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編集後記

 デナリ遠征のトレーニングの一環として7月、夏の登山シーズンの開けた富士山に登った。腐った雪渓を登り詰めた富士宮口側山頂には、かねて聞いていたとおりまだ多くの残雪があり、小屋も開まったままだった。辺りはガスって寒く、我々はカッパの上下を着込みお鉢廻りに出発したのだった。すると、ナ、ナント測候所の方からTシャツにトランクス姿の男が雪道をダッダッダッと駆け下ってくるではないか! その男は白いトランクスから脛毛のからみついた電柱状のぶっとい長脚を2本(3本ではなかった)にょっきり生やし、その先っぽに雪でぐちょぐちょのジョギングシューズをはめ、スチームアイロンのように全身から湯気をシュッシュとあげていた。我々はガスにけぶる雪の山頂に突如としてチグハグ風景論実践的に出現した驚異のストロング脛毛男の晴れ姿にア然として立ちつくしたのであった。
 ア然としたのはそれだけではなかった。富士山で見た人の殆どは実に軽装で、登山用の靴を履いているのは稀、大半はズックかスニーカーで、中には会社に行くような革靴で雪渓を登っている奴もいた。車から降りて街をブラつくような格好のまま缶コーラ1個だけ持って登ってくるオニーさん達には言葉が出なかった。
 『安全と危険の境が曖昧なのが日本の山の特徴である』と何かにあった。もっともこの人たちは、安全と危険の境がわからないのではなく、どういう危険があるのかすらわからないのだろう。雪の消えた富士山はただのでかい丘のように見える。途中に小屋が幾つもあるので金さえ持っていればどうにかなりそうだ。夏の富士登山は晴れていれば実際どでかい丘を登って行くようなものなのだが、でかいことの先が見えないのは怖い。
 それは国際場裏に於ける「経済大国」金満ニッポンの姿にも重なって見えるようでもあった。
 富士山は、きっと、爆発する。

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 何事もやってみなければ分からないと言いますが、ワープロでの版下作りは想像以上に目が吊り上がりました。今夜も平和に氷字治金時(練乳入り)を喰っていられるのも、気が狂う前に助っ人にきてくれた阿部さんのお陰と感謝しております。

【服部】

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