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やはり安全登山を!
箭内 忠義

 鳴虫山頂上でご馳走になった抹茶は旨かった。酒を持っていってよい三峰の山行は、一つ一つが行った仲間とのふれあいを含め心に残っている。三峰は、毎回例会山行を組める会の力量と遭難に対する取り組みの確かさ等に対し素晴しい山岳会だと思っている。同時に、会を運営してくださる方々には頭が下がります。ずっと所属していたいので見捨てないでください。
 自然を愛し、山を遊び尽くそうとする時、自分の体験から考えると安全ということが気になります。山で遊ぶには地図の見方は勿論技術・技能が必要だし、道具類の使い方にも習熟しなければなりません。それと、心の持ち方も問われます。
 10年以上も前の事になりますが、富士山で400メートル程滑落したことがあります。その当時入会していた会では、例年、富士吉田口五合目から1時間程登った所で雪上訓練を行っていました。その年も同じ場所で雪訓を行うことになりました。前夜、当時御殿場に住んでいた会の仲間の松本さんの家で、朝4時までおでんパーティーをやり酒を飲んでいました。朝6時、松本さんのジープで五合目まで行き、まず富士山頂を目指しました。6人程のパーティーでしたが、前夜の疲れからほとんどの人が途中で敗退。小友さんと私は、競争心があったのか、無理をして頂上まで行きました。私は頂上に立った時、もう頭の中が朦朧とし、じゃがむこともできずその場に倒れるような状態でした。夕暮れも近づき、二人で下山。頂上直下の危険な氷の斜面をすぎ、皆が休んでいる所まで行きました。さて、あとは五合目を目指すだけという時、アイゼンをひっかけ滑落してしまいました。ピッケルはとばされ、滑り台を滑るように落ちていきました。一瞬の内に、様々なことが頭の中をかけ巡りました。岩と岩の間を滑り抜ける時アイゼンを氷に打ちつけると空中に飛ばされ、一回転して止まりました。一瞬死んだのかなと思いました。でも手を動かすと動きました。膝を曲げると曲がりました。目を開けると見えました。ほっとしました。しかし、身体中に打ちみ、ピッケルで止めようとした右手の親指は腫れあがっていました。でも、何とか無事で、歩けたので、そこからはザイルを出し、皆に助けられながら1ピッチずつ着実に下りて行きました。その頃はもうあたりは真っ暗で月と星しか見えません。下山の方向が分からず迷っていると、遥か遠くの方でライトが二つ光っていました。その光を目当てに下りて行きました。その光は、松本さんがパーティーの下山が遅いので心配して、ジープで走れる所まであがりライトをつけていてくれたのでした。松本さんのジープで駅まで送ってもらう時、皆に迷惑を掛け申し訳ないと心から思いました。
 山は競争ではないし、自分の体力を知り、絶対無理をしてはいけないと思いました。また、先輩やリーダの「行くのはやめた方がいい」等の助言も必要なのだと思いました。
 それに懲りて、体力維持の為家から職場までの10数キロをジョギングか自転車で往復するようにしました。同時に、職場のそばにあった寺に8メートル程の壁(石垣)があったのでボルトを打ち、暇があると登り、練習していました。しかし、移動で職場が変るとトレーニングもいつしかやらなくなりました。
 そして、昨年の冬の宝剣岳です。頂上直下げんさんがザイルを張ってくれたのを無視して、ヒョコヒョコ歩き写真を撮っていました。一瞬足元がくずれ滑落。手にきちんとピッケルを持っていなかったので、自分でも驚きハッとしました。ピッケルバンドから手が抜けそうになるまで落ちましたが何とか止まりました。本当にドキッとして足がすくみました。その時、表面は平静を装っていましたが、そこから先は何でもない斜面が恐くなり、腰が引けて歩けなくなりました。恥ずかしい話です。やはり、安全に対する心がまえが欠けていたのだと思います。
 山はとても楽しいけれど、楽しい以上に危険な面もあります。油断せず、体力・技術等を身につけ、常に安全に対し心がけていきたいと思っています。自戒の念です。


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