をがぶり、がぶりと摂取していくのである。そのあまりの見ごとさをたたえると、ニヒルに笑ってレモンを分けてくれた。そのためこれ以上はここでは書かない。 一度、山行でいっしょになった人はじっくりと観察されたし。きっとその見事さとその物量さにおどろかれるだろう。のんびり山頂で時間を過した後、本日の幕場の農鳥小屋をめざし出発。このころになると少しガスも上り周囲の山容も楽しめる。下り始めて間もなく農鳥小屋も遠く見えて来る。いっきに下りると小屋へ着いた。時間が早いのか、まだ登山者が少ない。テント場を確保し、昨日に引き続き宴会の順備に取りかかる。夕暮れには遠く雲海の上に富士山が顔を出し、明日登頂する西農鳥も十分に見ることが出来た。
 12日。朝、テントから顔を出すと、天気は上々。展望もまあまあ。3日目ともなると荷物も多少減って登りもそんなに苦にならない。西農鳥へ向かう道はいっきに登りとなるが、後に間ノ岳、その下に農鳥小屋がどんどんと小さくなっていく。ここまで来ると他の登山者も減ってたまにしか会わなくなる。どうも北岳、間ノ岳、農鳥岳と半分、半分と減っていくようである。急な登りが続いた後、西農鳥岳へ出る。ここまで来ると展望がいっきに変わって塩見や赤石、聖が見えてくる。長い尾根が続いた後、やっと白根三山最後の農鳥岳山頂に着く。ここが3日間の中で一番展望が良い。登って来た尾根筋や間ノ岳もバッチリ。おまけに山頂の登山者も数える程しかいない。やっと南アの静かさが味わえた。あとは大門沢小屋へ下るだけ。下降点で長い尾根道に別れをつげ小屋へ向け急な下り道を下る。しだいに高度をさげ、樹林帯に入ったため気温があがりむし暑くなる。薄暗い樹林帯の中を進むと大門沢小屋へ着く。小屋の前には冷たい水が流れ、そこには十分に冷えたビールが売られていた。夕食もすみ小屋の前で安っさんと涼んでいると小屋番と間違われ、急きょ冷たいビールやジュースを売るはめになってしまった。ちょうど小屋の人は夕食時だったので、おつりを間違わなければということで売子に変身。これがけっこう売れるんで二人は涼む暇もなくなってしまった。しかし最後には小屋の奥さんに日本酒をもらい、この夜も楽しく過すことが出来た。
 13日。今日は奈良田で温泉に入るだけなのでのんびり小屋を後にする。途中吊り橋を3本も渡り、その橋がけっこう長いのと、高度があるのとでひやひやさせられる。発電所の手前にくると奈良田温泉の車が数台下山する登山者を待っていた。その1台に乗り込み十分程で温泉へ着く。4日間の汗をながし、身延駅行のバスは立ちっぱなしだったが、無事今回の山行を終えた。


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