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集中山行 上越・朝日岳
その2 馬蹄型コース~正しい山の歩き方
石山 千加子

山行日 1991年9月22日~23日
メンバー (L)服部、香山、小林(偉)、福島、石山

 あせっちゃいけない。ヤケクソになってはいけない。適宜、酒を飲むべし。頭をカラにすべし。谷川岳は、清く正しく歩かなくてはいけない。週末台風の影響があったとはいえ、 1日日はまずまずの天候にめぐまれた。とはいえ、あの谷川岳ゴールデンコースが中高年の山になっていたとは、少々ショックな話である。午前6時50分、土合を出発。西黒尾根を軽くクリア。いや、京女のどすえちゃんは、作夜の酒のせいか、目まいがするという。そんなに飲んでいないと言うが、なにしろ彼女はザルなのだ。そんな事とは関係なく、途中、秋の花やキノコが季節を楽しませてくれる。森林限界を越えたあたりからは、なかなか気分のよい風景が広がる。岩場も増えるが、変化があって楽しい。谷川岳ではよく死ぬというが、やはり天候の急変によるものが多いのだろう。この岩場でも、少し足をすべらせれば、転落→死亡だ。確かに崖は切り立っている。ガレ沢のコルあたりから頂上を見ると、もうガスが巻き始めていた。ひたすらマイペースでオキ、トマを通過。― 先頭を歩くのは、孤独でいけない。つい性格が出てしまう。途中、肩の小屋でビールを仕入れる。今回なぜか買いそびれていたので、つい"高価なもの"を買ってしまった。それも、小屋のオヤジとけんかごしで。
 稜線に出ると、道はうんと楽になる。 一ノ倉、茂倉と進むにしたがって人は減るが、ガスは増々濃くなった。せっかくながめのよい所なのにと、残念に思う。茂倉から武能岳への道は、だらだらした長い登りで少し閉口したが、笹平は広々としていてその距離も長く、ガスがなければ大変気持ちよく歩ける道だと思う。前々から蓬峠は行ってみたいと思っていたので、これが峠への道かと思うとワクワクするなと思っていたら、香山さんが「ここが蓬峠」というので、地図を見たらまだ武能岳がある。つまり、もう一越えあるわけだ。確かに写真で見る峠付近と雰囲気が似ている。時刻はすでに2時。今日中には目的の清水峠まで行くのは多分無理だろう。雲行きもあやしい。それに、疲れた。服部さんも曰く、「今日は蓬峠で幕張るか」はじめ心配していた水場もあるし、念願の蓬に泊まれるなら文句はない。テント山行のよいところだ。さあ、もうひとフンバリ。武能岳を越え、幾度かゆるい上り下りをくり返し、蓬峠に着く頃にはもうすっかり降り出しそうな空になっていた。やはり広大な笹原の中にある蓬峠は、番号付のテント場になっていて、少し興ざめ。しかし、テントを張り終え中に入ったとたんに雨が本降りになり、ラッキーではあった。
 翌日は朝から雨。足もとがすべるので、かなりゆっくり歩き始める。いや足にマメができたのだ。「ええい、ボロ靴め、またか」と言ってみても始まらないので、他の隊のことを考える。自毛門を一升びんかついで単独で登った田原さんとは、完壁な交信が続いていた。それによると、きのうのうちに朝日岳頂上に着いた田原さんは、大泉隊と合流し、酒盛の一夜だったようで、今日はまだシュラフの中にいるそうだ。こちらは、ひたすらガスと雨の中をジメジメと歩いていく。雨の時は、 距離よりも時間の方が長く感じられるのは、気のせいだろうか。もううんざりした頃に、やっと清水峠の立派な小屋が見えた。この小屋は送電線監視用とかで中には入れなかったので、少し先のお宮のような小屋で一本とる。中に先客が2人いたが、我々5人がぞろぞろ入ってゆくと、場所をあけてくれた。まだ1時間程しか歩いていないのに、皆けっこう雨でまいっている様子。"ここまできたら、あとひといきよ。みんながんばって!!"などとは言わずに、むっつりと小降りになった雨の中を、また歩き出す。ガスっていて遠くは見えないが、とにかくあたりはクマザサのようだ。もうそろそろかなというところで、最後の交信。しかし正確な位置がわからないので、時間で場所を測る。あとで考えると、そこはジャンクションピーク付近だったようだ。それからほどなくして、だれかのモトコールがきこえた。この時ばかりはうれしくなってしまった。バテぎみだったどすえちゃんも先頭きって走り出し、ぬかるみに入ってしまった筆者は、香山さんと「あ、こっちの方がよかったみたい」などと言いながらあと戻りして、そのずっとあとからは、重いテントの服部さんが小林さんとゆっくり登ってくる。 一応目的地に着いたけど、やはり雨で、立っていても寒くなるし、未着の隊もぼつばつやって来る様なので、早々に笠ヶ岳避難小屋へ移ることになった。幸運なことに、行く程に雨はやみ、ガスは晴れ、小屋に着く頃にはすっかり合流待ちにふさわしい空になった。昼寝もよし、お茶もよし。まだ日は高い。そこで思うのであった。もう一登りしてもよいかな。でも、びしっと一気に下るのもよいな。谷川岳は、清く、正しく楽しめる山なのであった。

〈コースタイム〉
22日 土合駅(6:50) → 西黒尾根入口(7:20) → オキノ耳(11:10~40) → 茂倉岳(12:50~13:15) → 武能岳(14:25) → 蓬峠(15:30)
23日 蓬峠(6:15) → 清水峠(7:30~50) → 朝日岳合流(9:40~10:00) → 笠ヶ岳避難小屋(11:00~12:50) → 土合駅(16:15)

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