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槙寄山から三頭山
服部 寛之

山行日 1994年1月30日
メンバー (L)服部、大久保

 1月30日(日) 晴れ
 5時30分 起床。朝食にコーヒー、ベーコンエッグ、トースト2枚。食後脱糞。

 6時15分 車でJR八王子駅へ向け出発。道はガラガラ。白鳥英美子のテープを聞きながら快調に飛ばす。渋滞難所の橋本五差路もあっけなく抜ける。家からここまで50分は今までの最高記録。

 7時15分 約束の8時までは時間があるので、待ち合わせとは反対側の八王子駅南口へ行ってみる。すこぶるうらびれているがその分車が少なく、次回から待ち合わせはこちら側にしようと思う。大キジが出たくなったが駅の便所は改札の中なのでマクドナルドに入る。店内の壁に『今月のおたんじょう会』の表。日にちのところにいくつかのひらがなのおなまえ。貸切で誕生祝いをやるのだという。子供にこんなJUNK FOODを食わせるのさえどーかと思うのに、JUNK FOODで誕生会をやってやるとは親のノーミソ自体JUNKに違いないと思う。子を思う親の愛情とは何だ。

 7時55分 車を待ち合わせの場所につけ、運転席で待つ。オレの正面約20メートルの駅ビル外壁に寄り掛かっている人待ち顔の女がときどきオレを見るが、あまり可愛くないので努めて見ないようにする。

 8時5分 大久保哲が現われる。いつもと代わり映えしないスタイル。坂本さんも来るはずだったが都合が悪くなったので、取り敢えず今日は二人。ワビシイと言えば侘びしい。キラクと言えば気楽。

 9時15分 数馬の蛇の湯着。八王子から秋川街道もその先も先行車もない程ガラガラだった。檜原村本宿を過ぎたあたりから路面に雪が出てきたが、掻いてあるので大したことはない。だが周りはずいぶん積もっていた。ガイドブックにはキャンプ場の駐車場を利用できると書いてあるがそれらしき場所は見当たらず、仕方なく土産物屋の隣の駐車場に停めさせてもらう。足元を見るオヤジは千円もフンダクリやがった!
 その駐車場に面して土産物屋とは反対側に土産物屋以上に立派な水洗の公衆便所があったので、もしかしたらその駐車場は土産物屋の土地ではないんじゃないかと後で思った。

 9時40分 西原峠へ向け出発。先行者3名。大久保哲と会員の人物評価をしながら歩く。尾根をたどる道は緩やかで、積雪15~20センチ。オレはスパッツを着けていなかったが、先行者のお陰で靴の中が濡れずに済んだ。途中で一人抜く。しばらく行くと右手に冬枯れの枝模様を透かして青い空と雪に下塗りされた笹尾根の稜線が見えてきた。

 11時4分 西原峠着。頭上の尾根道をにぎやかな6~7人の集団が過ぎて行ったと思ったら、そこがもう峠だった。着いて1分もしないうちに反対側の上野原の方から元会員の阿部(梨枝子)ちゃんが上って来た。申し合わせたようなタイミングの良さに大久保哲のモートーコールにも驚きが混じる。実は、雪山大好き人間の阿部ちゃんが会を辞めてそろそろ雪山フラストレーションが蓄まっている頃だろうと思って電話を入れておいたのだ。相変わらずの黒いジャージ姿で元気そうだ。槙寄山はわずかな距離なので、3人でそちらへ行って休む。『続・展望の山旅』に載っている槙寄山からの眺望図には奥多摩側が描かれているが、反対側の扇山や百蔵山、富士山や三ッ峠の方が刈り払われていて眺めが良い。今日はすがすがしく空気が澄んでことさら気持ち良い眺めだ。富士の頂上付近に雪煙が上がっていた。

 11時25分 槙寄山を出発、三頭山へ向かう。一旦鞍部へ下りての登り返し。雪が幾分深くなってきた。息を弾ませて急坂を登りきると三頭沢大滝への分岐で、好展望のベンチでおっさんがひとりメシを食っていた。時計を見るともう12時を20分も回っている。おっさんがずれてくれてベンチで一本。その先ひと登りで大沢山。展望もきかないどうということもないピーク。

