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平成四年正月合宿 爺ヶ岳集中
その3 白沢天狗尾根隊
大久保 哲

山行日 1991年12月29日~1992年1月1日
メンバー (L)大久保、箭内、菅原、今井

 28日夜、23時50分。原口さん差し入れのにぎり寿司四人前をパクつきながら出発。毎度のことながら、差し入れ、見送りに感激し感謝します。
 29日、信濃大町が近付くにつれ外は小雪がちらついてきた。列車を降りると本降りになっていた。山岳指導員によれば、前日は雨で本格的な降雪は今日が初めてとの事。外はしんしんと雪が降り続く中、タクシーは列車が着くたびにあわただしく登山者を乗せて暗い雪の中へ消えていく。ひとしきり静かになったなか、我々も身仕度を整えタクシーを待つ。まだ早い時間で除雪が間に合わず、タクシーの戻りにかなり時間がかかり、結局6時半に爺ヶ岳スキー場へ向かう。タクシーを降り、道路より道を外れると膝まで雪がある。合宿前に偵察に来ている菅原氏をトップにTバーリフトの右側に向かって出発。しばらくしてやっとスキー場の除雪車が動き出したようで重々しくディーゼル音が静かだった山々にこだまする。進むにつれしだいに身体も熱くなってきたが、四人のローテーションでラッセルしている割には前へ進まない。スキー場を外れ少し傾斜がついてくると雪の下にはヤブが現われはじめ、しだいに歩きにくい。それにピッケルを使うと、新雪のよわふわ雪ではあまり役に立たず、雪面へつきさすと雪の下の土に当ってしまい、先が土だんごのように凍ってしまう。先に進むにつれ膝までの雪が胸までになり、さらにその下に隠れた熊笹やヤブに足を取られ、うんざりするがやっと偵察に来た時に幕を張った平担部に出て一本取る。
 合宿前には毎朝、新聞のスキー場情報に目をやり、まったく降雪がないので水場の心配までしたのに、眼の前の現状は一変し、今まさにドカドカと雪が降り続く。偵察に来た菅原氏も面食らっているようだ。今日は取り敢えず、夜行で来てるうえ、初日で荷物もあるので、予定通り尾根の取りつきの最後の平担部まで進み、早目のテント設営となる。この夜も雪は降り続く。
 30日、5時起床、7時出発。今日から本格的な行動計画を立ててあるので気をしめて出発。予定は白沢天狗尾根の稜線まで。途中のラッセル状態が気になる。菅原氏と今井君は昨日の判断でわかんを付け出発したが、50mも進まないうちにヤブに足を取られ、つぼ足より歩きにくいので諦める。結局、体力とつぼ足に勝るものなしとのことで箭内さんが体力とラッセルテクニックでグイグイと進む。林の中には点々と赤布がつけられているので迷うことはない。ただ問題はヤブの中のラッセルだ。トップが急にスピードが落ちた時は必ず、かいた雪の下に倒木が隠れていたり、熊笹がからみついたりしている。さらに傾斜がきつい所では、後ろから見ていると頭上の雪をラッセルしている状態で最悪だ。あまりにも思うように進まないので一本は取らず、トップは交替した時に最後尾に入り休むという方法にした。これでも充分休んだつもりで出発しようと前を見ると、先頭はまだ10mも進んでない時もあったりでうんざりだ。途中本日1回目の交信を行なうが、南尾根隊、東尾根隊とも交信が取れず、結局この日は一度も交信は取れなかった。我々のすぐ右手には東尾根が見えているので、せめて東尾根隊とは交信が取れてもいいはずなのに。午後になるとしだいに風が出てきはじめ、時々地吹雪になり息がつまる。出発からかなり時間がたつが我々パーティーはいっこうに前へ進まない。左手の谷にはスキー場が続いているので、賑やかな音楽やディーゼル音が時々聞こえてくるのでいかに進んでないのかが良く判る。菅原氏の話では稜線へ出ないと天幕を張る所もないとの事で全員汗だくでラッセルするが、結局時間も3時を回り、幕が張れそうな所を捜しながらさらに進み、木立ちの中の斜面にやっと雪をならし幕を張った。時計は4時を回っていた。夜、全員で明日からの行動をどうするか話し合ったが、このまま進んで明日天狗尾根まで出ても、東尾根までこの雪の状態では行けるかどうか。東尾根隊と明日交信が取れて、その状態しだいでは東尾根へ変更又は赤岩尾根へ向かう等々意見は出たが、最終的には天狗尾根は諦め、明日は下山し、交信しだいで行動を決定する事とする。ふと外へ出ると暗やみの中大町の町並みがやけにまぶしく感じられた。しかしこれまでのラッセルは一体なんなんだ。
 31日、6時起床、8時出発。二日かけて登った1400m地点を後にする。下り出すと昨日は眼前の雪で気付かなかったが、けっこう傾斜がきつい。途中2回目の交信でやっと南尾根隊との交信が入った。順調に行動してるらしいのでホットするが東尾根隊とは入信がないとのこと。2時間後の11時に再度交信することにし下山する。何と2時間でスキー場まで下りてしまった。やっと滑れるようになったスキー場は多くのスキーヤーで賑わっていた。11時の交信で南尾根隊は途中東尾根隊と合流し爺ヶ岳山頂に着いたとの事。スキー場からもこの日は山頂が良く見える。両隊は予定を変更し最終的には両隊とも、ジャンクションピークヘ向かい、 1日に南尾根を下山することになる。我々は結局扇沢へ向かい両パーティーと合流することにした。タクシーで扇沢へ向かうが途中ゲートまでしか車が入らず、そこから歩いて扇沢へ向かうが途中、車道脇に適当な場所があったので早目の幕場設営をする。大晦日であり食料も十分あるのでこの日は大いに盛り上る。
 1日。両隊と合流するだけなのでのんびり朝を過ごし、のんびり撤収し下山を待つがなかなか下りてこない。交信後、薬師温泉で待つことになり先に温泉へ向かう。歩いて約1時間で薬師温泉に着く。ゆっくり風呂につかり待合い室でくつろいでいると、両隊が着いた。一 それぞれの無事を確認し、今回のそれぞれの行動を振り返り語り合った。我々は先に大町駅へ向かい帰京する。
 今回、白沢天狗尾根隊は結局は新雪のラッセルで敗退に終わった。一番の原因は新雪に隠れたヤブに泣かされた。木立ちの中をルートを取りながら進んでも、ふかふか雪の下に隠れたヤブは思いのほか時間が取られた。二番目はもっと軽量化を計るべきだった。雪の中を泳ぐにしてもザックの重量はもう少し減らすべきだった。三番目は人数である。今回の状況では10人位で5分交替で進めればある程度、高度をかせげたのではないか。そして最後はこのコースは雪の締った4月か5月位が良い時期ではなかったか。雪が締っていれば、ラッセルの苦労もなくヤブもそれほど気にならずに進めるのではないか。いずれにしても、もう一度春に再度チャレンジしてみたいコースである。


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