トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ278号目次

上越・魚野川 荒沢本谷
箭内 忠義

山行日 1991年10月6日
メンバー (L)大泉、今井、牧野、市川、箭内、奥田

 およそ半年前の山行なので記憶が定かではない。簡単な感想ということで許していただきたい。(大泉リーダーごめんなさい。)
 荒沢本谷の山行のキーワードは次の三つだ。
その1 ハッピー
その2 うるうる、又は、中味が濃いらしい
その3 アイスハンマー
 5日の夜上野駅で待ち合わせる。ホームに行くと、いかにも山やといういでたちの大泉リーダーが来ていた。じきに、今井さんが顔をみせ、牧野さん、市川さんがニコニコした表情で現れ、「よろしく」と奥田さんが登場した。全員揃ったところで列車に乗り込んだ。三峰大泉隊の服装は、トレンディーとはほど遠く、いかにも山やという感じだ。このまま上野のガード下にたむろするとピッタリという感じであった。
 11時半を過ぎ、明日の沢にそなえ寝ようとすると、牧野さんがおもむろに大きな箱を取り出した。ふたを開けるとチョコレートケーキであった。なんと、今日は大泉リーダーの誕生日だったのである。列車の中はバースデーパーティーに早変わり。27才の誕生日おめでとうということで一気に盛り上がってしまった。大泉リーダーもはじらいながらも満更でもなさそうな表情だ。出発早々、「ハッピー」な気分の我々であった。しかし、誕生日がおめでたいと感じるのは20代のうちさ、30代、40代になったらと思っているうちに酔いがまわって眠ってしまった。
 6日、朝、土樽駅を出発し魚野川左岸の林道をブラブラ進む。30分位歩くと右手に狭く暗い小さな沢があった。こんな狭い沢ではなかろうと通り過ぎたが、地図を見るとどうもそれが荒沢本谷らしいので慌て戻る。身づくろいをしていざ出発! しかし、本谷の取り付きは、足を開くとまたげそうな狭い沢だ、それに暗く、じめじめしている。上越の明るくひらけた沢のイメージとはかけ離れている。思わず「うるうる」と泣きたい気分になってしまう。気合いを入れ進む。しばらくゴーロが続くが、そのうち4、5メートルの滝が出てきて快適な気分になってきた。岩肌には、ダイモンジ草が群生し白い花がゆれ、なかなかの味わいである。沢が直角に右に曲がると25メートル3段の前の大滝だ。下段15メートルの滝を前に、2級の沢とはいえこれは手強そうだとちゅうちょしていると、大泉リーダーが責任感強くザイルをつけ右のカンテに取り付いた。みんなの視線を一身に浴びる中、確実に楽々と登ってしまった。トレーニング不足、久々の山行の身にはかなり難しそうなので、滝の中をシャワークライムと取り付いたが水の冷たさにめげて敗退してしまった。うるうる。(こんなはずではなかったのに。)続いて奥田さんが登る。岩6級をクリアーするという奥田さんのスリムな体は、ヒョイヒョイといとも軽々とバランス良く登ってしまった。
「あの動きはただものではない」
と、口をあんぐり開けて話しているうち、次に登る番になってしまった。ザイルを頼りに全員なんとか乗っ越した。沢をどんどんつめていくがなかなかひらけない。「胡桃が流れてきた」「キュウハ沢では鹿の骨がある」「ヒョングリの滝とはどんな滝なんだろう。あとで見てみよう」など、たわいのないことを話しているうちに、二俣をこえ、中の大滝まできた。この滝は上越線の車中から見えると本に書いてあった。ここは右岸を高巻く。
 ここの高巻きが今回の沢のメインイベントになった。大泉リーダーと今井さんが先頭に行く。それに奥田さんが続く。残りの三人が最後についていくが、ひどいやぶ。やぶが切れると足元が滑りやすい草付きだ。ルート図集に「アイスハンマー必携」と書いてあった意味が体で実感できる。何しろ滑るのだ。アイスハンマーを打ち込んでも次の一歩がなかなかふみ出せない。ここは完全なるダブルアックスの世界だ(かなりオーバー)。沢に下りて休んでいるとやぶの中からドスン!と大きな音がした。大泉リーダーが遊んでいるんだろうと話していると、かなり時間がたってから大泉さんが顔を出し、
「ひどいなみんなは、こけても誰も助けに来てくれない」
と、表面ニコニコ、内心腹立たちそうに言った。下りた沢は本谷と尾根一つ手前なので最後のやぶこぎをして本谷にたどりつき、長く苦労した高巻きを終えた。
 あとは、小さな滝をこえ稜線までつめるだけだ。曇空だった天候も、いまにも泣き出しそうな空模様になってきた。稜線近くなると山肌が部分的に紅葉していた。10月の沢だなとなぜかほっとする。最後の急登を耐えやっと稜線へ。空も小雨が降り出してきた。逃げるように荒沢山をこえ下山路を一路駅までかけおりてきた。
 例会山行の案内に「中味が濃いらしい!」と書いてあったが本当に濃すぎるくらいの沢であった。狭く、暗く、じめじめし、草付きがいやらしいと思える荒沢本谷だが、沢をいろいろな角度から楽しみたいという人には向いていると思う。
 沢の途中でまぶたをハチに刺され、片目が腫れて次の日職場を休むというおまけが奥田さんにはついた。しかし、1991年の最後を飾る沢として記念すべき山行になった。大泉リーダーご苦労さまでした。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ278号目次