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枯木山(湯西川) -道なき山のヤブこぎ山行-
大久保 哲

山行日 1992年10月17日~18日
メンバー (L)勝部、小林(勝)、阿部、大久保

 久しぶりに、勝部氏からヤブこぎ山行の誘いがあった。以前の例会で大佐飛山のヤブこぎ山行にも参加したが、その時は台風のため予定を変更し井戸沢となった。その屈辱戦ではないが、ふたつ返事で参加することにした。ヤブ山のドン、勝部氏をリーダーに、これまたヤブに懲りない面々の小林氏、阿部ちゃんと私の4人は、一路車で湯西川へ向う。

 10月16日(金)
 枯木山へは、湯西川温泉、伴久ホテルの手前を右折してすぐ橋を渡り、まもなく町営のゴミ処理場を通り過ぎ、木ノ沢に架かる橋を渡る。渡り終えてすぐ左に林道が延びている。この道を進めば、枯木山に続く尾根に取付くことができる。その夜は林道の出合に車を止めて仮眠する。

 10月17日(土)
 朝、6時55分に出発。約1時間程で林道の終点にでる。ここまでなら、四輪駆動車であれば入ることも出来る。ここからは仕事道をたどりながら歩く。木ノ沢を何度も徒渉するが、水量が少ないので楽に渡ることが出来る。途中、この先水が無いと思われるので補給する。やがて、沢ぞいに遡っていた道も、急な山の斜面につけられた道に変わる。ジグザグとつけられた道を、しばらく高度を稼ぎながら登っていくと、急に視界が開け、今まさに真っ盛りの紅葉が目に飛び込んでくる。しばしザックを下ろし紅葉を楽しむ。
 さらにうっそうとした平担な道を進むと、やがて仕事道も行き詰まり、ヤブを刈って檜を植えた斜面につきあたる。地図で位置を確認し、ここから尾根に取り付くことにする。登りだすと、傾斜がきついのと、手がかりもなく、おまけに下刈りされた枝が足に絡み付き、四つん這いになってもなかなか前に進めない。なんとか登っていくと、次第にヤブのなかに入っていく。帰りに迷わないようにと、勝部氏はナタ目を入れ、残りの3人は赤布を付けながら登っていく。実際、これらの目印は、下山の時非常に役に立った。
 ヤブの中を突き進むこと2時間。最初のピーク1467.1m地点に出て一息つく。両手両足をフルに使い、ヤブの中を突き進むので汗だくだ。熱いので肌を出して登りたいが、ヤブの中では露出した所は傷だらけになり、ヒリヒリするわ熱いわで嫌になる。しかしここから先は、北北西に延びる尾根を進めばいいので、ルートファインディングは楽になる。進みだすと少しは傾斜も弱くなるが、相変わらずヤブが続く。途中、1502m付近にテント一張りが張れるスペースがあったのでチェック。しかし、結局はここにテントを張ることはなかった。
 進むにつれ、しだいに足が重くなってくる。先行く勝部氏、阿部ちゃんの2人は相変わらず元気で、ヤブの中をガサゴソと順調に進んで行く。2人との距離は広がるばかりだ。後ろの小林さんも少し遅れぎみだが、何とか国境稜線上の1692m地点まで辿り着く。この場所からは、目指す枯木山がやっと確認できる。山頂に続く尾根は、ここから左手をぐるりと巻いて右に続いている。最初は登りが続くが、あとはすこし平担になっている。あともう少し。山頂目指し出発するが、足が前に進まない。後ろの小林さんに先に行ってもらうが、小林さんの後ろ姿はあっと言う間にヤブのなかに消えた。ハアハア、ゼイゼイと息を乱しながら前の3人を追う。やっとのこと最後の登りをのぼりきると、3人はそこで待っていてくれた。とは言うものの、その場所は高台になっていて、展望がいいのだった。重いザックを下ろし景色を見渡すと、東に荒海山、西に田代山と帝釈山、南に明神ヶ岳などが確認できる。休むのも束の間、先に着いた3人は準備を整え、あとわずかとなった山頂に向う。すぐに後を追うが、すぐに差が広がる。途中、山頂近くは平担になっているので、先の3人の進んだ方角が判らなくなるが、モートーコールを送り、返事が返ってきた方角へ進むと、そこが日指す枯木山の頂上(1775.4m)だった。
 頂上もヤブに囲まれ、展望はあまり良くない。しかし、三角点と測量で使ったと思われる崩れかけたやぐらがあった。ここまで登ってくる途中、勝部氏曰く、「枯木山は、過去にあまり登られた記録がなく、沢から登るのが一般的だが、あまりのヤブでほとんど登られていない」とのこと。なるほど、ここまで来るあいだ、ひとけのする物はほとんどなかったわけだ。他の人が登らない山の頂上に立った喜びを、久しぶりに味わうことが出来た。しかし、のんびりもしていられない。時計も4時近くになり、今夜の幕場を捜さなくては。残りの水の量を考えても、出来るだけ下って行きたいが、結局、国境稜線まで戻った高台にテントを張ることにした。とはいっても、熊笹の上に張るものだから、テントの床が押し上げられ、荷物で押さえ付けてもかなりデコボコした床になった。それでもテントを張り終えると、早速酒やつまみが床一面にひろがり、宴会に突入となった。手や腕につくった傷を見ながら、ヤブ山談義に盛り上がり、外の夜景を楽しみながら、呑みきれないほどあった酒はあっというまにカラになった。一際、勝部氏は満面の笑みをうかべ、満足気だった。

 10月18日(日)
 4時起床、6時に出発する。まだ麓には雲海が漂っているが、今日も天気はいい。荷物も軽くなり、疲れもとれて体調もいい。少し心配なのは残りの水の量だけ。全部で1リッター。熱くなる前に下山したいところだが、その心配もすぐになくなる。下りだすと、苦労した登りも半分の時間で順調に下っていく。その途中で思わぬ収穫に出くわす。平担なヤブをガサゴソと突き進んで行くと、行く手を阻む倒木。目を凝らして見ると、1mもありそうなその倒木には、ビッシリと真っ白なブナハリダケが貼りついているではないか。思わず勝部氏と目が合い、その場でマイタケならぬ、舞い上がってしまった。周囲には独特の香りが漂い、さらにその先にももう1本、2本の倒木には、見事なほどに生えていた。これほど大量のキノコが生えているのを見たのは初めてだ。
 この思わぬ収穫で、さらに帰りの足も速くなり、不明瞭な場所では赤布やナタ目に助けられ、足場の悪い檜の急斜面も無事下り終え、仕事道にでる。仕事道に出てすぐにあった水場で一息つく。後はのんびりと仕事道をたどり、林道を歩いて車に戻り、温泉に向う。
 途中、みやげ物屋で温泉情報を仕入れ、無料の共同俗場があるというのでそこに向うが、湯槽ひとつの混浴なので、隣の旅館の風呂に入れてもらうが、泊り客がひけたあとでのんびりと、しかも貸切で入ることが出来た。その後、湯西川の古い町並みも探索し、山も観光も楽しみ帰宅する。久々の満足した山行を味わうことが出来た。

〈コースタイム〉
10月17日 木ノ沢林道出合(6:55) → 林道終点(7:22) → 仕事道終点(8:50) → 1130m地点(9:00) → 1467.1m地点(10:50) → 国境稜線(13:20) → 枯木山(14:40) → 幕場(16:00)
10月18日 幕場(6:00) → 1502m地点(7:00) → 仕事道終点(9:40) → 木ノ沢出合(10:50)

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