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谷川岳一ノ倉尾根
金子 隆雄

山行日 1992年3月28日
メンバー (L)金子、別当

 一ノ倉尾根は一ノ倉沢と幽ノ沢とを分けて一ノ倉岳へ突き上げている尾根で、無雪期は薮でほとんど登る人もないが、積雪期には登攀要素の高い価値ある雪稜ルートとなる。
 このルートを登ってみたいと最初に計画したのが3年前である。毎年悪天候に祟られて敗退を繰り返し、今年で3年目になる。
 3月14日に2日間の予定でアタックしたが、いとも簡単に敗退してしまった。天候はかつて無いほど良かったにも拘わらず敗退したのには色々と理由があるが、ここでは詳しくは述べないことにする。そんなわけで、2週間後に再度アタックすることにした。
 1992年3月28日、前の晩に車で指導センターまで入り、仮眠後出発する。指導センターはドアも窓も取り払われており、外で寝ているのと変わらない状態だ。一ノ倉沢の出合いで登攀装備を身に付けて取付きを目指す。取付きまでのアプローチは衝立前々沢に取る。衝立前々沢を登り詰めて行けば一気に第一岩峰を回り込んだコルに立つことができるが、上部はかなり傾斜がきつく細心の注意が必要だ。2週間前と違い雪が締っていて登り易く、また先行するパーティがいるため途中からしっかりとステップが刻まれていて、かなり早くコルに着くことができた。コルからは雪壁を少し登り、容易な3メートルの岩場を越えるとピナクル群となる。ピナクルは主に幽ノ沢側を通過していく。ピナクル群が終る所で1ピッチの懸垂下降となる。ここには残置のスリングがあり、それを頼りにクライムダウンもできるが懸垂下降のほうが無難だろう。ブッシュ混じりの急な雪壁を登っていくと懸垂岩に行く手を阻まれる。ルートには先行のパーティが取付いているので、右に下降ぎみに少しトラバースし他の登れそうなルートを探すが、残置ピトンなどまったく見当たらないので順番待ちをすることにする。出だしの15メートル程は人工で、残置ピトンが豊富にあり問題ない。さらにその上の15メートル程は残置ピトンの少ないⅣ級程の岩場で、アイゼンを着けての登攀は久し振りの私にとっては少々問題ありだ。我々が登ったルートの左手には古いフィックスロープが垂れ下がっており、そちらもルートになっているのだろうか。懸垂岩を越え正面の垂壁の基部に沿って左斜上していき、雪稜上をさらに進んでダイレクトルンゼに入る。今回我々はクライミングガイドブックスのルート図を参考にしたが、これによるとダイレクトルンゼへは雪稜から右へ50メートル程トラバースするようになっているが、これは誤りだ。50メートルもトラバースすると幽ノ沢の3ルンゼに入り込んでしまい雪崩の危険があるので要注意だ。ダイレクトルンゼは雪稜から1メートルほど下に降りた幅の狭いルンゼで、100メートルほど登ると5ルンゼの頭直下のコルに出る。5ルンゼの頭からは細い岩稜を少し行くと一ノ倉岳の笹混じりの広い雪壁となり、これを越えるとなだらかな山頂に立つことができる。下降は西黒尾根を予定していたが。登攀を終えて気が抜けたのか肩ノ小屋まで行く間にバテてしまって、天神尾根から天神平へと下る。
 今回の登攀は天気、雪の状態等のコンディションに恵まれ、またパーティが2人と小人数だったため短時間で登り切ることができた。1ビバークを覚悟していたが、その日のうちに帰ることができた。

〈コースタイム〉
一ノ倉沢出合(6:30) → 第一岩峰上のコル(8:20) → 懸垂岩の上(10:50) → 5ルンゼの頭(12:10) → 一ノ倉岳山頂(12:50) → 天神平(15:40)


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