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谷川岳一ノ倉沢 変形チムニー・南稜
朝岡 隆

山行日 1992年8月29日~30日
メンバー (L)飯島、井上(博)、金子、朝岡

 8月28日
 井上さんの車で夜の新宿を出発。なぜか東京で阿波踊りの行列に遭遇。少々脱出に時間がかかるかと思われたが、さほどの事もなく順調に一ノ倉沢出合に到着。
 今夜は群馬県に入るあたりから雷がひんぱんに鳴っている。アルコールは控えめにして早めに寝る。

 8月29日 変形チムニー
 朝、テントから出て初めて実物の岩壁を見ると、圧倒される感じだ。下部はガスって薄暗く、その中から壁が突き出ている様は、JRのポスターとは違った印象だ。
 今日は飯島さん・井上さんと私の3人で、烏帽子沢奥壁の変形チムニーを登ることに決まる。
 アプローチのテールリッジの登りで、いきなりバテる。登り切った所で準備をし、烏帽子スラブ上部のバンドまで来ても、辺りには誰もいない。順番待ちになると聞いていた南稜にも人影はなく、この辺りにいるのは我々と、同志会直上ルートを登りに来たという男性1名のみである。今日は貸し切りに近い状態のようだ。ガスもだんだん晴れてきた。
 1ピッチ目のフェースから飯島さんトップで取りつく。最初は快適で登り易いフェースで、数ピッチ目、やや傾斜の強い部分を越えると、急になだらかになる。見ると、もう10から20メートル先には、今日最大のハイライト、変形チムニーが現れている。
 中は暗くて、片側の壁は濡れているため、
「ちっとも快適じゃない!」
 と飯島さんはこぼしながら登っていく。すると、
「チムニーは悪いみたいですね」
 と左から声がするので顔を向けると、先ほどの人が傾斜の強いフェースをザイルをぶら下げてソロで登っている。どんな確保法で登っでいるのだろう。
 チムニーの中は意外にスタンスが豊かにあり、一見した感じより、ずっと快適で面白い。背中と足でズリズリしているうち、難なくおわる。
 チムニーを越え、右手に大きくトラバースすると、正面に浮石がガラガラ堆積したルンゼとなる。傾斜はないが、ザイル操作だけでも落石を起こしそうで、いやな感じだ。中央カンテと合流し、小さなチムニーを一つ越えると、傾斜のゆるいフェースが数ピッチ続く。ここも浮石が多く、気をつかう所だ。
 短い凹角をアブミで越える(私はさらに右のフェースから登る)と、右側が4畳半テラスとなる。天気の心配もないので、ここで大休止とする。4畳半テラスとは言っても、実際の広さは1畳分もない。ここから見下ろす一ノ倉沢はなかなかのもので、右手には滝沢スラブが黒光りして良く見える。
 ここより後は、数ピッチ草まじりの中を行き、最後にルンゼを登って終了となる。7時半頃取りつき、約5時間半だった。
 下りは、左手に南稜へ下り、6ルンゼ右俣から南稜を下降する。南稜テラスで登攀具をしまい、テールリッジを下り、出がけに沢の中で冷しておいたビールとワインを楽しみに急いで帰る。この時は、缶ビールには穴があき、その上ワインは路上でビンを倒して割ってしまおうとは、知る由もなかった。

 8月30日 南稜
 朝から昨日よりずっと濃いガスに包まれ、天気が心配ながら、金子さんと2人で南稜に行くことに決まる。昨日の事件のショックからか、飯島さんと井上さんは今日は行くのはやめると言う。
 テールリッジを登ると、今日はかなりの人でにぎわっている。昨日は誰もいなかった衝立岩も、既に3パーティーほど取り付いている。南稜テラスに着いて準備を始めると、次々に人が来て、たちまち3、4パーティーになる。我々が先頭で取付く。
 金子さんリードで、2ピッチ安定したフェース及びチムニーを登ると、平らな笹原となり、さらに1ピッチ登ると、カンテ上に出る。
 南稜の岩は変形チムニーよりずっと安定した感じだ。その上、このカンテからの展望と高度感は実にすばらしく、入門ルートとしての人気も納得。この日カメラをテントに置いてきてしまい、写真を撮れないのが残念だ。
 さてこのカンテを登り、傾斜のきついフェースを登るともう終了である。あまりに早く終ってしまうのがこのルートの難点かもしれない。他のルートをもう1本登る人もいるようだが、我々はこれで終わりにする。懸垂で下り、またもテールリッジの下りでメロメロにバテながら出合にもどると、まだお昼頃だった。
 出合付近は驚く程の数の観光客でごった返していて、今朝までの静けさはどこへ行ったのか、信じられないくらいだ。苦労して2台の車を出し、湯桧曽で昼食をとって東京へ帰った。
 今回初めての本番だったが、ゆるいピトンがあったり、岩がもろかったりとゲレンデに少ない危険要素は所々あり、注意も必要であろうが、あの高度感は実に捨てがたい魅力だ。練習し、もう少し登る力をつけていこうと思う。


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