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燧ヶ岳/秋景色
澁谷 聡子

山行日 1993年10月2日~3日
メンバー (L)安斎、井上(博)、澁谷

 「みんなもっと来ればいいのに」その山行はリーダーの眩きから始まった。10月1日夜10時、小岩駅に集合したメンバーは、リーダーの安斎氏の他には井上(博)さんと私のみ。ごめんね代わりばえのしない顔ぶれで。少人数の為ゆったりしすぎてちょっびり寂しいワゴンは、順調に目的地を目指す。順調なんだけど時々車がセンターライン側にふくらむ。順調なんだけど時々安斎さんが手で頬をパチパチたたいている。あんまり眠そうだったので、後部座席から思いっきり頬をたたいて手伝ってあげようかと思った。でも後々のことを考えて「大丈夫?」とやさしく囁くだけで我慢した。いつもながら運転をしてくれる人には本当に頭が下がる。午前2時45分、ようやく御池駐車場に到着。3人だけだし夜中の天気も心配なので、座席をフラットにして車の中で仮眠をとることにする。
 翌朝7時ごろ起きてみると、フロントガラスは黄色い落葉で一杯、外は小雨が降っている。他のパーティーが出発する中、朝食をとりながら様子をみる。8時半頃雨具を着こんで出発、と同時に雨も上がった。道はぬかるみでとても滑りやすい。靴も雨具の裾もあっという間にぐちゃぐちゃになってしまった。40分程で広沢田代の湿原地帯に突入し、真中あたりでさっそく一本取ることにする。湿原の中央に木道がのび、一面に池塘が点在してとてもきれい。さらに40分程歩くと2番目の湿原、熊沢田代に到着する。ちょうど40分毎にこんなきれいな所に着いたりしたら、やはり一本取らない訳にはいかない。とても有難いペースだ。霧雨の中、右と左の二つの大きな池にはさざ波が立って、一面のガスがはれると紅葉の秋が出現する。風は結構寒いけどなかなか居心地のよい場所だ。
 湿原を後に黙々と燧の山頂を目指す。頂上まであと20分位だろうと思われる地点で一休みする。もう一踏ん張りと11時40分に出発。風と共に上から何か降ってくる。「エッ、氷?」見ると前方のハイマツに霧氷がついている。こちらは頂上の北側、寒い訳だ。思いがけなくて妙に嬉しい。そして大きな岩を乗り越えたら、もう爼ぐら頂上に飛び出してしまった。時刻は11時45分。なんと頂上直下で休んでいたのだった。たった5分しか歩いていなくても頂上は頂上、今度は本格的なランチタイムにする。さすがは燧ヶ岳、大勢の登山客で賑わっている。かなり寒く、巨岩の陰でコーヒーを入れる。単純に幸せなひと時だ。頂上には小さな石の祠がまつられていて三脚を使ってきっちりと証拠写真に収まる。(後で焼き増ししてもらったけど、いい歳をしていいかげんブリッコ笑いは止めようと思った・・・)
 1時間の大休止の後、下りはナデッ窪ヘルートをとる。ここはかなり急な岩ぱかりの道だ。雨の後などは、かえってこういう岩ばかりの方が歩き易いとはリーダーの弁。確かにぐちゃぐちゃ道より大分歩き易い。岩に足をとられないように足元ばかりに自をやっていて、ふと見上げると眼下に尾瀬沼が広がる。井上さんはさっそく画帳をとり出しスケッチを始めた。安斎さんは風景用の方のカメラでしきりにシャッターを切っている。まさに芸術の秋。(どうせ私はアメなめてただけだい。)このルートは真正面に尾瀬沼がきれいに見える箇所がいくつかあり、時間的にも短くて下りにはなかなかお勧めです。そして私の大好きなコケ類・シダ類の香りに酔い、14時に尾瀬沼に到着。標高1665mの尾瀬沼西岸、沼尻休憩所でてんでんばらばらに寛ぐ。ハイカーやカメラマンの多さも頷けるきれいさだ。さらにここからの、左に沼尻川の水音を聞きながらの下りは快適そのもの。15時頃のお天気はピーカンで言うことなし。但し、木道は一歩足を踏み外すとたいへん。木道では一人一回は必ず決まり事のようにこけるのだ。15時40分に見晴十字路に到着。本日の行程はここまでなので、弥四郎小屋前のべンチでラガーで乾杯。きっと三人共、ラガーのCMのように爽やかな笑顔だったに違いない。少し戻って下田代キャンプ場にて幕を張る。サイト代は一人800円で立派なトイレは使用料をいくらかカンパ、尾瀬の実情もわからなくはないがちょっと高いかなといった感じ。でも整地や水場は共に快適だ。大人数のグルーブでテントを張っている人達もいてなかなか楽しそうだ。こちらは少人数なのでしみじみと飲んで就寝。
 翌3日はさわやかな朝の尾瀬ヶ原と至仏山を跳め、7時半頃に気持ち良く出発する。左手に至仏山、右手に燧ヶ岳を眺めながら歩く。なんて贅沢なロケーションなのだろう。ここでまた二人の「芸術の秋」が姶まった。私ものんびり地図を見ながら風景を楽しんだ。リンドウの紫の蕾、ナナカマドの赤い実、燧ヶ岳にかかる雲はもうすっかり秋一色! 8時20分、尾瀬原休憩所に着く。ここから30分程で三条の滝へ到着。結構早いぺ-スだ。尾瀬ヶ原の全ての水がここで滝となるそうで、見応えのある滝だ。渋沢温泉との分岐で一本取り、10時頃燧裏林道を行く。この辺りから気分は山岳マラソンとなり、ぷっちぎりでガンガン飛ばしていく。11時頃にはもう横田代の湿原地帯に入り、赤や黄の色付いた木々が本当に見事だ。「これがみんな自分の庭だったらなあ」とは三人共通の感想だ。でも税金とか手入れがたいへんだなんて話にまで発展し、妙に現実的でもあった。11時15分、上田代にて大休止とする。私はかねてよりの懸案事項である飲みそこねてずっと持っていたビールを、ここでへ飲むことができて満足した。11時55分、御池の駐車場にめでたく戻る。桧枝岐でおいしい蕎麦を食ベ、桧枝岐温泉第二公衆浴場に入る。(第一は露天もあるが混むとのこと)14時に帰途につき、19時20分小岩駅にて解散となった。今振り返ってみても、山あり湿原あり温泉ありと実に充実した山行だった。紅葉の美しさは格別で、どこも気持ちのよい展望がひろがっていて十分に秋を満喫できた。そして井上さんがスケッチが早くてとても上手なのに驚いた。安斎さんはみかけはあんなだけど(どんななんだよ。)実にやさしいリーダーであった。とても楽しい山行だった。


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