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集中山行・谷川岳
その5 西黒沢・ザンゲ沢の恐怖
福島 志乃

山行日 1992年7月26日
メンバー (L)今村、小林(勝)、福島

 そもそも今回の集中で私が西黒沢・ザンゲ沢に行くことになったのには、次のようないきさつがあった。
 私は今年の夏生まれて初めて沢登りを経験したばかりで、集中の募集までにまだ2度しか沢に行ったことがなかったのである。しかも、2度とも前夜発の日帰り・車利用だったので、歩く距離は短かったし荷物も少なく、レベルとしても低い所であった。そんな訳で「沢登りはやりたいけど、できるだけ簡単なとこにしよう」と思いルームの時某U氏に聞いてみた。
「あのォ、沢に行きたいんですけど、あんまり難しくないとこっていうと・・・」
「じゃあ西黒沢にしなさい。あそこだったら距離も短いし、沢をツメたらすぐ稜線だから藪をこぐ必要もないと思うよ。簡単簡単。それに今村さんの車で行くんでしょ?だったら荷物も軽いし・・・。今村さんと小林さんなら頼りになるし、ちょっとぐらい難しくてもすぐ助けてくれるから。大丈夫、ぜーったい大丈夫だから、行きなさい行きなさい」
 というU氏の、あなたに不可能はない!と言わんばかりのこの言葉に乗せられて、私は西黒沢へ行くことになったのである。後で、このU氏の言う簡単がどういうものか、思いしらされることになるのだが・・・。
 今回の山行に関しては資料になるようなものがほとんどなく、事前の打ち合せでも今村さんが「いやァ、資料がなくてどういう所なのかあんまりはっきりわからないんだよね・・・」と言っていたぐらいである。当日になって今村さんがやっと捜し出してきてくれたルート図は、なんと昭和30年代のもの。それだけを頼りに登山が開始された。そこで、今後西黒沢・ザンゲ沢に行く方のためにも、最新情報をお届けしよう。

 26日の朝6時頃に土合を出発。沢に入ってしばらくは頭上に天神平のロープウェイを見ながら行く。沢の方は傾斜のゆるいナメ沢がずっと続いていて、明るく開けた感じがする。たまに小さな滝があるが、ほとんど問題はない。水量は少なく、転んだりしない限りひざより上をぬらすことはなかった。水は上流に雪渓があるにもかかわらずぬるくてとても飲む気にはなれない。土合の駅で水筒を満たしていって正解であった。
 こんな調子で約1時間半ほどで天神沢との出合に着く。この辺りからだんだん勾配がきつくなり、水は伏流水になるのかほとんど表面をチョロチョロと流れる程度になってくる。沢というよりはガレ場で、足元も不安定である。ここからはただまっすぐにザンゲ岩に突き上げればよいだけなのだが、これからが一番大変だった。何が大変といって足場の悪いことといったらなかった。小さな石がいっぱい集ってできたような所なので、足の置くとこ置くとこ崩れていってまったく力が入らない。落石ばかりして後から来る小林さんに「スミマセン」の言い通しだった。ガレ沢の出合を越えてザンゲ沢に入ると、この状態がもっとひどくなる上に、勾配がさらに急になってかなり高度感もあった。おまけに手にしっかりとつかめるような岩や草もなく(たまに草が生えているとその中にはアザミが沢山混じっているので、知らずにつかむととても痛い)、非常にバランスの悪い状態で立ってないといけないわけで、いつでも滑落できそうだった。この辺で私はもう完全にビビッてしまい、口では
「わぁ怖いーッ!こんなとこよう登れへん!」
とか言っていたが、心の中では秘かに
「なんで私がこんな目ェにあわないかんねん!なんでや、あんまりや!」
とか思ったりもした。時々怖さのあまり身動きできなくなったりすると、今村さんが「シュリンゲ投げよか?」と言ってくれるのだが、足場が悪すぎて今村さんも自分の体を確保することができず、結局
「やっぱり自分で登ってきて」と言われてしまうのだった。仕方がないので何とか登るには登るのだが、その際必ず
「えーッこんなん怖すぎる!もういややァ」
を連発しながらだったので、今村さんも小林さんもさぞうるさかったことだと思う。一足ごとにワーワーキャーキャー騒がしい私に対し、常に冷静な今村さんと、終始にこやかで無口な小林さんであった。
 とにかく稜線へたどり着きたい一念で登りつめ、天神沢の出合から約4時間でザンゲ岩に到着。集合時間ギリギリのちょうど12時に谷川岳に着いた。
 確かにU氏の言った通り、距離も短かったし、藪もほとんどこがなかったし、荷物も軽かったけど・・・。こんなに怖い想いをするなんて予想外だった。きっとレベル的にはそんなに高くないのだろうがあの足場の悪さと高度感にはけっこうビビらされるものがあった。
 下りは、今登ってきた所を横目に見ながら西黒尾根を下って、16時には土合に到着。今村さん、本当にお疲れ様でした。
 ちなみに今回の山行で、雨男の今村さんと"京女"改め"雨女"のどすえの2名がいたにもかかわらずとても天気が良かったのは、それ以上に小林さんの晴男パワーが勝っていたからにちがいない。

〈コースタイム〉
土合(6:00) → 白サギの滝(6:30)(休) → 天神沢出合(7:40) → ガレ沢出合(8:05)(休) → ザンゲ沢の大滝(9:50)(休) → ザンゲ岩(11:25)(休) → トマの耳(12:00) → 肩ノ小屋(12:05)


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