 12時40分 大沢山から5分で三頭山避難小屋着。ログハウス風な新しい立派な小屋だが、場所柄からして少々大袈裟なかんじがする。30名はゆったり寝れる程の大きさだ。雲取山に新築された小屋と似た造りなので、同じ設計者によるものかもしれない。二人連れの先客がメシを食っている小屋の中でうちらも昼メシにする。阿部ちゃんは『北のラーメン屋さん』を煮る。大久保はせんべいをかじる。オレはレトルトの『永谷園田舎しるこつぶあんうれしい2食分』というのに『サトウの切り餅』を2個投入して温める。EPIがうれしそうに歌う。こころが弾む。
 昼食後小屋の外のベンチで日向ぼっこをしていると、ナンと三頭山の方から堀田さんがやってきた。都民の森から三頭山に登ったがうちらの姿が見えなかったのでもう行ってしまったのかと思っていたとのこと。「いやぁ、遇えて良かった」と大きなカメラを抱えながらにこやかに言う堀田さんには、時々ひょんなところに現われて驚かされる。堀田さんはうちらが登ってきた道を下りて行った。

 14時 三頭山頂着。避難小屋からは15分の登りだった。山頂は広く、端の方で4~5人のパーティーが盛り上がっていた。展望は南西側と北~北東側が開けていて、ご丁寧に写真の展望図が掲げてある。昨秋縦走した石尾根がなつかしく見えている。山頂の標柱を入れて記念写真を撮り、14時20分都民の森の方へ下山する。

 15時 鞘口峠着。三頭山からここまではかなりな急坂が続いていたが、雪のお陰で結構速く下りてこられた。峠から5分程下ると森林館とかいう建物があった。中央が狭い通路で分断された二棟から成り、ひと棟には食堂や土産物屋があったが営業しておらず、事務所があるもうひと棟はこの周辺の森の生態を写真パネルやビデオで紹介する展示館だった。建物の外観はガラス面が大きく取られていて中がよく見えるが、夜には煌々たる光が周囲の森を照らすのではないかと思われた。三頭山から来る途中にはところどころ大きな木にその樹種名やこの辺りで何番目にでかい木だとかいった説明が掲げてあって、残された貴重な自然林だと訴えている割りには尾根を切り開いて見晴らし小屋が作ってあったり、鞘口峠のすぐ下にはスポーツ歩道とかいうアスレチック施設が斜面の森の中を縫って作られていたりして、これが『都民の森』なのかと呆れてしまった。自然林が大切なら人工物など極力排除して健康な森を維持しその姿を人々に見せたらいいのにと思ったが、しかしよく考えてみたらここは都民の森、つまり東京都に棲息しているジンルイたちの森なのであってその展示館に紹介されている木や鳥や動物の森ではないのだと思い至ったら、ナルホド納得の施設なのでありました。
 展示館をざっと見て下りてくると、都民の森入口の駐車場は工事中で、現場のおっさんの忠告に従って待っているとすぐバスがやって来た。乗客はうちら3人だけ。バスはちょうどうちらの車が停めてある数馬が終点で、料金を払おうとしたら運ちゃんは受け取らないのである。乗車したときもキップなしだったので運ちゃんもキップイイのかと思ったら、これは営業路線の終点数馬から先の乗継ぎの足を確保するため東京都が配車している無料バスなのだそうだ。

 16時10分 得した気分で車に戻る。都民の森でしばらく時間をつぶしたので、堀田さんはもう下山して車のところで待っているかと思ったが姿はなかった。数馬は一見合掌造りのような兜造りという独特の構造をもった民家が有名だそうで、阿部ちゃんもかつて職場の旅行でここの兜造りの民宿に泊まったことがあると言っていた。蛇ノ湯と看板がでているのでひと風呂浴びて帰ろうかと思ったら、大久保哲はあまり汗もかかなかったので入らずに帰ろうという。ヤツは年々入湯意欲が減退してきているがこれはいったいどうしたことか。どこかおかしいのではなかろうか。車をころがして捜してみても近くのバス停に堀田さんの姿はなかったので、3人で帰った。


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