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日光太郎山
服部 寛之

山行日 1992年9月6日
メンバー (L)服部、大久保、谷川

 三峰に入会して間もない頃、独りで男体山に登ったことがあった。二荒山神社から入って、その日は反対側に下りたところにある無人の志津小屋に泊まった。無人小屋に独りで泊まるのは初めての経験であった。古いその小屋にはすでに扉は無く、奥まった板の間の暗闇に独り座っていると森をゆさぶる風の音やおんなの震え叫ぶような鹿の声が恐ろしく、シュラフカバーをびっちり閉ざし四肢硬直態勢で早々に目をつぶったのであった。
 翌朝、太郎山に登って帰ろうと思った。ブキミ灰色大気に気持ちを萎縮させながら、秋色に色づきはじめた林道を太郎山の方へ進んでいくと、突如バサバサッと巨鳥の激しいはばたきが重い風圧となってカーブの笹薮を揺らした、と思うやいなや森閑とした辺りの空間にただならぬ獣の気配が立ちこめ(たような気がし)、時を同じくして森を突き抜けてきた鹿の鳴声はほかならぬ地縛霊の怒声であった(ような気がした)ので、素直に引き返し、戦場ヶ原のハイキングに転進して帰ったのであった。
 以来、太郎山が気になっていたのである。
 いつか登ってみよう、とそっと思っていたのである。
 そしてその大願成就の時は、去る9月6日(日)にやって来た。前夜から大久保哲、谷川健三と共に車で光徳駐車場にべ-スキャンプ入りしたわたくしは、現地時間午前6時55分、さわやかな青空の下、約2名の隊員と共に幸せな気分で出立したのであった。闘志むきだしだった折からの残暑も予報どおりきのうで果てて、今日からは肌にやさしい秋の風が高らかに空に笑う暑くもなく寒くもない正しい初秋の陽気となったのであった。
 ルートは当初は光徳駐車場から北上し、太郎山 = 山王帽子山の鞍部→太郎山→裏男体林道→光徳駐車場の予定であったが、実際登攀してみると何てことないハイキングの道で、あまりにもあっけなく太郎山に登頂してしまった。楽しみにしていた展望も、見通しはきいたものの、千恵子さんの眠る根名草山をはじめ奥鬼怒の山々のピークは残念ながら雲の中。わたくしは、エビ天直下ご飯面のオツユ僅少・浸透劣悪状態が発覚したときの天丼喰いの気分というか、熱きココロをはぐらかされた小林旭的気分となり、このまま林道に下りて帰ったのではモノ足りないので、引き返して山王帽子山に登ってから温泉に寄って帰ることに予定を変更、隊長命令として大久保、谷川両隊員にその旨下達したのである。
 それでも、13時過ぎには湯ぶねに浸かれる程度の軽いハイキングであった。メンバー構成故か、なんだか山岳会の例会というよりもシティー中年のリクレーションというかんじがしなくもなかった。
 ルートの状況は別掲の図に示した。所要時間は以下のとおりであった。ご家族でもどうぞ。

〈コースタイム〉
光徳駐車場(6:55) → 登山口(7:10) → 水場(7:40~45) → 太郎山=山王帽子山鞍部(実際にはやや太郎山寄り)(8:25~35) → 小太郎山(9:08~25) → 太郎山(9:45~10:12) → 太郎山=山王帽子山鞍部(10:50~11:00) → 山王帽子山(11:25~50) → 奥鬼怒林道(12:10) → (ハイキング道経由) → 光徳駐車場(12:45)

 湯ノ湖のバス発着所北側にある温泉寺(ユセンジ)というお寺では入浴・休憩させていただくことができる。家庭風呂風だが、家族単位でも入れる。今回は温泉寺とバス発着所の間にあるみやげ物屋の温泉に入ったが、風呂は入浴料500円也に見合う程の造りではなかった。


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