トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ277号目次

魚野川本谷
斎藤 ひろ子

山行日 1991年6月29日~7月1日
メンバー (L)菅原、牧野、鈴木(章)、荒川、飯塚、斎藤

 6月28日夜、新宿スバルビル前に、妙な面々が次々に登場。この週末の天気は今一つ芳しくないというのに、この大平洋側の東京から日本海へと注ぎ込む『魚野川』へと行ってしまうのである。
 魚野川と言えば名前からしていかにも"魚"、それも遡行していくとなれば、もちろん当然ヤマメとかイワナなんかが生息しているんだろうと想像がつき、イワナ食べたーいと食欲の権化と化してしまった私は、休みを1日いただきワクワクして出掛けて行ったのである。
 夜遅く野反湖の駐車場に着き、翌日の行動のために即睡眠。

 魚野川は遠い。野反湖畔の白砂山登山口から渋沢ダム上流の渋沢出合まで雨のパラつく中、山道を歩くこと4時間。天気もどうにか回復してきて、昼過ぎにやっと遡行開始となる。(本流への下降は渋沢出合手前にある廃屋となった小屋より約100m手前にはっきりした踏み跡がある。)
 そして魚野川はデカい。下流は勿論のことだが、結構上流近くまで来ているだろうに、川幅がある。支流の渋沢も水量があり、いままで丹沢とか奥多摩の沢ばかりを見ていた私にとっては、これは沢ではなくもう川としか映らないのである。(実際、川なのですが。)比較的浅瀬のところ(それでも、膝ぐらい)を行くのだが、水に流されないようにと脚に力が入る。左から流入する千沢を過ぎると、なんだかわかんないけどスゴそうなゴルジュがあって、この水量のなか突破するにはかなり大変そうである。(と言うより、単に水につかりたくないだけ。)がしかし、釣人が入っているということは、悪場にはそれなりに手が施されていることが多く、ここも左岸にしっかりとした高巻の踏み跡がついていた。
 しばらく行くと案の定、3人の毛針釣り師が先行していた。ここで追い越すかどうか、しばし躊躇してしまう。魚はとってもデリケー卜だからドカドカと彼等の住居に乱入していくと、当然のことながら彼等は避難してしまい、釣れるものも釣れなくなってしまうからである。釣り師と沢師の仲が良くないと言われる所以なのだ。向こうも私達の気配に気付き、こっちはゆっくり行くからと言って、今日の収穫を諦めてしまったのか先を譲ってくれた。『釣れましたか?』と何か(?)を期待しつつ聞いてみると、昨日の雨の影響でいまひとつで、釣れたものも大きくないからリリースしたとのこと。夕方、5時ごろになってやっと、本日の幕営地である黒沢出合手前に着いた。ところで、今回はメンバー6人で、4・5人用のテント一張である。5人が交互に並び、 1人はその頭か脚の方に張り付くという態勢で、まあ寝れないことはないけど、寝返りが打てない状態である。当然、荷物は外でツェルトを被っている。

 翌30日、天気は雨。どうせ濡れるとはわかっていても、雨のなか支度をするのは憂鬱である。予報では曇りとでていたので、回復するのを期待しつつ出発。暫く行くと、昨日の釣り師がこの雨のなかタープを張って幕営していた。昨日私達のテントを見て、 「こりゃー、ホテル魚野川だわ」なんて言って通過していった意味がわかった。天気にさえ恵まれれば、これもなかなか良さそうである。沢はまだまだ源流部でないということを意味するのか、ゴーロ歩き・徒渉が続き水量は一向に減らない。それでも、所々に長く続くナメ床や本流に細い筋やすだれとなって流れ込む幾つかの滝は、なかなかのものである。雨も上がって、晴れ間ものぞくようになってくると、遡行図にでている巨岩地帯に突入。この岩がまた本当にデカい。並の大きさではない。それが、ドーンドーンと重なって結構苦労を強いられる。やっとこ、ここを通過して行くと、またまたナメの美しい溪相が現れてきた。予想では今日中に沢を抜けられるかも知れないとのことだったが、幾分水量は減ったと言え、この様子からではどうも今日中は無理のようである。ようやく流れが細々としてきたところで、うまい具合にテント一張分の幕営地がみつかった。ここでホッと一息をついていると、山菜師ことアッコさんは、すかさず何かを捜しに行ってしまった。そして、間もなく両手にゴソッと『ネマガリタケ』という筍のミニチュア版、つまりトウモロコシがヤングコーンになったような筍を持ってきてくれた。そしてこれが、一口食べると「うわっ、何コレ美味しい!」という代物なのであった。

 7月1日。天気は上々。もうほとんど細くなっている沢をトコトコ行く。雪溪が残っているかもしれないと見ていたところでは、それはすでに消え失せ、新緑の芽が息吹いている。そこで、いつまで経っても食い気が先にいってしまう私などは、昨日のネマガリの味が忘れられず、 「ネマガリッ、ネマガリーッ」と眼を皿のようにして捜すのだが、目のつけどころが悪いのかなかなかうまく見つけられない。そうこうしているうち、沢の水は消え、ネマガリの薮こぎとなってきた。こうなると、もうネマガリの真っ直中にいようとネマガリどころではなくなってきて、ただただ薮こぎに必至である。薮こぎ約30分で登山道へ。ここにきてドッと疲れがでたのは、いままであれだけ必死に捜していたネマガリが、登山道の脇に雑草の如く芽を出していることであった。まったくぅ。(その後の登山道は、まるでネマガリ畑かと思えるほどだった。)登山道を赤石山方面に向かい、四十八池のほうへ行くと、月曜日にもかかわらず一般ハイカーがいて、異様な軍団は否応なしに白い視線を感じてしまう。昼過ぎに硯川へでて、お待ちかねの温泉に。帰りはバスで草津温泉まで行き、野反湖に置いてきた車を菅原さんが取りにいってきてくれ、それに乗って家路についた。

 『関東周辺の沢』には、エスケープルートとして小ゼン沢が出ていましたが、この沢をつめても稜線の登山道は明瞭かどうか疑問です。釣り師の方が言うには、釣りの人は、通常本谷をつめることはなく、庄九郎沢に入り稜線に出て、裏岩菅山を通って切明方面へ下るか、奥志賀方面へ抜けるそうです。釣り師も入るということなので、これもエスケープルートとして利用できると思います。

〈コースタイム〉
第1日目 白砂山登山口(8:00) → 地蔵峠(8:30~40) → 魚野川出合(11:45~12:30) → 10m大ゼン(14:30~35) → 幕場(16:20)
第2日目 幕場(7:30) → 黒沢出合(7:50) → 小ゼン沢出合(11:10) → 巨岩地帯休憩(12:50~13:00) → 南沢出合(14:45~15:00) → 幕場(17:00)
第3日目 幕場(6:45) → 1950m地点(7:30~45) → 縦走路(8:25~40) → 赤石山(9:45~10:10) → 熊の湯(12:45)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ277号目次