トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ280号目次

集中山行・谷川岳
その2 万太郎谷本谷
朝岡 隆

山行日 1992年7月25日~26日
メンバー (L)菅原、箭内、牧野、鈴木(章)、市川、井上(雅)、朝岡、[高橋(清)]

 谷川岳に行くのは初めてである。谷川岳に限らず、上越国境付近の山に全く行ったことのない私には、ルームでは谷川岳の沢のイメージが浮かばず、"魔の山"谷川岳にマンタロウとは大らかな名前で奇妙に感じる。帰ってから地図で見ると、どうやら魚野川流域は比較的なだらからしく、ほっとすると同時にテンションも少し下がる。とは言っても初心者マークの私だから油断は禁物だ。

 7月24日
 上野駅に集合。今夜は土樽で仮眠。
 出発早々、私一人ザックがやけに小さく、ヒンシュクを買ってしまった。
 土樽駅には、小さいが新らしく快適な待合室があった。その代わりこの日は駅員もおり、キセルは不成功に終わった。残念。

 7月25日
 駅から歩いて1時間程で堰堤があり、ここでもう沢に入る。交通の便が良すぎて、人が多くないか心配なくらいである。天気も良く沢には最高の日となりそうでうれしい。
 出だしの少しの間は日に照らされての河原歩きで、少々暑さを感じる。が、じきに日蔭が多くなり、足元も岩床に変わる。ペタペタ快適に行く。
 浅い釜を持つ小滝をいくつか過ぎると、乾いた100メートル程の岩床の中に、見事なスベリ台が現れた。すべりたい。しかし、ここですぐ水に飛び込めるほど私は単純ではない。
「・・・・・・・・」
 別に誰も見ていないが、一応、鑑賞を楽しむ風を装う。しかしそんな私は当然のごとく無視され、皆さっさとザックを下ろし、スベリ台にスタスタ向かって行く。先頭の高橋氏がヒューと滑っていくのを見ては、もう押えは効かなくなり、思わず、「ツギオレ!」などと叫びながら、人を押しのけ割り込み、すべってしまう。その上、これは一度やるとまたやりたくなるのだ。これは私だけではなかったようで、早くも遡行は足ぶみ状態となる。
 大きなナメはその後なくなるが、関越トンネルの換気口を過ぎると、今度はゴルジュ帯となる。右手に美しい滝を二筋見て少しすると、左岸に泳いで渡らなければならない。ここでザイルが出され、皆慎重に渡る。でも、泳ぐのはほんの数メートル、10秒程度だ。先程のスベリ台の余韻もあり、泳ぎたくてウズウズしている私は、ゴルジュが残るうちに、皆が高捲く所を一度だけ、リーダーの許可を得て泳ぎで通過を試みる。が、小さな段を越えられず、結局敗退。御迷惑をおかけしました。でも泳いだ方がトクした気分だ。
 ゴルジュは意外に短く、明るく開けた沢にまたもどる。釜を持つ小滝がつづくが、釜あれば飛び込み、ナメあれば滑りで、一行は遅々として前に進まない。特に男数名の水との戯れぶりは幼児並みである(私もその一人)。
 そうこうすると日の前に20メートル程の滝が現れた。一ノ滝である。ルート図集には、「直登は右壁。傾斜は緩いが、・・・」とある。しかし見たところ、とても傾斜が緩いとは感じられない。迷わず高捲く。少しもどって左岸の草付きを登るが、上部の小さな広場に抜けてから、踏跡が左右に分かれてしまう。我々は左を行ったが、後に右側から大高捲きとした方が正解だろうとの結論となった。
 一ノ滝の高捲きで2時間近くもかかり、少々不安になる。この調子では幕場が見つかる前に暗くなってしまうのではないだろうか?
 二ノ滝は左岸の岩が登れそうだが、ここは慎重に高捲く。
 二ノ滝より先から、幕場を探しながら行くが、良い所がなかなかない。そのうちついに三ノ滝が現れる。三ノ滝沢出合付近に数張のスペースがあり、今夜はここで幕営となる。食べ切れないほどのおかず・つまみにアルコールと、いつもながら豪華だ。さらに焚火などしてくつろぐうちに、アッという間に暗くなる。私はアルコールがすっかり回り、片付けも手伝わず、一人先に寝てしまった。

 7月26日
 今日はまず、目の前の三ノ滝の登攀で始まる。菅原、箭内、高橋氏のリードで登る。
 三ノ滝を越えると、時折り、小滝と小さな釜が現れるが、少しずつ水量が減ってゆく。この間に一ヶ所、3人用天幕1張なら張れそうな岩があった。
 戯れる水もチョロチョロの流れになってきた頃、右手前方の岩に白いペンキ印が現れる。ここを右手に行くと踏み跡に出るはずだが、我々は真上に沢をつめることにする。
 背の低い笹原をしばらくこぎ、最後の灌木帯に少々手こずると、明瞭な踏み跡に出る。ふり返ると、谷が下まで見渡せ、広々として気持ちが良い。そこから数分で山頂である。
 山頂は驚く程多くの人でごった返していて、騒々しい。ここから反対側をのぞくと、マチガ沢ヘスッパリ切れ落ちていて、ものすごい高度感だ。万太郎谷側とは対称的だ。
 肩ノ小屋まで下ると、いつもの顔が勢揃いしていた。しばらく休んだ後、暑い尾根を下り、ロープウェーに乗り、土合手前のホテルの風呂につかって帰路についた。
 夏は沢に限る!そんな気にさせられた山行だった。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ280号目次