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小楢山
服部 寛之

山行日 1991年9月29日
メンバー (L)服部、飯塚、高木、伊藤(琅)、今村

 9月29日、日曜日、朝8時、JR八王子駅前に集結したワレワレは、八王子インターより中央道を一路西へとひた走った。
 ひた走った、と言っても、走ったのはワレワレではなく、ワレのクルマでありますね。(アタリメーダ)
 ワレワレというのは、ワレと飯塚さんと高木さんと伊藤さん(チャンの方にあらず)と伊藤さんのお友達のネモトさんの総勢5名であります。総勢5名でクルマでひた走ったと言っても、ただやみくもにひた走って行ったのではなく、一応、目的地というものを目指してひた走って行ったのである。
 一応、というのは、もしかして途中で「露天風呂」とか「信玄の隠し湯」とか「○×温泉」とかの看板が見えたりすると、強力なブラック・ホール的超引力に引き込まれて目的地に辿り着けなくなる危険性があったからなのであります。
 では、目的地はどこかというと、それは『小楢山』であった。
 突然ですが、ここでモンダイです。モンダイと言っても、益田のオネーサンの言うようなモンダイではなく、この『小楢山』をどう読むかというモンダイであります。
 普通、ヒトはいきなり『小楢山』という文字を突き付けられると、一瞬、「ハテ、何て読むのかな?」と思うものなのでありますね。(思わない人は思わなくてもいいよ)
 そこで読み方の検討に入るわけであるが、とりあえずやさしめの『小』と『山』は置いといて当面の疑惑である『楢』の字に取り組むわけです。(取り組みたくない人は取り組まなくてもいいよ)
 「ウト、ウト」などと少し考えて分からないと「あっ、そうだっ!」とポンと膝もしくはおでこを叩いたりしてから三省堂明解漢和辞典を取出してきて人差し指で画数を数えたりしてやっとこさ「ナラ」と読むことを突き止めたぞ、シメシメ、ということになる。(すんなり分かる人はそれでもいいよ)
 しかし、そこで嬉んではいられないのである。モンダイはここからなのでありますね。次に取り組むべき疑惑は『小』の読み方であります。これがむずかしい。なにしろ『小』という字は時と場所によって読み方がさまざまに変化する。同一字物でありながら呼称が幾通りもある。銀座のクラブで「しのぶ」といっていたのが新宿のバーでは「さゆり」と名乗り、さらに流れて浦和のクインビーあたりで「ルミ子」と呼ばれているようなものだ。(チト違うかな)
 『小』の読み方としては、まず「ショウ」というのがある。「小額」とか「小企業」とか「小人閑居して不善をなす」とか云うときの「ショウ」ですね。
 「コ」というのもある。「小役人」とか「小森のおばちゃま」とか「小池屋ポテトチップス」とか云うときの「コ」であります。
 「オ」もある。「小野田さん」とか「小倉あん」とか「小樽のひと」とか「小田急生鮮食料品街」とかの「オ」ですね。
 さらに「チイ」というのもある。「スケールが小さい」とか「肝っ玉が小さい」とか「おまえのは小さい」(ナニが?!)とか云うときの「チイ」でありますね。
 読み方が分かったらあとは『小楢』の字に順番に当てはめていけばいいのだ。まず最後の「チイナラ」というのは「チーカマ」みたいなので除外する。ワレはチーカマ嫌いなのよね。
 「ショウナラ」というのも、シックリこないのでやめる。「ショウを断ち義を取る」とも云うでありますからね。
 残るは「コ」か「オ」であります。前者はそれらしく聞こえるが、後者の線もなんとなくニオうような気がする。ニオうだけでなく聞こえるような気もする。結局どっちをとるかはその人の言語感覚と人格に関わることなのかな、とここまで考えたところで勝沼インターに着いたので高速を降りたのであります。
 勝沼から塩山に抜け、さらに牧丘町の焼山林道に入りくねくねと焼山峠に向かって行く。峠に着くと、空のマイクロバス1台と軽が1台停まっていて、軽の窓からは、なんと嬉しくも驚いたことに、今村さんの笑顔が覗いておりました。
 地図に出ている峠の小屋はぜんぜん手が入れられていない様子でやや荒れたかんじ。トイレを済ませ、出発する。道は背丈ほどの草ボウボウの防火帯につけられていて、名も知れぬカレンな花々(単に名前を知らないだけ)の間を縫って上ったり下ったりしながら行くと、じきにさっきタクシーでやってきたカシマシおばちゃんグループに追い付いた。おばちゃん達は口々に花の名を口走っており、少なくともワレワレよりはガグジュツ的でありました。1600m地点で道は二股に別れており、左の展望コースを行くことにする。尾根に上ると展望が開け、ブッシュの中に岩が点在する不思議的風景となった。尚もズンズン行くと森の中に一杯水という水場があり、そこから僅かであっけなく小楢山の山頂に到着したのであります。
 頂上は高原広場といった風で、大勢の中年ハイカーで賑わっており、大きな山名看板のそばでは10名位のグループが円陣を組んで宴会中であった。ワレワレもさっそく東側の開けた所に鍋座を設営する。トン汁を仕込んでいると、今まで晴れていた空が、なぜか、みるみるガスってきたのであった。ンッ?これはいったい誰のせいだ?とみんな誰ともなくメンバーを見回し、それぞれ勝手に納得したのでありました。
 鍋の後は幕岩へ行ってみる。幕岩は尾根を覆う森の中に突き出た大岩で、途中までよじ登って樹林の上に開けた景色を眺めながらしばしの休憩となる。なんだか今日は歩いているより休んでいる方が長いような気がする。そこから一杯水に戻り、その先からはさっきの展望尾根コースに入る手前で左に折れ、まき道を行くことにする。まき道は先程の二股で防火帯の道に合流しており、展望コースよりも歩き易かった。焼山峠帰着15時。
 お決まりの温泉は、最初焼山峠の先の温泉マークヘ行ってみたものの、残念ながら風呂は今日はもうおしまいということだったので、塩山温泉へ行くことにする。今村さんは「それじゃ風呂には寄らずに帰る」と言って、ふたたび長い脚を器用に折りたたんで軽の中に収納すると、ゴーカートばりのチョコマカ走りであっという間に行ってしまった。ワレワレは300円の塩山温泉で汗を流し、20号線でJR八王子駅に戻って解散となったのであった。
 ところで、行きにツラツラ考えたモンダイの答えだけど、後で山名辞典で調べてみたらすぐ分かった。ワレとしてはもしかしてああじゃないかなと思ったけど、やっぱりそうだったので、つくづく地名の読み方というのはむずかしいもんであるなと思ったのでした。

〈コースタイム〉
JR八王子駅(8:00) → 焼山峠(10:00~10:30) → 小楢山(11:30~13:15) → 幕岩(13:35~14:05) → 一杯水(14:25) →焼山峠(15:00)


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