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編集後記

 『南の海からきた丹沢-プレートテクトニクスの不思議』神奈川県立博物館編【有隣新書(株)有隣堂発行定価980円】を読んだ。本書は同博物館が1987年に行なった講座「海の向こうからやってきた丹沢」をまとめたもので、8人の専門家が一般向けに執筆した8編の論文から成っている。非常に面白く、また驚くべき内容の本であった。
 本書によると、現在の定説では、丹沢山塊および伊豆半島は相模トラフ・南海トラフで日本列島の下に沈み込んでいるフィリピン海プレートに乗って北上してきて日本列島に衝突(付着)したと考えられており、その動きは今も尚続いているという。まず600万~400万年前に、現在JR中央本線や中央自動車道が走っている関東山地南縁、丹沢山地北側の相模川上流域を境として丹沢が衡突し、続いて200万~100万年前に箱根山地の北側、JR御殿場線と東名高速の通る丹沢山地の南縁に伊豆半島が衝突したのだそうだ。インド半島が北上してきてユーラシア大陸に衝突したという話は聞いたことがあったが、それと同じようなことが丹沢及び伊豆半島でも起こっているというのである。
 また丹沢の山々をつくっている岩石は火山性のもので、伊豆半島、伊豆七島のものと非常によく似ており、丹沢にはかつて火山があった痕跡もあるのだそうだ。そして衝突の圧力やマグマの隆起などで丹沢の地層はぐちゃぐちゃに変形していて、中には垂直・逆転しているものもあるという。さらに驚くべきことには、九州・四国を横断して銚子あたりまで続いている大断層の中央構造線及びその南側にある帯状構造と呼ばれる地質帯が、丹沢と伊豆半島の北側で北方に大きくくの字形に屈曲しているが、これはもともと真っすぐだったものが、丹沢と伊豆半島の衝突で曲がってしまったのだという。
 その他、関東大震災で有名な小田原地震(神奈川県西部地震)のメカニズムの話(この地域の大地震は、これまで平均繰り返し時間73.0±0.9年という明確な規則性をもって再発しており、単純に計算すると次は1998年頃と予想されるとのこと)や相模湾の海底調査の話など興味深い論文が載っているが、ともかく神奈川県は丹沢や伊豆が衝突した非常に特殊な場所であり、プレートテクトニクスでいえば本州の下にフィリピン海プレートが沈み込み、さらにその下に太平洋プレートが沈み込むという、プレートが三つ巴になっている世界でただ一ヶ所の場所なのだそうだ。
 私は茅ヶ崎に住んでいるが、これを読んだときショックであった。よりによって実にヤバイところに居るものだと思った。不可避的に発生する大地震に備え、本気でいろいろと対策を考え実行せねばならない。また丹沢を見る目も変わった。これまであまり面白くない裏山程度に思っていたが、実は世界でも珍しい激しい歴史を秘めた山であることが分かった。特に「温泉の化石」があるという話には非常に心引かれたので、今度それを探しに行ってみようと思う。

【服部】

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