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集中山行 上越・朝日岳
その5 刃物ヶ崎山隊の巻
勝部 辰朗

山行日 1991年9月22日~23日
メンバー (L)植村、安田、勝部

 刃物ヶ崎山は、 ハモンガサキヤマと読む。「山と仲間」の1983年2月号に3月の残雪期に矢木沢ダム~家の串山~刃物ヶ崎山ピストンの記録が載っており、それを見て以来名前の良さもあって、ずっと気になっていた山だった。
 秋の集中が朝日岳となったので、「シメシメこの集中にひっかけて刃物ヶ崎の偵察をやってやれ」と思い立った。メンバーは、以前より残雪期に一緒にやろうと話をしていた植村氏と、久々の山登り参加の安田氏となった。何年か振りの三バカトリオのみの山行であり、ふと言い知れぬ悪感が走る。
 当初日程は3日間で矢木沢本流よリジロウジ沢に入り、刃物ヶ崎山を踏んで檜倉山までヤブ尾根を通り、大鳥帽子山、朝日岳と云うコースで各隊に合流する予定であった。しかし、所帯持ちのつらさで、なかなか3日間を使うのはつらい事もあり、刃物ヶ崎と檜倉間のヤブが笹ヤブであるならば、この3人にメンバーを絞って突っ走れば、2日間でなんとか間に合うだろう、という希望的観測のもと日程を縮めてしまった。これが結果的に集中に合流できなくなった主因で、全く「おとうちゃんはつらいよ」なのだ。
 9月21日夜8時すぎ、章子隊3人と一緒に水上駅前のタクシーに乗り、2万5千図藤原の地図上で言うと、矢木沢橋を過ぎ矢木沢本流に沿っている点線の道の入口の所でタクシーを降りた。ここには車止めのゲートがある。但しこのゲートは錠はなく、持ち上げ加減に引くと簡単に開き、この先ヒナタグラ沢出合の少し先の堰堤まで道は良く、車で入れる。
 ゲート近くの路上で幕を張り、翌22日朝6時半出発。章子隊と行動を共にする。堰堤より先は山道となり、矢木沢本流の左岸を通っている。ブナ沢出合の所で道は一度本流の所に下りる(フィックスロープあり)。登山大系の地図によれば、道はここで右岸に渡り西メーグリ沢の手前でまた渡り返すよう記載されているが、現在はそのまま右岸通しに道がついており、西メーグリ沢の少し先で本流に降りて消えている。
 ここより、沢登りの開始である。7時半ジロウジ沢出合。ここで本流を詰める章子隊と別れて8時頃ジロウジ沢に入る。悪場は全くない。ダイレクトに頂上を目指すため標高1120m地点より右の枝沢に入る。少し行き二俣に分かれている所で昼食にしたのが11時半だった。
 この二俣を左俣に入り進むと、間も無くあっとオドロク大きな垂直スラブの25m位の滝が現われた。滝の左側のガレを登り、一部スラブのいやらしい所を騙し騙し登り、灌木帯に逃れヤブをこいで滝の上に廻り込んだ。さらに沢を詰めて、水流が消える前に水を各自2リットル補給する。
 沢の詰めはヤブ崖になる。灌木につかまって垂直の岩登りとなる。地図上の岩場マークの当りだ。崖が終ると石楠花等の大ヤブになる。苦労の末、やっと刃物ヶ崎のピークに出たのが1時10分。ここまでは順調に予定通りの時間だ。
 ピークには三角点の石柱がある外は、人工のものは何ひとつ無い。山名のプレートすら無い。記念に三峰山岳会と書いた赤布を木に結んだ。残雪期に登ろうとしているルートのハイライト部分の家の串山(1524mピーク)と刃物ヶ崎間のやせ尾根が良く見える。まさに長ドスの刃渡りをするような尾根が長く続いている。特に刃物ヶ崎のピーク間近は、特に細くなり、鋭角な刃こぼれ状をなしている。積雪期は結構スリルがあるだろうなと思う。
 さて、のんびりもしていられない、 1時半檜倉山目指して進むが、なんともすごいヤブだ。背の高い石楠花、ツル、根曲り竹等なんでもありの超一級の本格的ヤブ。踏み跡ケモノ道すら無い。やっぱ、こんな所通るバカは居ないんだろうな~、等と思いつつヤブをこぐが一向に進まない。前方には人を馬鹿にしたようにヤブ尾根が延々と続いているのが見える。きょうの内に1575m地点には着いておかないと、集合に間に合わない。気持ちはあせるが、ヤブの奴は一向に気を利かしてくれない、1時間こいでもいくらも進んでいない、少し考えが甘かった。3時頃「これは少し考えた方がいいなあ」と云う状態になった。このままヘタに突き進むと、集合に間に合わないばかりか、進退窮まって会社を休まなければならなくなる。「でも、もう少し行ってみようや」と進んでみたが、結局4時10分には遂に撤退を決意した。章子隊にシーバーでその旨を伝えたのは1512m地点より少し下りた所だった。やはりもう1日欲しかった。
 ここよリジロウジ沢目掛けて一目散に下る。暗くなる前にテントが張れる所まで下り切らねばならない。格別悪場もなく、早いペースで下る。 一ヶ所笹を束ねて支点とした、心細いアプザイレンをする所もあったが。
 6時半、暗くなった中ジロウジ沢の1100m地点でやっとなんとか幕の張れる所を見つけ、整地して落ち着く。
 翌9月23日6時頃出発。沢をどんどん下り、矢木沢本流に出たのが9時半。後は先の目鼻がついたので、のんびりとシーバータイム等を取りながら、ヒナタグラ出合近くの堰堤着が10時20分。矢木沢橋で交信をしたのが11時10分。後は長い車道歩きが待っている。芦沢橋が12時10分。
 須田貝ダムの所を道が大きく迂曲しているので、隆ちゃんが「近道をしよう」と言ってダムの方への道を下りて行った。ダムのハシゴ段をどんどん下り、ダムの下を横切って対岸に上ろうとした。念のためザイルを出して登った。「こんな時放流でもされたらおしまいだな?」などと話しながら、ザイルでシコシコ登っていたら、ギャラリーが一人上で見つめている。なんと発電所の人だった。「何してるんですか。そこは立入禁止ですよ」とイカッて居る。「ハー、すんません。ちょっと道間違えたもんで」と言って、後は笑ってごまかす。全く最後に来て、何をさせてくれるのかわからんな~、も~。発電所は4m位の鉄柵で囲まれていて出られない。うろうろした末、正面玄関の柵をよじ登ってやっと出獄した。
 湯ノ小屋温泉へ延びる道と合流した地点のバス停着が2時半。水上駅までバスに乗り、共同浴場でひとっ風呂浴びて帰った。
 つかれた。
 朝日岳には合流できなくて申し訳なかったが、偵察の目的は達成したし、結構おもしろかった。実にいい山なので、みなさん是非一度行ってみて下さい。きっと「もう二度と行かん!」と言うから。

地図 2万5千図 藤原 奥利根湖 巻機山 茂倉岳

刃物ヶ崎山概念図

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