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平成四年度春山合宿・剱岳周辺
その4 トレースをつけて行く『奥大日コース』
斎藤 ひろ子

山行日 1992年5月1日~5月4日
メンバー (L)荒川、山本(信)、大久保、阿部、斎藤、澁谷、武石、朝岡

 「えっと、ペーパーに替えの靴下も入れたし、あとは行動食を買いたしてOK!と」
 去年、一昨年の合宿を思い出してみます。考えてみると1年ぶりに雪を踏みしめていくことになるのです。それに剱は、私に初めて『登山』というものに触れさせてくれたところなのです。あの剱の頂を再びこの足の下にできるのかしらと思うと、気持ちは高揚してきて何だか嬉しくなってくるのでした。期待と不安が入り乱れる緊張の出発前夜です。

 5月1日
 立山駅に降り立ちます。お天気があまり良くないうえに、観光の人や登山の人も少なくてちょっぴりさみしい感じもします。アプローチを短縮できると期待していた称名滝行きのバスは、あさって3日からの運行開始ということで、仕方なく登山口まで歩くことになりました。結構歩くんだろうな、と考えていると2時間くらいで着いたのでした。見ると1本の川を挟んで向かい側は、断崖絶壁の様相を呈していて、観光名所というだけあって、その景観はなかなかです。私たちは1本の筋となって流れ落ちる滝を背にし、牛ノ首というところまでうっすらと雪の残る夏道をジグザグに登っていきました。牛ノ首は少し細くなっているけど大丈夫。ここを過ぎるとそこはもう別天地です。大日平です。広い広い雪原がずうっーと続き、思わず駆け出したくなるようなところです。XCスキーなど、もう打ってつけのところです。上を見上げると青空も少し覗いてきて、一頻り陽なたぼっこをし、何にもない真っ白な雪の上を皆でのんびりと大日平山荘まで辿りました。振り返るとそこには、私たちのトレースだけが残っているのでした。

 5月2日
 お天気もまずまずです。けさのメニューは聞いて想像したときはとても食が進みそうにもないと思ったのですが、それほどでもないマーボー雑炊でした。
 今日の予定は少しばかりハードです。とにかく進めるだけ進んで、日指せ!剱御前です。しかし-。などと意気揚揚としていたのも数時間。足がズボズボ埋まり、大日岳への登りになるといよいよラッセルがランクアップされてくるのでした。人海戦術で次々と交替しても大日のピークはまだまだ上。中腹上部まできた頃には、辺りはガスに包まれ、今度はアイスバーン化した急斜面にアイゼンの爪を食い込ませて駆けあがっていくはめになってしまいました。稜線に上がると南側からの強風も出てきて吹雪だしてきています。時間をみるともうお昼。無雪期の2.5倍くらいの時間がかかってしまったのでした。今日はもう大日小屋で打ち止めです。

 5月3日
 夕べはテントに入ってから風が次第に強まり、新雪も積もった様子です。(予報では明日から前線通過。というのを赤谷パーティーとの交信で知ったのでした。)とにかく昨日の目的地を目指すこととし、広い稜線を歩き始めました。新雪の中、気ままにラッセルしていける稜線がしばらく続いたのですが、中大日をどんどん後にして行くと雪庇が張り出してきて、ルートにはなかなか注意しなければならない所となってきたのです。左に寄れば雪庇で切れ落ち、右に寄れば急斜面の谷、真中も一歩をズボッと入れると下は空洞となってたりして、『奥大日展望の春の山旅』なぞという、のどかな風景を期待していた私には予想もつかないところでした。この辺りはロープなども出して慎重に慎重に足を進め、奥大日岳に立ったのでした。(でも、どこが奥大日のピークか良くわかりませんでしたけど。)この辺りに来て、今日の行動で剱御前はムリということで、雷鳥平へ予定変更。天気はまだ良いのですが、時間的に厳しいのです。奥大日すぎ辺りまではスキーで雷鳥平から来てる人もいて、垣間見ると色とりどりのテントが群れをなしていて、何だかもう街へ戻ってきてしまったような気分となってしまいました。舞い落ちてくる雪の量もどんどん増えてきて、幕を張る頃にはもう吹雪の真っ只中にいるのでした。(でも、こんな中でも雷鳥坂を別山乗越へと登っていく人々もいます。雷鳥坂がとてもとても長く長く見えるのですが)立山隊3人とも会えて、この日の夜はもう緊張も緩んできて和やかに酒類などを酌み交わしました。

 5月4日
 もう朝でも吹雪は止みません。昨日は万が一でも晴れたら、ここからでも頑張れば行ける範囲内と見ていたのですが、これでは完全にアウトです。早朝立山を目指した立山隊も残念ながら下山せざるを得ません。私たちは、少しゆっくりうとうとしたあと、室堂へ。室堂からアルペンルートに乗って黒部ダム、ここで真砂沢ベースの2人にも無事会えて、大町温泉経由で帰路に就いたのでした。


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