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雨飾山はハイキングか?
荒川 洋児

山行日 1993年10月23日~24日
メンバー (L)飯塚、金子、勝部、菅原、別当、荒川

 10月23日、早朝。駅で雨飾温泉へと向かう山沢さん達と別れて、タクシーで海川発電所へ。
 天気は晴れ。一人だけプラブーツで来ている別当が浮いている。「この時期にこの程度の山にプラブーツなんて、おかしいんじゃない」
 数年前の11月初旬、鋸岳から甲斐駒への縦走でやはりただ一人プラブーツを履いていたわたしに向けられた彼のまなざしを、わたしは忘れてはいない。
 発電所からしばらくは林道を歩く。やがて高床式の小屋がある開けた所(キャンプ場かな?)で朝食。ここから登山道が始まった。じきに道は滑り台のようなスラブの横を登るようになる。振り返ればよい景色。日本海に突き出す能登半島も見えるし明星岳と思われるすごい岩山も見えてくる。快適快適。
 駒ヶ岳の頂上には数人の先客がいた。頂上からの展望は良。谷の向こうには千丈岳西壁とおぼしきスラブが見え、遠くには明日着く予定の雨飾山も見えている。頂上直下に何かの輝きが見えるのは銀マットを出して昼寝している人でもいるのだろうか? 休憩しているうちに腰に袋をぶら下げた人が通り過ぎていった。きのこ取りの人らしい。

 と、ここまでは絵に書いたようなハイキングだったのだが、ここから雲行きが怪しくなってくる。
 まずは頂上にいた人との会話。
 「天気予報では今日の午後から雪になるそうですよ」
 これを聞いて、ばんざいと喜んでいた人間が約1名。しかし他のメンバーはこんなに天気がいいのに、と半信半疑だったが、そうこうするうちに遠くの空に雲が涌きはじめた。それにここから眺める雨飾への稜線はあちこちに岩稜・やせ尾根を含み、なかなか厳しそうにも見える。あんなところで雪に降られたくはないものである。が、さすがにこれだけのことで敗退を許可してくれるようなリーダーではない、もちろん。
 そして最初の恐怖は駒ヶ岳東峰の下りから始まった。
 あの、道が切れているんですけど。
 岩壁の上で突如登山道がとぎれているように見えるのであった。乗り出してよおく見ると岩壁の途中をトラバースしてゆく踏み跡が付いていた。さらによくみれば鎖もあるようだが、先の方はよく分からない。それでもほかに行く所もないので恐る恐る下りはじめる。
 「もっと気楽なハイキングだと思っていたのに、こんなに厳しいなら来るんじゃなかった」
 という意見も聞こえていたがごもっとも。
 コルに着いて振り返れば、どこを下って来たのかと思うような岩壁がそびえていた(ちとおおげさか)。積雪期ならばザイル無しでは下れないだろうということで意見が一致。
 このさきしばらくはそれほどシビアな所はない。駒の頂上からは鬼ヶ面山の稜線は一方がすっぱり切れ落ちたやせ尾根に見えたが、山腹をトラバースしたせいかたいしたことはなかった(と思う)。それともあれは駒ヶ岳東峰だったのかな?
 駒ヶ岳までの晴天は嘘のように消え去り、かなりの勢いで雲が増えはじめたと思っていたらば、鬼ヶ面山付近から雨が降り出した。鬼ヶ面山は頂上を捲いてしまい、さらに樹林の中で展望が効かなかったせいもあってかあまり印象に残っていない。
 さらに進むと本日のメインイベント、鋸岳への登りになる。この辺りから尾根はしっかり岩稜帯になり鎖あり、はしごあり、すっぱり切れ落ちたナイフリッジありの楽しいルートになる。このはしご、ガイドでは不安定なアルミ梯子となっていたがしっかりした鉄製のものにかけ換えられていた。それはいいのだが結構長いうえに気温が下がって来たので、梯子を登っているうちに手が凍えてしまい、ちょっと恐かった。
 やっと鋸岳の頂上に着いたころにはいつしか雨は雪に変わっていた。ここで
 「へへー、どうだ」と用意の良さを自慢したげにしていたのが若干1名ほどいたようだ。鋸岳頂上は晴れていれば視界は効くはず。しかしちらつく雪と寒気の中でのんびりする気にもなれず早々に下りはじめる。
 下りきった所が雨飾温泉への分岐があるコル。ここで山沢さん達が残していったメモを発見。あちらは稜線上に幕を張る予定とのこと。
 我々の方はこの先の行動を巡っていくつかの意見が闘わされた。リーズナブルと思われたのはとりあえず雨飾温泉に下りて泊まるというもの。寒さの後でつかる温泉は格別のものであると期待されたが、「一度下りると、二度と登ってこれなくなりそうな気がする」とのリーダーの鋭い読みでボツ。
 最初の予定ではもっと先までいってから幕を張ることになっていたが、結局ここで泊まることになった。この判断には少し下った所に水場があると指導標に書かれていたことも、理由になっていただろう。
 なにはともあれ結果的にはこれが正解で、テントを張っているうちに突如それまでの「雪がちらつく」天気から雷付の嵐になってしまった。あたりはみるみるうちに真っ白になってゆく。こんな中で行動を続けていたらほんとにやばいんじゃないかというほどのもの。が、この雪のお陰で水くみには行かずに済んだ。
 テントの中では当然のようにつまみがでるわでるわで、果たして飯を炊くべきかどうかが問題となったのであった。

 翌24日。雪。えー行くんですかぁ、などという雑音は問題とされず雨飾山へと出発した。雪は一夜のうちに20から30センチは積もっていたか。途中に幕を張っているはずの山沢パーティーは見つからず。どうしているのかと思いながらも、それ程心配している訳でもない。
 この雪でプラブーツの別ちゃんは喜んでいるかと思いきや、意外に浮かない顔をしていた。スパッツを持って来なかったので、結局は雪が靴の中に入ってしまうとか。いまいち詰めが甘いのだ。
 笹平を過ぎて、小谷温泉への分岐にザックを置いて雨飾山の頂上を往復する。こんな天気だというのに頂上に行く物好きな人が結構いる。
 寒い寒いといいながら、雪壁状を上り詰めるとそこは頂上だった。残念だったが当然のことながら視界は無し。写真を撮って引き上げる。晴れていれば展望が期待できそうなのだが。
 ザックを回収して小谷温泉に下る。滑りやすい道を下りながら、大勢追い抜いたり擦れ違ったり、いやいやほんとに物好きが多いものだ。まぁ他人のことを言えた義理ではないが。
 途中から雪が雨に変わり、とぼとぼ歩いていってやっとたどりついた温泉で、山沢さん達にばったり出くわした。あちらは嵐の中稜線上に幕を張っていたので、かなり悲惨な目に遭ったらしい。ともかくも全員無事に下山できて、よかったよかった。
 このルート、マイナーなようですが(だからこそ?)スリルがあって楽しいルートでした。積雪期に行ったらば相当シビアなルートになりそうです。合宿などで行ってみるのもいいかも。


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