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集中山行 上越・朝日岳
その3 ナルミズ沢遡行
福間 孝子

山行日 1991年9月22日~23日
メンバー (L)今井、井上(雅)、安斎、阿部、福間

 集合の上野駅からいきなりリーダーがUターンして帰ってしまった。家のカギがないと悲愴な面もちのまま。会に入ってはじめての山らしい山に行くのに、なんとなく不安になってしまった。
 翌朝は全員そろって出発。ああよかった。
 宝川温泉から長い林道歩き。しばらく歩いているとタヌキの一家を発見。「今夜はタヌキ汁」と阿部さんが静かにつぶやく。うんざりするくらいの暑い林道が終わり山道に入ると、なんだか雲が多くなってあやしげな天気になりだす。
 渡渉地点で地下足袋にはきかえ沢を渡る。水の冷たさがしみてきてとても濡れながら歩くなんてできそうもない。そんなこと言っていたら沢登りにならない。などとあれこれ思いながら沢に入る。やっぱり寒い。途中いくつもの小さな滝を登ったり、上部をまいたりしてどんどんつめていく。滝は小さいながらそれぞれに釜をもっていて深そうだ。水が落ちて泡だっている様はちょうどラムネの栓を抜いた時のようだ。景色は常にひらけていて、めざす大鳥帽子がみえかくれする。大石沢出合にて大体上したあと魚止めの滝を登る。二俣でテントを張り終わった頃からガスがかかり霧雨になる。眠気のためかお酒もあまり進まず食事の用意となった。とたん皆がぜん執念を燃やしはじめた。みんなが真剣にカレー作りに参加している。このこだわりはいったいなんなんだろうか。
 翌朝、人間目ざましの安斎さんの「4時ですよ」の声にモゾモゾと起き出す。雨が降っているようだ。時々バラバラとテントがなる。阿部さんが朝生んだとしか考えられない無キズの生卵入りの雑炊を食べながら天気の様子を見る。予定通り6時に出発。ナメの連続からだんだん沢が狭くなり一面の笹原になる。ヤブがない。ラッキー。水溜りのような池塘を後にまたたくまに稜線にとび出した。天気がよければサウンド・オブ・ミュージックの世界だが、ここで歌うのはひかえておくことにする。
 この朝は朝日岳までずるずるの笹道を悪戦苦闘しながら黙々と歩く。9時少し前に朝日岳で「モートー」の声に迎えられ会長達と合流。やっと着いた。よかった。これでこの山行も終わった。と思ってしまった。浅はかだった。これから先の長い下りがこの山行で一番つらいものになるとは知る由もなかった。


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