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山に登ろう
澁谷 聡子

 仕事や人間関係等で、生きるのが下手だなあと悲しく思う時、無性に山が恋しい。「僻んじゃいけない。いじけちゃいけない。」だって山にいるととても素直になれるし。
 いつから山に魅かれるようになったのだろう。中高生の頃は水泳が大好きで、水の中が私の心安らげる場所だった。水の中にいると無心になれて、心身共に自由になれる気がした。「私は水の子」なんて豪語していたのだから笑ってしまう。やがて進化(老化)と共に陸に上がり、大地にも根をおろした立派な両生類(?)となった。肺で呼吸できるようになったから山にだって登れる。
 陸に上がって初めて行った山らしい山は、真夏の「白馬岳」だった。ちりちりパーマのショートヘアになんと緑色のスキーパンツ。あわてて買ったキャラバンシューズに軽アイゼンで大雪渓をゆく姿は、今思うとどう考えてもダサイお姉ちゃん。懐かしいけどあんまり写真も見たくない、二十歳の夏。遠足の高尾山以外の初めての山であり、「山に登ろう」と決めてしまったきっかけだった。だけどその後何回か山に行っただけで、それからかなりの年月、山とは無縁の生活が続いた。三峰に入るまで、山はあくまで眺める山になってしまっていた。あれからずっと山を続けていればなあと今も残念でならない。と同時に、もう一度山に行き始めて本当に良かったとつくづく思う。三峰に入って良かった。
 そう、私にとっては三峰に入って良かった。しかし皆さんにとっては?三峰入会後の大メーワクの数々を考えると、申し訳ないなと思ってしまう。
 その一、巻機山でねんざした。下山まではちゃんと我慢したけど、その後今だに痛みは続く・・・。重力には逆らえない。
 その二、赤谷川では4泊5日に大勢のガイドつきで下山せねばならなくなり、多大のご迷惑をおかけした。恥ずかしい限り。
 その三、5月の剱岳で登り始めた途端にバテていた。(前夜の飲み過ぎでは決してない。飲んだ薬で脱水状態に陥っていたのです、念の為。)「そうそう、あの時世話したよ!」とお心当たりの皆さん、どうもありがとう。本当に感謝しています。私だって迷惑をかけるだけでなく、役に立つことだってしたいと思っているのだ。できれば酒飲んだ時の態度だけでなく、中身も大きくなりたいと思っているのです。本当に。そして三峰の皆さん、これからも「人間は外見じゃない。中身だ。」ともっともっと思わせてください。(いえいえ、外見がどうのと言っている訳では、けっして・・・)
 山の数って本当に多い。だからのんびりしてはいられない。山で元気がなくなった時に頭の中に流れる歌は、ご存知"水戸黄門のテーマ曲"です。「後から来たのに追い越され、泣くのが嫌ならさあ歩け」という部分なんか特にピッタリ。バテた時は、このテーマ曲と共に頑張らなくてはね。
 60周年おめでとうございます。60年もの長きにわたり、三峰山岳会を育て、守り続けてきた諸先輩方や会員の皆さんに感謝します。そしてどんな山よりも高いその積み重ねの上で、これからもたっぷり遊ばせてもらおうと思っています。
 「さあ、山に登ろう」


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